AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

現行機種と将来機種のバランス

航空計画管理室
軍属 パトリック・H・メイソン

航空計画管理室は、陸軍の大規模戦闘作戦およびマルチドメイン作戦への対応に必要な新たな能力を構築しつつ、現行機種の即応性および妥当性を維持している。そのためには、航空企業全体との調整を図り、現行機種と将来機種の間の投資バランスを適切に保つ必要がある。この取り組みは、戦場における殺傷性、生存性および機動性の維持、ならびに現行機種の近代化に貢献している。

2019年10月31日、第25歩兵師団閲兵式において、ハワイ州スコフィールド・バラックス上空を編隊飛行する第25戦闘航空旅団所属のアメリカ陸軍機

ウォルター・リューゲン准将が率いるFLV(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)チームは、近代化に向けた重要な取り組みであるFARA(Future Attack Reconnaissance Aircraft, 将来型攻撃偵察機)およびFLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機)において、顕著な進展を遂げてきた。陸軍航空の最優先近代化施策であるFARAは、航続距離、速度、殺傷性、耐久性および生存性を向上させ、敵の防空システムに侵入し、それを無力化する能力を戦闘部隊指揮官に提供しようとするものである。一方、FLRAAは、陸軍および特殊作戦コマンドの現行機種よりも優れた航続距離、機動性および速度を発揮することにより、さらに遠方からの戦力の投射を可能にしようとするものである。

FARA計画においては、既に契約されていた5つのOTA(Other Transaction Authority, その他の取引に関する権限)試作機の中から2機種が選定され、契約の継続が決定された。製造元であるベル・ヘリコプター・テキストロン社とシコルスキー社は、2023年度までに試作機を製造し、試験において「購入前の飛行」を行うことになる。また、任務装備品の統合を含めた兵装システムについても、同時並行的に設計が行われる予定である。今年の後半には、複数の情報提供依頼書が発行され、FARAとFLRAAに共通する任務装備を受注する企業が決定される。これらの迅速かつ効率的な取り組みにより、2030年度には、FARAの部隊配備が開始されるものと見積もられている。

2020年3月には、FLRAAのCD&RR(competitive demonstration and risk reduction, 競争実証およびリスク軽減)プロジェクトに関する契約がベル・ヘリコプター・テキストロン社およびシコルスキー・ボーイング社との間で交わされた。このCD&RR契約は、政府が必要とする情報を業界パートナーから収集し、将来のFLRAA兵装システムの開発および調達に必要な基盤を整備して、リスクの軽減に寄与しようとするものである。2年間のこの契約により、最終的な軍の要求事項と2022年に行われる継続プログラムの決定に資する情報が提供されることとなる。FLRAAの部隊配備は、2030年度に開始される予定である。

MOSA(Modular Open System Architecture, モジュラー型オープン・システム・アーキテクチャ)は、FVLに不可欠な要素である。この設計思想は、コンピューター、無線、センサーおよび自己防護装置の機体システムへの統合を容易にし、マルチドメイン作戦の支援に必要な最新テクノロジーの導入を可能にする。また、拡張性の高いデジタル基盤を提供し、空対空および空対地戦闘を容易にして、進化する脅威への迅速な適応を可能にする。さらには、将来のシステムに生じるリスクを軽減し、現行機種の維持を容易にする。航空計画管理室は、複数の機種に共通する新しい手法や技術を確立し、システムレベルでのMOSAを推進している。このため、FVLの基本設計概念作業部会(Architecture Collaborative Working Group, ACWG)は、現行および将来機種が排他的かつ個別的なアーキテクチャから脱却し、政府により管理された開放的なアーキテクチャへと変革するためのロードマップの実行および維持に努めている。

ALE(Air Launched Effect, 空中発射型UAV)は、FVLの存続に欠かすことができない。ALEは、検知、識別、評定、報告および攻撃能力を有する殺傷性または非殺傷性の無人機をあらゆる戦場において利用可能とし、陸軍航空の到達性および殺傷性を増大する。また、高い拡張性を有する制御インターフェースにより、高度な自律操縦を実現しており、継続的なデータリンクや操作員による操縦を必要としない。現行および将来の陸軍機は、ALEを発射し、敵の空域に進入させて、航空機が搭載しているセンサーの有効範囲外の目標を探索することにより、卓越した能力を発揮し、維持することができるようになる。今年の初め、ALE技術に関する航空及びミサイル技術コンソーシアムのOTA要求に対し、37件の提案書が提出された。現在、それらの提案を評価中であり、2024年までの実用化を目指して、飛翔体、ペイロードおよび任務システム技術の統合が進められている。

FTUAS(Future Tactical Unmanned Aircraft Systems, 将来戦術無人航空機システム)は、旅団戦闘チームが装備するシャドーUASの後継機である。MOSAに準拠したFTUASは、滑走路を必要とせず、ペイロードの入れ替えが可能で、暗号化、チーム化および自律化された近代的なデータリンク能力を有する。現在、6つの旅団戦闘チームにシステムを供給している4つの企業において、比較実証試験が行われている。2021年まで行われるこの実証試験の結果は、FTUASの継続プログラムの要求事項に反映される予定である。FTUASの初期作戦能力は、2025年度に達成される見込みである。

2019年10月22日、ベルギーのキエーヴル空軍基地に駐機中のアメリカ陸軍第3歩兵師団第3戦闘航空旅団所属のCH-47チヌークとAH-64アパッチ。キエーヴル空軍基地は、第3戦闘航空旅団がヨーロッパにおいて太平洋決意作戦(Operation Atlantic Resolve)を支援した際の中継基地であった。

能力の統合

航空計画管理室は、現行および将来システムの能力を適切に管理し、FVLのリスク軽減と能力向上を図りつつ、現行機種の近代化を実現しようとしている。その一例が、ITE(Improved Turbine Engine, 改善型タービン・エンジン)である。T901と命名された3,000SHPのこのエンジンは、現行のT700エンジンの後継として開発されたものである。運用・維持費用が小さく、部隊での修理が可能なモジュラー構造を持つこのエンジンは、機体の推力および航続距離を増加させ、燃料消費を低減させることに貢献する。航空タービンエンジン・プロジェクト・オフィスは、先日、AH-64EおよびUH-60MへのT901エンジンの搭載試験に成功した。ITEは、FARAのエンジンとしても用いられ、2023年度の初飛行までに機体に搭載される予定である。

UH-60Vは、MOSAを導入した最初の現行機種である。UH-60Lを改修したこの機体は、デジタル・グラス・コックピット化により、搭乗員の状況把握を容易にし、航法能力を強化し、安全性を向上させて、マルチドメイン作戦への準備を整えている。この夏には、ソフトウェア最終版の納入を受けて試験を行い、2021年4月に装備化を完了する予定である。この機体の開発は、MOSAの実現に向けた、最初の重要なステップである。

航空計画管理室は、MOSAの価値を最大限に引き出すため、AMCS(Aviation Mission Common Server, 航空任務共通サーバー)の開発を進めている。任務システムのデジタル・バックボーンとして機能するAMSCは、将来の任務システムの迅速な装備化を可能にする。AMCSは、現行のOTAを通じて試作され、サイバーセキュリティを確保したオープン・システム・アーキテクチャを実証して、現行の陸軍機用のリスク軽減および将来機の成長を促進しようとしている。また、FVLの基本設計概念のフレームワークに準拠しており、オープン・システム・アーキテクチャが活用されている。AMCSに関する契約の締結は2020年度第3四半期、実証試験は2021年度第4四半期に予定されている。

機体の近代化

ここまで、分野横断的な能力について述べてきたが、機体特有の能力の近代化にも注目すべき動きがある。

AH-64Eバージョン6は、最新の近代化改修により、新型の多重センサー・システムの装備による目標評定能力の向上、ならびに兵装およびソフトウェアの追加による殺傷性の増大を図っている。ソフトウェアの改善により、搭乗員の状況把握能力の向上、負担の軽減および有人機と無人機の連携の改善が図られている。リンク16軍事戦術データ・リンクは、照準範囲および僚機の配置に関する柔軟性を増大し、操縦士間の射撃調整および統合作戦における相互運用性を向上させている。AH-64Eバージョン6初号機の装備化は、2020年9月に予定されている。

CH-47チヌーク・ブロックⅠは、2021年に装備化を完了し、ブロックⅡの開発も予定どおり進捗している。ブロックⅡへの改修により、現行機種の能力を向上させるとともに、将来機種の発展の余地も得られるようになった。CH-47ブロックⅡの技術の多くは、MH-47GブロックⅡの生産ラインにも適用され、アメリカ陸軍特殊作戦航空コマンドの任務遂行能力の向上にも寄与している。

航空計画管理室の任務は、運用部隊指揮官および同盟国の能力向上に寄与する先進航空能力の設計、開発、供給および支援を行うことにより、兵士および国家に貢献することである。高度な専門的能力を有する要員たちが、今日および将来の戦場において必要とされる先進的能力を提供するため、献身的に業務を遂行している。それは、困難な任務であるが、陸軍、陸軍航空および支援対象の隊員たちのため、日々、努力を継続している。

パトリック・H・メイソン氏は、アメリカ陸軍アラバマ州レッドストーン工廠の航空プログラム・エクゼクティブ・オフィサーである。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2020年04月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

アクセス回数:2,434

コメント投稿フォーム

  入力したコメントを修正・削除したい場合やメールアドレスを通知したい場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。

1件のコメント

  1. 管理人 より:

    Wikipedia上での議論を踏まえ、FLRAAの訳語を「将来型長距離攻撃航空機」→「将来型長距離強襲機」へと修正しました。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/ノート:将来型長距離強襲機