テクニカル・トーク:ウェッジを貼るだけ-ローター・トラッキングの新常識
ローター・ブレード設計技術者のボブ・ロフタスと、ローター動力学の専門家マイク・マクナルティは、25年以上前にボーイング社でアパッチ用複合材メイン・ローター・ブレードの開発に着手する前から、ローター・ブレードのトラッキングをもっと簡単かつ効果的に行い、ヘリコプターの機体に生じるワン・パー・レブ(1回転に1回)の振動を低減する方法について、頻繁に議論を重ねていました。
ボブとマイクは、この課題に対処するための最も一般的な手法、すなわちブレードのトレーリング・エッジ(後縁)に接着された曲げ加工が可能な金属製トリム・タブ(trim tab)の角度を調整するという手法には、いくつかの欠点があると考えていました。たとえばボブは、後端部は飛行中に常に強い負荷がかかる場所であり、そこに金属タブを付けて曲げ伸ばしを繰り返すと、すぐに金属疲労を起こして折れてしまうため、少なくとも1万時間という彼の要求する耐用時間を満たせないことが分かっていました。またマイクは、長年にわたるトリム・タブの調整経験から、ブレードを推奨されるトラックおよび振動の許容範囲内に収めるための、より精密、正確かつ再現性の高い方法を求めていました。二人は共同で「フィールド・インストーラブル・アンド・リムーバブル・ウェッジ」(field installable and removable wedge, 部隊レベルで脱着可能なくさび)と呼ばれる装置を発明し、特許を取得しました。これにより、ヘリコプターの整備員はローター・ブレードのトラッキングと振動の平滑化を、より効率的かつ効果的に行えるようになりました。
ウェッジとは、ローター・ブレードのトレーリング・エッジに装着するランプ(傾斜面)形の器材です。図1に示すように、複数のウェッジを薄い方の端を気流の上流側に向け、厚い方の端をブレードのトレーリング・エッジに合わせて装着します。トリム・タブと同様に、ウェッジはトレーリング・エッジ付近の気流の曲率を変えることで、ブレードの揚力とピッチング・モーメントを変化させます。たとえば、ブレードの下面にウェッジを装着すると、トリム・タブを下方に曲げた場合と同様に、ブレードに機首下げのピッチング・モーメントが生じます。同様に、上面にウェッジを装着すれば、タブを上方に曲げた場合と同様に機首上げのモーメントが生じます。

ウェッジはゴム状のエラストマー(elastomeric)材料で作られており、ブレードのトレーリング・エッジにウェッジを固定する接着剤に生じるひずみを軽減します。整備員はウェッジを必要な長さに切断し、裏紙を剥がして接着面を露出させた後、ブレード上の適切な箇所に貼り付けます。
ウェッジの長さおよびブレード上の貼付位置は、ローター・トラック・アンド・バランス・ソフトウェア(Rotor track and balance software)が算出します。ウェッジは機種ごとのキットとして販売されており、その長さとコード幅はローター・ブレードの寸法に応じて異なります(アパッチ用ウェッジは幅1.25インチ、長さ10インチであるのに対し、チヌーク用ウェッジは幅1.75インチ、長さ12インチです)。ウェッジの取り外しおよび装着に特殊な工具や器材は不要です。
ウェッジは、アパッチ、チヌーク、および一部のブラック・ホーク機を含む陸軍航空機において、15年以上にわたって使用が承認されています。特別な試験および実運用における経験から、ウェッジは極端な高温・低温、乾燥、多湿の環境下でも剥がれることなく、設計どおりの性能を発揮することが確認されています。まれにウェッジがブレードから剥離した事例においても、機体、エンジン、またはテール・ローターへの損傷が確認されたことがありません。ウェッジは定期整備(phase maintenance)の点検時、または必要性が認められた場合に取り外して交換します。
最後に、実運用における経験上、ウェッジを使用することにより、ローター・ブレードのトラッキングおよび航空機の振動を整備実施規定に示された範囲内に収めるための作業を簡素化し、所要時間を短縮できることが実証されています。ウェッジを使用することにより、(タブの曲げ加工と比較して)装着作業に必要な時間を節約できるだけではなく、航空機を推奨される許容範囲内に収めるために必要な飛行回数も削減できると報告した部隊もあります。たとえば、サウスカロライナ州陸軍州兵のアパッチ機に関する研究をまとめた2013年のAHS(American Helicopter Society, 米国ヘリコプター協会)論文において、エリン・バレンタイン(Erin Ballentine)は次のように結論づけています。「ウェッジによるトラッキング精度の向上により、ローター平滑化作業のために実施する整備確認試験飛行のパターン数は1イベントあたり平均1パターン減少する。これはこの機種全体の定期整備における整備確認試験飛行時間を33%削減することに相当する。」
トーマス・L・トンプソン博士は、アラバマ州レッドストーン兵器廠にある米陸軍戦闘能力開発コマンド航空ミサイル・センター、システム即応性部局の空気力学主任技師(Chief Engineer, Aeromechanics)です。
出典:Cut, Paste, and Fly, ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2026年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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