テクニカルトーク:耐着氷性試験(パート1 – 準備)
【訳者注:登場する航空機の役割について】本記事は、耐着氷性試験に向けた「準備段階」を描いています。読者の理解を助けるため、文中に登場する航空機の役割を以下に整理します。
- HISS搭載機 (CH-47F): 人工的な着氷雲を作るために、前方から水を散布する役割を持つ機体です。
- ACME機 (RC-12G): HISSが生成した雲の品質(水滴の大きさや水量)を事前に計測・確認(校正)する機体です。
- 被試験機: 実際に耐着氷性の証明を受ける対象の機体です。本記事の段階(アラバマ州での準備)ではまだ登場せず、後ほど試験地(ミシガン州)で合流します。
秋にアラバマ州ハンツビルを訪れた人は、レッドストーン工廠の上空数千フィートを飛行するチヌーク・ヘリコプターが、機体に取り付けられた巨大なオレンジ色の装置から水を散布している光景(写真)を目にして、首を傾げるかもしれません。
「あれは何ですか?」とその訪問者が尋ねると、事情通の地元住民なら、機体とその後ろにたなびく雲を見ても動じることなく、平然と即答するでしょう。「ああ、あれは陸軍の飛行試験担当たちが、北部で行う耐着氷性試験の準備をしているだけですよ。現地へ行く前に、すべてが正常に動作するか確認しておきたいんでしょうね」
米陸軍レッドストーン試験センター(RTC, Redstone Test Center)の航空試験飛行部局(AFTD, Aviation Flight Test Directorate)に所属する私の同僚、リン・ハンクスとキム・ハンクス夫妻にとって、その光景はあまりにも馴染み深いものです。ハンクス夫妻は、結婚生活28年の大半において、耐着氷性試験のために北部へ向かう日々を過ごしてきました。航空機が着氷エンベロープ(着氷環境下の限界領域)全体を通して安全に運航できることを実証するこの試験は、通常、秋に始まり春まで続きます。天候や機体整備のために長い待機期間が生じることもありますが、キムはこう語ります。「企業の試験チームと共に働き、防氷システムの設計について学ぶのは楽しいですね。それに、ホテルのスタッフも素晴らしく、私たちを歓迎し、家族のように接してくれますから」
1973年に初めて耐着氷性試験を飛行した開発テスト・パイロットのリンと、1997年に初めて同試験を支援した飛行試験技術者(FTE, Flight Test Engineer)であるキムは、春にレッドストーン工廠へ戻るとすぐに、次のシーズンの準備に取り掛かります。試験に向けて、2機の航空機が準備されます。1機はヘリコプター着氷散布システム(HISS, Helicopter Icing Spray System)を搭載したCH-47F、もう1機はHISSが散布する雲の特性を計測する機上雲観測装置(ACME, Airborne Cloud Measurement Equipment)と呼ばれる特別な機器を装備したRC-12G「ACME機(校正機)」です。

1972年にオール・アメリカン・エンジニアリング社が陸軍のために設計・製造したHISSのスプレー・ブームは、貨物室を貫通するクロス・チューブを介して、ヘリコプターの下方約19フィートに吊り下げられています。スプレー・ブームは、5フィートの間隔を空けた長さ27フィートの2本の平行な吊り下げ式セクションで構成され、同心円状の二重金属パイプで作られています。2基の補助動力装置(APU, Auxiliary Power Unit)から供給されるブリード・エアと、貨物室内の1800ガロン・タンクからポンプ圧送される水が、それぞれ外側と内側のパイプを通り、吊り下げ式セクションに沿って配置された100個の噴霧ノズルへと送られます。このシステムは、HISSの散布雲における水滴のサイズ分布が、自然の雲の状態により近づくよう設計されています。ハンクス夫妻とAFTDは、システム内の水と空気の流量、ブームの展張・格納動作、そして緊急時に給水タンクとスプレー・ブームを独立して投棄(ジェッティソン)するシステムが適切に機能するかを確認します。
RC-12G ACME機には、雲の水滴サイズと分布を測定する翼端搭載レーザー粒子サイズ測定プローブ、空気の単位体積あたりの液体質量を測定する液体水分含有量センサー、2つの視覚的着氷付着計、独立した差圧および静圧センサー、全温度プローブ、および露点湿度計が装備されています。主任飛行試験技術者として、キムはこれらのシステムの校正を確認します。これは試験を実施し、結果の信頼性を確保する上で不可欠な作業です。
2機のAFTD所属機の準備に加え、リンとキムは、耐着氷性の証明を受ける航空機を担当する企業や組織のパイロットやエンジニアと連携します。試験条件が認定要件と整合しているかを確認すべく、試験計画について綿密なレビューが行われます。また、自然着氷試験の結果(不足分)は人工着氷試験(被試験機がHISSの後方を飛行する試験)の結果で補完することが認められているため、試験計画には自然着氷と人工着氷、双方の試験ポイント(条件)が含まれています。
準備が完了すると、2機のAFTD所属機はミシガン州の試験場へフェリー(空輸)され、そこでAFTDは被試験機を支援する企業のチームと合流します。
続く2つの記事では、耐着氷性試験がどのように実施されるか、そしてその結果がどのように耐空性当局へ報告されるかについて解説します。
トーマス・L・トンプソン博士は、アラバマ州レッドストーン工廠に所在する航空力学システム即応部局米陸軍戦闘能力開発コマンド航空及びミサイル・センターの航空力学担当チーフ・エンジニアです。
2026年1月31日
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2026年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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