航空事故回顧-AH-64のCFIT(操縦可能状態での地表への墜落)
事故機の機長は、AH-64Eに装備されている新型の暗視センサーを用いたVMC(visual meteorological conditions, 有視界気象状態)で夜間の応急攻撃を実施中、超低空飛行を行いながらCPG(co-piloto gunner, ガナー席の副操縦士)に操縦を交代した。CPGにより機体姿勢が回復困難な状態にされたため、機体は、高い前進速度および降下速度で地面に激突し、搭乗員が死亡、機体が破壊した。
飛行の経過
当該機は、歩兵部隊が前方運用基地を占領するのを支援するため、夜間に接敵飛行を行っていた。当該機の所属するAWT(attack weapons team, 戦闘ヘリ・チーム)の当日の任務遂行時間は、2000から2400に計画されていた。当該機の搭乗員は、1400に勤務を開始した。AWTは、任務ブリーフィングを実施したが、情報が不足していたため、任務の細部については計画できなかった。敵情が不明であったため、任務遂行地域周辺の戦闘陣地に関する地域見積しか行うことができなかったのである。被支援部隊からは、任務遂行時間を2000から0400までに変更してほしいという要求があった。AMC(air mission commander, 空中部隊指揮官)は、その要求を受け入れなかった。搭乗員たちの勤務割り当て時間が超過するためであった。当初使用する予定であった機体に不具合が発見されたため、予備機への変更が必要となった。任務に関する最新情報の入手に努めながら待機していた搭乗員たちは、2320に出撃を指示された。
離陸したAWTは、被支援部隊の所在地近傍に到着し、連携を開始した。被支援部隊からAWTに対し、識別すべき目標が示された。それらは、敵の車両部隊であると考えられていた。編隊の後続機であった事故機は、戦闘隊形へと変換しながら徐々に高度を上げていたが、その後に高度を下げ、地面に激突した。
搭乗員の練度
機長の総飛行時間は1,033時間であり、そのうち連続した飛行時間は91時間であった。CPGの総飛行時間は、226時間であり、そのうち連続した飛行時間は143時間であった。
考 察
低高度における不適切な操縦の交代および不適切なクルー・コーディネーションは、悲惨な結果につながる。操縦の交代が必要な場合、状況を把握するために必要な情報を交換することが不可欠である。本件の場合は、操縦していた機長は、自分の暗視システムに不具合が発生したことを伝達したうえで、CPGに操縦を交代するべきであった。それぞれの搭乗員が状況を把握できていなかったため、安全に飛行を継続するために、どのような対応や反応が予期され、あるいは必要となるのかが分かっていなかったのである。これは、一方の搭乗員が自分の視界に影響を及ぼす不具合に遭遇していたにも関わらず、この情報を前席のCPGに伝えていなかったためである。本事故が発生原因は、この意思疎通の齟齬であった。低高度で運用している最中に目標を見失うことは、DVE(degraded visual environment, 悪視程環境)やIIMC(inadvertent instrument meteorological conditions, 予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)において一方の搭乗員が視覚的補助目標を見失うことに等しい。状況把握に必要な情報を他の搭乗員に伝達することは、その搭乗員が機体の安全な運航を維持するために必要な対応を行うために最も重要なことである。操縦を交代したパイロットが機体を適切な飛行諸元に保ち、CFIT(controlled flight into terrain, 操縦可能状態での地表への墜落, シーフィット)を防止するためには、このような追加的な情報が必用なのである。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2018年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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3件のコメント
CFIT(controlled flight into terrain, 操縦可能状態での地表への墜落, シーフィット)という用語には、今まで聞いたことがありませんでした。「操縦可能状態での地表への墜落」よりも適切な訳語があれば、教えてください。
サイトの運営お疲れ様です。
いつも興味深く拝見させて頂いております。
何かの読み物の記憶で申し訳ありませんが、CFITの概念は、パイロット、機体にこれといった異常がないのに衝突する事故であったと思います。
訳語としては今のままで良いように思います。
返信が遅くなり、申し訳ありませんでした。CFITの概念についての情報提供、ありがとうございました。