アパッチの航空事故発生状況
今月号の「フライトファックス」では、戦闘活動及び訓練の双方において過去5年間に発生したAH64事故の主要原因を特集します。「自分が同じような状況に遭遇することがありうるか?」と自問自答しながら読んで下さい。これらの事故が発生した原因と環境の理解を深めるため、悲惨な教訓を操縦ブリーフィンや教育の場で他の操縦士と議論していただければと思っています。また、これらの事例をシミュレーター訓練において活用し、同じような状況に直面した場合に各クルーが何をすべきなのかを飛行前に議論し、良好なクルー・コーディネーションを確保することも重要です。
それでは、来月まで、リスク・レベルの管理が適切に行われ、安全な飛行を続けられることをお祈りします。
2010年度から現在までの約5年間(飛行時間960,000時間以上)で73件のクラスA-CのAH-64の事故が報告されている。クラスAの事故は17件、クラスBは12件、およびクラスCは43件発生し、損傷や負傷で1,872億ドルの損害が発生し、5名が死亡した。これらの事故の調査結果によれば、事故の主因は、70%がヒューマン・エラーであり、器材上の要因が25%、環境要因及び原因不明のものが5%(2件のバード・ストライクによるクラスC事故、1件のクラスB事故及び1件のクラスC事故が報告未了)であった。比較的発生頻度の大きいタイプの事故は次のとおりである。
パワー・マネジメント
ヒューマン・エラーに起因するクラスA事故のうちの12件は、パワー・マネジメントまたは激しい機動を伴う飛行が原因であった。さらに2件のクラスB事故及び2件のクラスC事故も、これらが原因で発生している。これらの事故には、パワー・マージンが制限される高高度及び重荷重状態での運用中における理解の不足及び不適切な状況判断が関係している。搭乗員の状況認識は、このタイプの事故の主要なリスク軽減要素である。ここでいう状況認識には、適切な飛行前及び飛行中の任務計画、必要馬力に関する搭乗員の理解、航空機の性能発揮に影響をおよぼす環境条件の把握、及び厳しい状況下における適切な安全マージンの確保が含まれる。パワー・マネジメントに関連するいくつかの事故の概要は次のとおりである。
事例1
AH-64DでVMCで飛行中にNVSを使用し、平均海面高度12,200フィートのピナクル又は稜線上の着陸地点にアプローチを行っている最中に、また地面効果が得られない状況において、航空機の対気速度計が転移揚力を得られる速度よりも減少した。航空機のローター回転数が低下し、機体は沈下し、地面に激突した。航空機は破壊され、2人の搭乗員が負傷した。
事例2
山岳地帯での偵察任務を実施中、操縦士が急激な右旋回を実施したところ、航空機は地上70フィートで真対気速度34ノットに減速した。ローター回転数がドループし、航空機は動力飛行を維持するのに必要な速度と高度を失った。航空機は、切り立った壁のような渓谷に降下し、地面に激突した。機体は破壊され、1名の搭乗員が致命傷を負い、1名の搭乗員が重傷を負った。
事例3
搭乗員の報告によれば、燃料再補給を実施後、後方風を受けて速度及びローター回転が低下し、テール・ローター効果を喪失した。航空は、降下して地面に激突・横転し、左側面を下にして停止した。搭乗員は、軽度の外傷を受けただけで脱出することができた。
事例4
FARPから離陸中、AH-64Dは、OGE出力が得られない状況でOGE状態からの離陸を実施した。機体は、前方運用基地の境界の外で一旦降下したところ、ブラウン・アウト状態に陥り、ワジ(雨季以外は、水のない川)の底に激突した。衝撃により、航空機の右前方ストラット及び右ウイングが損傷した。
物件との衝突
73件の事故の内、6件が樹木への衝突であり、その内2件がクラスAの損傷をもたらした。他の物件との衝突としては、3件の気球の係留索との衝突(クラスB)及び1件のワイヤー又はケーブルとの衝突(クラスA)が発生した。航空機による物件との衝突の例としては、次のような事故があった。
事例1
2機編隊の2番機であった当該機は、飛行任務訓練を実施中に雑木林に降下し、墜落した。搭乗員は、治療可能な負傷をして救出されたが、航空機は、破壊されたと報告されている。
事例2
NVSを使用した制限地での運用を実施中、航空機が樹木方向にドリフトした。航空機は、側面を下に横転し、クラスAの損傷を受けた模様である。
事例3
昼間の低高度の地形に沿う飛行を終了し、搭乗員は航空機のエンジンを停止し、飛行後点検を実施していた。点検の結果、4つのテール・ローター・ブレード及びスタビレーターのすべてに植生との衝突を発見した。テール・ローター・ストライクが発生した正確な位置と時間は不明であった。(クラスC)
事例4
地上50フィート、真対気速度111ノットの昼間の超低空匍匐飛行を実施中、事故機の搭乗員は、川を超えて張られていた1インチのフェリー牽引ケーブルに衝突した。航空機は、ケーブルを前方スクリーンの中央部に衝突させ、射手席を真っ二つにし、前方キャノピーに重度の損傷を与えた。機長が致命傷を負った。
整備ミス
事例1
No.5テール・ローター・ドライブ・シャフトを再取り付けする際、整備員は適切なトルクをかけず、じ後のNo.5テール・ローター・ドライブ・シャフト・ボルトの点検でも発見できなかった。その結果、第5テール・ローター・ドライブシャフトが後方のハンガー軸受けカップリングを振動させ、せん断させた。航空機は墜落し、機体に重大な損傷を与えた。
事例2
コックピット内で煙が発生したため予防着陸を実施中、エンジンのトルク出力がコレクティブ・ポジションに追従しなくなった。着陸中のある時点で、ローター・ヘッドの一がずれ、トランスミッションにより駆動されなくなるとともに、コレクティブ入力に反応しなくなった。航空機は、ロール方向には水平、約13度の機種上げで、約9Gの衝撃で主要構造部材に損傷を与え、前方席の副操縦士を負傷させた。製造時のメイン・ローター・ハブ・ナット・リテンション・リングのオーバートルクにより、不適切なベアリングの締め代をもたらし、致命的なベアリング損傷及びスタティック・マストの加熱を生じさせた。マストが加熱されたことで、ローター・ヘッドの分離を生じさせ、ピッチ・コントロール・リンクだけで保持されている状態となった。
事例3
整備確認飛行を実施中、対地高度9,200フィートでトップ・エンド・チェックを実施していたところ、115VACを窒素不活性化ユニットに供給する配線束が摩耗し、機体フレームとの間に電気アークを発生させた。当該配線束の不適切な取付に起因する配線束の不具合は、摩擦テープを使用しなかったためにフレームと接触により発生したものであった。電気アークは、近傍の作動油の温度を上昇させ、引火点を超えさせて、作動油配管及び機体に損傷を与えた。
器材に起因する事故
事例1
搭乗員は、夜間飛行を実施中、No.2ジェネレータのベアリング不具合により引き起こされたコックピット内で煙の匂いに気づいた。緊急着陸を実施中、コックピット内の電力供給が停止し、NVSが作動を停止した。砂塵が舞い上がりやすい環境で、航空機のメイン・ローター・ブレードが地面に接触し、機体は横転した。
事例2
搭乗員は、夜間のNVG及びフード訓練を実施していたところ、5フィートのホバリング中に意図しない操縦入力に遭遇した。航空機のメイン・ローター・システムが地面に接触し、機体にクラスAの損傷が生じた。
事例3
コレクティブを最低位置にしてから、ローター回転数100%、エンジントルク17%で地上運転中、AH-64Dにマスト・ベース・サポート・アセンブリの高サイクル疲労破壊が発生した。メイン・ローター・システム及びマストは前方に傾き、メイン・ローターが機体前部に接触した。マストは、地面に接触し、機体前方で回転し、ローター・ブレードが機体前部及びガナー/副操縦士席部分に衝突した。メイン・ローター・システム及びマスト・アセンブリは、機体の左前方に横たわり、機体は右武装パイロンのロケット・ポッドを下にして横転した。副操縦士/射手は、致命傷を負い、機長は重傷を負った。
事例4
昼間の偵察任務を実施中、飛行中にメイン・ローター・システムに致命的な損傷が発生した。航空機は墜落し、2名が死亡した。
その他
事例1
航空機は、視界不良のIMC状態に遭遇し、既知の障害物を回避するため、上昇を開始した。操縦していない方の操縦士が、左側に地形があると言った。操縦を行っていた操縦士は、その左側の地形を回避するため若干の右旋回を行ったところ、右側の地形に衝突した。搭乗員は、前進速度を減ずることなく、残りの障害物を回避し続けた。雲中から脱出した後、基地に帰投して着陸した。(クラスC)
事例2
前方運用基地に着陸するため、降下している最中にローター回転数が132%を超過した。搭乗員は、それ以上の損傷なく着陸することができた。航空技術部(Aviation Engineering Directorate, AED)は、構成品交換が必要であると判断した(クラスB損傷)。
事例3
No.1エンジン・ナセルが開放状態のままにされていたため、航空機の燃料補給中に損傷した。搭乗員は、ナセルのラッチが適切に固定されていることを確認していなかった。ナセルの交換が必要となった。
事例4
運用支援のため、FLIRを使用した夜間飛行中、副操縦士のパワー・レバーが故障し、副操縦士が操作していないにも関わらずロック・アウト状態になった。その結果、メイン・ローターは最大111%、No.2エンジンは最大131%に達し、搭乗員はNpオーバー・スピードに対する緊急操作手順を実施した。搭乗員は、安全に航空機を元の状態に戻し、基地に緊急着陸を実施した。負傷者はなかった。パワー・レバーの故障の原因は、パイロット・クオードラントに侵入した「オレンジ色のネバネバした物質」(ソーダをこぼした疑いがある)であった。この異物は、パワー・レバーがフライ・ポジションにしっかりとセットされることを妨げ、不意なロックアウト状態を引き起こした。この飛行前の液体(疑われたソーダ)が、当該飛行前のどの時点かにおいて、操縦席のパワー・レバー・クオードラントにこぼされ、適切に報告されないか、または適切に洗浄が行われなかったことが、不安全を引き起こし、緊急事態を発生させた根本的な原因である。
事例5
1番機の搭乗員は、僚機とともに攻撃訓練を実施していたところ、付近で目標の航空偵察を実施していた2番機と接触した。双方の航空機は、不時着したが、搭乗員は特に負傷を負わなかった。双方の航空機が修復可能なクラスAレベルの損傷を受けた。
要 約
32件(44%)の事故は、夜間のNVS訓練中に発生した。34件(47%)は、「不朽の自由作戦」又は「イラクの自由作戦」で発生した。これら73件の事故には、上述のもの以外に、 開いたままのカウリングが幾つか行方不明となり、インレット・カバーのが取り付けられたままでのエンジン始動、パワー・レバーを引いたままでの航空機の機動によるシングル・エンジンのオーバー・トルク、DECUの誤作動又は訓練によるNp/Nrオーバー・スピード等が含まれている。すべての機種に共通なことであるが、航空事故の主たる発生要因は、引き続きヒューマン・エラーである。任務の確実な遂行のためは、各個訓練及び完熟訓練の双方において、訓練及び完熟に関する人的要因の問題に取り組み、任務遂行に必要な規律とプロ意識を明示することが重要である。
“A crude measure of the right thing beats a precise measure of the wrong thing.” John Carver
正しいことの概ねの方法は、誤ったことの正確な方法に勝る。(ジョン・カーバー)
訳者注:米国陸軍の航空事故の区分(2013年11月改正)は、概ね次のとおりです(AR 385-10)。
クラスA- 200万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 50万ドル以上200万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 5万ドル以上50万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2万ドル以上5万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE aviation accident- 5千ドル以上2万ドル未満の損害を伴う事故
クラスF aviation incideent-回避困難なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷を伴う航空インシデント
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2014年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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