航空事故発生状況-AH-64 テール・ローター・ギアボックス
当該AH-64Eは、デジタル多目的射撃訓練場(Digital Multi-Purpose Range Complex)において、20発の零点規制射撃を昼間に完了し、第5習会射撃を実施するため機長の操縦により対地高度142 フィートでホバリング静止していた。機長および副操縦士兼ガナーに異音が聞こえた後、直ちに右ヨーイングが始まった。機長は、右ヨーイングを止めるため、左ペダルを踏み込んだ。右ヨーイングの速度が増加したため、機長は左ペダルを最大限まで踏み込み、コレクティブを減じた。このため、機体は垂直降下を始めた。機体が完全に1回転した後、2回転目が終わる直前には、コレクティブを一杯に引いて衝撃を和らげようとした。機体は、左に傾いた急斜面に墜落した。メイン・ローター・ブレードが山側斜面に衝突し、テールブーム・アセンブリが破壊された。胴体は、直立状態のまま右方向に回転し続けた。衝撃により火災が発生し、航空機は大破した。搭乗員2名が軽傷を負った。
発生要因:
テール・ローター・ギアボックスのインプット・リテーナー(リテーナー・ベアリング)が破損したため、機体の制御が不能になった。
a) 補給所または野整備段階のいずれかにおいて不適切な整備が行われたため、テール・ローター・ギアボックスのインプット・リテーナー (リテーナー ・ベアリング) に不具合が発生・進展した可能性がある。
b) 当該インプット・リテーナー(リテーナー・ベアリング)は、テール・ローター・ギアボックスの補給所整備作業要求に従い、2015年に実施されたテール・ローター・ギアボックスのオーバーホール中に再取り付けされていた。また、2022年に当該作業要求に示された作業項目に関連する航空機等技術指令を実施中に、再度、再取り付けが行われた。
c) 当該インプット・リテーナー(リテーナー・ベアリング)に同様の不具合が発生した記録はない。
再発防止対策:
a) 整備作業は、すべての整備段階において、示された手順および要領で実施されなければならない。指揮官は、該当するすべての手順が適切に実行され、検証され、実行されたことを確認しなければならない。
b) 発行された航空機等技術指令書に示された整備作業は、IETM(Interactive Electronic Technical Manual, 電子マニュアル)に記載されている手順とは異なる場合がある。整備作業実施者は、各作業項目手順のダブルチェックを励行しなければならない。
問題点:
a) テール・ローター・ギアボックス内部の重要な構成品において、発見困難な不具合が進捗。
b) いかなる兆候や警報もなく不具合が発生。
c) 補給所整備作業要求を実施した整備員の不注意。
d)補給所整備作業要求レベルの整備作業を実施する整備員の経験不足。
e) 品質、工程および検査管理プログラムの不適切。
f) 射撃訓練場を飛行する実弾搭載機に事故が発生した場合の消火体制の不十分。
処置・対策:
a) 常に集中力を維持し、適切な整備作業項目に従った整備作業の段階的な実施
b) 航空機等技術指令書が承認・発行された場合の上級整備員による実行の確認
c) 締め付け時の締め付けトルク値などの手順の再確認の励行
d) 指揮官による品質管理プロセスおよびその手順の確認および検証
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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