AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

AH-64のフォーストリムの使用

上級准尉4 アンドリュー・ウィーガンド
DES(Directorate of Evaluations and Standardization, 評価標準化局)
攻撃部門(AH64E/D)整備審査官

AH-64の飛行制御システムは、パイロットの飛行を支援し、そのコックピット内でのワークロードを軽減するように設計されている。最近のクラスA事故のデータおよび実験飛行試験結果(10月10日に「AH-64Eの予期しないヨーイングに関する研究」がレッドストーン工廠アメリカ陸軍試験センターの航空飛行試験局から発表されている)によれば、多くのパイロットがヘディング・ホールド・モードを理解できておらず、フォース・トリム・システムを正しく使用できていない。フォース・トリムを適切に使用できていない場合、予期しないヨーイングや意図しない操縦操作を誘発し、航空機の損傷や人員の負傷をもたらす可能性がある。(ただし、AH-64Eにおける予期しないヨーイングの発生原因は、飛行制御システムの不適切な使用だけではない。)この記事の目的は、SCAS(Stability Command Augmentation System,安定性制御増強システム)、SAS(Stability Augmentation System, 安定性増大システム)、およびフォース・トリム・システムの機能とそれらの相互関係を明らかにし、パイロットによる機体制御の維持および予期しないヨーイングの発生を抑制することにある。

FMC(flight management computer, 飛行管理コンピューター)は、SCASを介してパイロットの操縦操作を入力しており、コレクティブ、ロール、ヨー軸で10%、ピッチ軸で20%のオーソリティ(権限)を有している。SCASは、ホールド・モードや安定性および制御の増強などの機能を可能にしている。パイロットはフォース・トリム機能を介してこのシステムと相互に作用しあっている。(フォース・トリムを解除することで)飛行制御へのFMCからの入力が中断され、SASスリーブがサーボアクチュエータの中心に配置されなければ、SCASによる完全な制御はできない。

今回得られたデータおよびパイロットの操作から、パイロットは飛行中、フォース・トリムを解除することなく重要な操縦操作を行っていることが判明した。この要領で飛行することは、マグネチック・ブレーキやフィール・スプリングにより操舵力が増大するだけではなく、予期しないヨーを発生させる可能性がある。40ノット未満で飛行している場合、フォース・トリムを解除しない限り、ヘディング・ホールドが機能する。高速飛行(40ノットを超える)から低速飛行(40ノット未満)へ減速する際—例えば、OGE(Out-ofGround Effect, 地面効果外)ホバリングへのアプローチを行う場合—には、ヘディング・ホールドが搭乗員に通知されることなく作動する。

パイロットがフォース・トリムを解除せず、方位を維持するための適切なペダル操作を行わない場合、SASが飽和状態となり、パイロットが回復手順を行わない限り方位を維持できなくなる可能性がある。この場合、ATT(姿勢)またはALT(高度)ホールド・モードがオフの状態では、ヨー軸に関する「SAS STATURATED(飽和)」が表示されず、警告音も鳴らない。SASが飽和すると、方位の維持するためのヨー方向のSAS入力が不足し、(通常、右方向への)ヨーイングが始まる。IGE(地面効果内)またはOGE(地面効果外)ホバリング出力を満たすために必要な出力を発生させている間に、ヨー方向のSASがその限界(つまり、飽和状態)に達している状態で、機体の降下を止めようとしてコレクティブを引くと、右ヨーイングがさらに加速する。この場合、パイロットはペダルを踏んでヨーイングを停止するように反応できる準備ができていなければならない。 さもなければ、回復不能なプロファイルまでヨーイングが加速する可能性がある。

以上のことから、操縦装置を操作する際には、FTR(フォース・トリム・リリース)スイッチを作動させる(押す)ことが推奨される。パイロットはFTRスイッチを押し、操縦装置を所望の位置まで操作した後にFTRスイッチを放すべきである。航空機を操縦する際には、FTR の操作を継続的に行う必要がのである。この操作要領を行うことには、複数の利点がある:1. パイロットがFTRスイッチを押すとマグネチック・ブレーキが解除されるため、操縦装置の操作が容易になる。2. SASが中心に戻るため、SCASにより大きなオーソリティーを与えることができる(SASは、3〜5秒で中心に戻る)。3. FMC(フライト・マネジメント・コンピューター)から飛行制御装置に送られる制御信号を中断できる。結果的には、この操作要領を行うことでSASの飽和を防ぎ、パイロットの作業負荷を軽減できるのである。

パイロットは飛行制御システム、その機能、そして自分の操作がシステムにどのように影響するのかを理解していなければならない。基本的には上記の要領が推奨されるものの、最も重要なのはパイロットの判断である。ホールド・モードが作動している場合、計器気象状態で飛行している場合、またはホバリング・ペダル・ターンを行っている場合など、この要領を用いる必要がない場合もある。パイロットは常に航空機を制御できている必要があり、そのためには飛行制御装置を適切に操作できなければならない。パイロットによる航空機の状態監視が不十分な場合、SCASシステムやホールド・モードへの過度の依存は危険をもたらす可能性がある。予期しないヨーイングに遭遇した場合には、ペダル操作でヨーを修正しなければならない。ヨーの制御が困難になった場合には、STACOM 24-04に記載された回復手順を行わなければならない。航空飛行試験局が発表した「AH-64Eの予期しないヨーイングに関する研究」は、DESのSharePoint(USAACE評価標準化局 – ホーム)のナレッジ・シェアリング・フォルダ(訳者注:一般には公開されていない。)に掲載されている。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年11月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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