極寒が機体部品に及ぼす影響
1986年1月に打ち上げ直後に爆発したスペース・シャトル「チャレンジャー号」のことは誰もが覚えていることだろう。通常は温暖なフロリダを襲った厳しい寒さが、右側のソリッド・ロケット・ブースターに使用されていたOリングの弾性を低下させ、高温の排気ガスが漏れ出す原因となったのである。あらゆる科学技術が駆使されていたにもかかわらず、チャレンジャー号はたった1つの単純なOリングに対する低温による影響の犠牲となった。当然のことながら、貴官が操縦する機体にも、寒冷気象が悪影響を及ぼす可能性がある。
気温が急激に低下すると、空気やハイドロリック・フルード(作動油)の漏れが増加する。低温下ではOリング、シール、ガスケットの柔軟性が失われ変形するため、ハイドロリック・シリンダーやアクチュエーターからフルードが漏れやすくなる。また、ハイドロリック・フルード内の氷の結晶がシール材を損傷させる場合もある。さらに、空気配管のシールや接続部が異なる収縮率で収縮するため、空気漏れも発生しやすい。
寒冷気象下では、機械および油圧制御系統の動きが鈍くなる。規格外の潤滑油は、温暖な気象では適切に機能しているように見えていても、気温が下がると硬化し、ベアリングの作動により大きな力が必要になる原因となる。
結露により、燃料タンク内に水分が蓄積する。特に、満タンに保たれていない燃料タンクで発生しやすい。この水分が凍結すると、フィルター、燃料配管、バルブなどを閉塞させる恐れがある。
油圧アキュムレーターの圧力は外気温度によって変化するし、ローター・ダンパー・ベント・バルブには温度制限がある。こういった要因により欠かせないものとなるのが、マニュアルに従った整備および運用である。
整備マニュアル(整備実施規定)や運用マニュアル(取扱書)に規定された手順の多くは、過去の苦い経験から得られた教訓事項の結果として編み出されたものである。したがって、部隊が温暖な環境からより寒冷な環境へ移動する際には、全要員がマニュアルを注意深く見直し、新しい環境に合わせた処置を確実に行うことが重要である。
露出したハイドロリック・ピストン(航空機の降着装置や動翼を動かすための油圧シリンダーから伸び縮みする「ロッド」と呼ばれる棒状の可動部分)を拭き取ったり、航空機を十分にプリ・ヒーティング(移動式ヒーターからエンジンルームやトランスミッション、キャビン内に熱風を送り込み、機体全体を物理的に温める作業)したりといった単純な処置が、極寒の気象に関連する問題を軽減するのに役立つ。
マニュアルには、これらの作業を基準どおりに行うための具体的な指針が含まれている。整備マニュアル(整備実施規定)や運用マニュアル(取扱書)に加え、『TM 55-1500-204-23: 航空機一般整備マニュアル』は寒冷地での運用において優れた参考資料となる。その第10章(極地、砂漠、および熱帯整備)には、寒冷気象による悪影響を防止するための手順の概要が説明されている。
極低温による悪影響に適切に対処するための鍵は、計画と準備である。何をすべきかを知り、それを行うための装備(器材)を保有することが、安全な寒冷地運用のために極めて重要なのである。
連絡先: 曹長 ルーベン・ブルゴス, 航空システムおよび調査部、DSN (Defense Switched Network, 国防省電話交換網) 558-3703 (334-255-3703), burgosr@safety-emh1.army.mil
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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