AH-64およびUH-60のNPオーバースピード保護機能について
フライトファックス・フォーラム(論説、意見、アイデアおよび情報コーナー)
(本記事は、専門家による議論を活発化させることを目的としたものであり、米陸軍または米陸軍コンバット・レディネス/セーフティー・センターの見解を示すものではない。)
新コーナーへようこそ!このフォーラムは、フライトファックスへの定期掲載を予定しています。その目的は、フライトファックスの執筆者および読者に対し、航空安全に関し、読者の視点に立ったアイデア、関心および見識を公開するための手段を提供することにあります。皆様の投稿をお待ちしています。
あるAH-64Dがレデイネス・レベル(パイロットの訓練練度)向上のため、DECU(デジタル・エンジン・コントロール・ユニット)のロックアウト手順/操作を訓練していたところ、NR(ローター回転速度)超過およびエンジン・アウトの警報が作動した。パイロットは、シングル・エンジンで滑走路に着陸した。MDR(Maintenance data recorder, 整備データ・レコーダー)に残された記録から、NRが120%に到達していたことが確認されたため、MRS(メイン・ローター・システム)の交換が必要と判断された。報告された見積修理費用は、332,000ドルに達した。
上記事故の細部発生状況を確認するまでもなく明らかなことであるが、当該AH-64Dは、DEC(デジタル・エレクトリック・コントロール)のロックアウトを行う際にパワー・レバーが減速方向に適切に操作されなかったため、エンジンのNp(パワータービン回転速度)(およびそれに連動するローター回転速度)がオーバースピード防止機能の作動設定値に達してしまったものと推定される。オーバースピード防止機能が作動すると、エンジンはシャットダウンするように設計されている。エンジンがシャットダウンしてしまった場合、シングル・エンジンで着陸し、訓練を中止し、整備を実施して機体の損傷状況を把握しなければならない。前述の事例の場合は、機体に重大な損傷が生じてしまっていた。
AH-64Dの取扱書には、次のように記述されている。「Npがオーバースピードした場合(Npが119.6±1%に到達もしくは超過した場合)には、701CエンジンのDECからの信号により、ODV(オーバースピード・ドレン・バルブ)が閉じ、エンジンへの燃料供給が遮断され、エンジンがフレームアウトする。この際、自動再始動は行われない。
ここで、注目すべき事項が2つある。
1つ目は、同じ701Cエンジンを装備しているUH-60Lの場合、オーバースピード機構が作動してエンジンがシャットダウンしNpが設定値よりも低下すると、エンジンの再点火が行われ、手動でエンジンを制御できるようになるまでそれが繰り返されるようになっている、ということである。このような自動再点火を行う安全機能が、なぜ、すべての機体に装備されていないのか、私には適切な理由を見出すことができない。
UH-60Lの取扱書には、次のように記載されている。オーバースピード保護機能は、パワータービンが破壊に至るような過回転に達することを防止するものである。この機能は、#1エンジンまたは#2エンジンが120%±1%に達した場合に作動するように設定されており、燃料供給を遮断してエンジンをフレーム・アウトさせるようになっている。回転速度がオーバースピードの制限値よりも低下したならば、エンジンへの燃料供給が再開され、エンジン再点火装置が作動し、エンジンを再起動させる。この行程は、オーバースピード状態から回復するまで繰り返されるようになっている。
2つ目は、A型のブラックホークが導入されたとき、そのオーバースピード保護機能の作動値は、約106%に設定されており、オーバースピード保護機能が働けば、NpやNrの許容値を超えることがないようになっていた、ということである。これは、素晴らしい機能であった。パワーレバーがディテント位置(レバーが一旦停止する引っ掛かり)を超えて操作されても、オーバースピードになる心配がほとんどないのである。パイロットは、単にパワーレバーをリセットするだけで、飛行を継続することができた。危険な状態や、操作の誤りが発生する可能性がほとんどなかったのである。(訓練ではなく)実際に不具合が発生してエンジンが過回転した場合においても、NpまたはNrが106%に達することを繰り返すだけで、問題なく飛行を継続し、その間にエンジンの制御を回復することができた。
しかし、その後、問題が生じた。UH-60Aに代わってUH-60Lが導入された際、搭載されているT700エンジンがより大出力の701Cエンジンに換装されることになったのである。新型エンジン搭載に伴い、オーバースピード保護の設定値が106%から120%に変更されてしまった。このため、この記事の最初に述べた事故のようにNpの過回転が発生した場合、オーバースピード保護が作動するのは、既に許容値を超過した120%に達してからになるため、訓練を中止し、整備を行わなければならなくなったのである。
これまで、701Cへの換装にあたって、オーバースピード保護機能の作動設定値が120%に変更された理由を、自分よりも知識の豊富な人に聞いたことが何回もある。しかし、彼らのほとんどは、「分からない」というジェスチャーをするだけだった。
そこで、AH-64が自動再点火機能を有していないことを踏まえつつ、自分自身で理論を組み立ててみた。まず、オーバースピード保護が106%に設定されている場合、エンジンがシャットダウンするまでの間に、パイロットが過回転の不具合や操作ミスに対応するための時間が十分に得られない。よって、再点火機能がない場合には、オーバースピード保護機能の設定速度を高くすることでエンジンを制御を回復するために必要な時間を得られるようにすることは、理にかなっているのである。オーバースピード保護機能の作動値が120%に設定されるようになったのは、このためであると考えられる。その際、UHとAHの701Cエンジン用DECの共通性を維持するため、元々は低く設定されていたUH-60のオーバースピード保護機能の作動値も高く設定されるようになってしまったのである。
では、このことから考えるべきことはなんであろうか?30年以上前にこの考えに至るべきであったと思うのだが、UH-60のDECが有している自動再点火機能をAH-64のDECにも追加するとともに、オーバースピード保護機能がすべての許容値を超えない値で作動するように設定すべきなのである。この改修を行うことによって得られる安全性の向上、訓練の容易化および整備費用の削減の効果は、それに必要な費用に十分見合うものになるのではないだろうか。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2014年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。 掲載の写真は、訳者が追加したものです。
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4件のコメント
エンジンのパワータービンが過回転すると、メインローターが過回転し、破壊する可能性があります。このため、UH-60およびAH-64に搭載されているT700には、過回転となった場合に自動停止する装置が各エンジンに装備されています。
T700エンジンは、通常はDECでエンジン回転数を自動制御していますが、これが故障した場合にパイロットが手動でオーバライドできるようになっています。そのために行うパワーレバーの操作が「ロックアウト」と呼ばれています。
AH-64のNR限界は110%であり、60より低いので、再点火装置による飛行継続は好ましくありません。
なるほど。ありがとうございます。