基本に立ち返る:クルー・コーディネーションの重要性

2024年7月、所在駐屯地で射撃訓練を行っていたMQ-1Cが着陸しようとしていた。当該機のATLS(Automatic Take-off and Landing System, 自動離着陸システム)は、気圧高度(ALT-MSL)とGPS高度(ALT-GPS)の読み取り値の不一致により、着陸を2回にわたって中断した。3回目の着陸において、オペレーターはATLSの中断機能を手動で無効にした。当該機は滑走路の手前に接地し、前部降着装置を折損し、胴体着陸した。
特定の条件、特に高温環境下においては、ATLSが自動中断機能を作動させることがある。これは、ALT-MSLとALT-GPSの値が、プラスマイナス100フィートの差のしきい値を超えた場合に発生する。
技術マニュアルの緊急操作手順には次のように記載されている。
ATLS中断-気圧/GPS高度-:
・原因:気圧とGPSの差が100フィート以上。
・処置:オートパイロット・センサー不良の手順を参照せよ。
・このコーションは、中断機能が作動し、航空機が接地地点から3,000フィート以内にある場合に表示される。オペレーターには、オートパイロット・センサー不良の緊急操作の実施が求められる。
オートパイロット・センサー不良の手順:
・APセンサー:オート・ベリファイ(Auto-Verify)
・速やかに着陸
この緊急操作手順には、システムが着陸を自動的に中断する状態において着陸する方法が記載されていない。ただし、着陸チェックリストの最終ステップには、必要に応じて中止機能を無効にするように指示されている。
MQ-1C部隊においては、ステア・ステッピング(stair stepping:階段状の調整)として知られるテクニックが一般的に使用されいる。これは、高度の読み取り値が着陸パラメータを満たさない場合に、高度計を手動で少しずつ調整するものである。最終進入において、オペレーターはALT-MSLとALT-GPSを注意深く監視する。それらの値の差がプラスマイナス100フィートのしきい値に近づいた場合には、高度計を0.01刻み(約10フィート)で手動調整し、読み取り値を制限内に維持することで自動中断機能の作動を回避することができる。
このテクニックは技術マニュアルやチェックリストで指示されているものではないが、システム・ロジックによる不具合を回避するため、MQ-1C部隊内では事実上の標準的な手順となっていた。事故発生部隊に対するDES(Directorate of Evaluation and Standardization, 評価標準化局)の指導では、チェックリストおよび技術マニュアルからのいかなる逸脱も排除することが推奨された。当該部隊は、ゼネラル・アトミックス・プログラム管理事務局から、この状況における最新のチェックリスト手順を確認した。
当該機のオペレーターは、着陸失敗を2回繰り返した後も、フライト・オペレーション(運航指揮所)に異常を通知していなかった。エアクルー・コーディネーションに関する年次訓練ではシェルター内でのチームワークが強調されるが、UAS(Unmanned Aircraft System, 無人航空機システム)クルーにはそれ以上の連携が求められる場合がある。今回のケースでは、航空機には十分な燃料があり、気象上の制約もなかった。もしクルーが冷静に状況を評価し、その異常が緊急なものではないことを認識していれば、外部の支援を求めながら一旦訓練空域に戻り、態勢を立て直すことができたかもしれない。
MQ-1C組織内には、ゼネラル・アトミックスの現地派遣技術者、教官オペレーター、および准尉からの支援を容易に受けられる態勢が整えられている。本事故の主因は、飛行安全に最終的な責任を負う機長がこれらのリソースを活用しなかったことであった。
この事故は、地上管制ステーションの枠を超えたクルー・コーディネーションの重要性を浮き彫りにした。また、緊急事態や異常事態の緊急性を評価する必要性を再認識させた。事故発生部隊は、オペレーター、准尉、機付長、および運航指揮所要員とリスク・マネジメントについて議論し、最終的には、標準的なFADEC-F(*)を超える決定マトリックスを作成した。このマトリックスは、その異常が飛行継続を許容するかどうかを問うことを基本としている。それが許容される場合は、クルーは担当士官または任務担当士官に通知しなければならない。このマトリックスは現在、部隊の搭乗員必読ファイルの一部となっており、緊急操作手順訓練においても使用されている。本事故におけるこのアプローチは、リスク・マネジメントを強化し、すべての兵士に安全な飛行運用のための自分自身の役割を理解させることにつながったのである。

*:FADEC-Fとは、緊急時における対応手順の記憶法である。
F:Fly the aircraft.(航空機を飛ばせ)
A:Alert the crew to the problem.(問題発生を警報せよ)
D:Diagnose the emergency condition or system malfunction.(本当に緊急状態なのかを判断せよ)
E:Execute the emergency procedure.(緊急操作手順を実施せよ)
C:Communicate.(情報を共有せよ)
F:Fly the aircraft.(航空機を飛ばせ))
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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