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陸軍航空の情報センター

航空事故回顧-UH-60Lでのホワイトアウト

昼間に雪に覆われた山岳地のヘリコプター用降着地域に着陸進入中、2番機がホワイトアウト状態に陥った。着陸を継続したところ、右側の起伏にメインローター・ブレードが接触し、機体が右側に横転した。墜落時に飛散したメインローター・ブレードの断片が1番機のテールローターに衝突した。1番機は、テールローターおよびギアボックスを失い、ハードランディングした。双方の機体にクラスAの損傷が発生し、搭乗員1名が軽傷を負った。

飛行の経過

2機のUH-60Lで構成される編隊は、ヘリコプターによる投入・離脱訓練を実施し、アメリカ特殊作戦コマンドの冬季戦闘訓練を支援していた。事故当日は、長距離斥候に任ずる強襲部隊の投入を実施し、じ後、要求に応じて離脱を実施することになっていた。

天候は、南東の風7ノット、視程10法定マイル、雲高2,500フィートおよび3,300フィート、気温摂氏マイナス2度であり、前夜にかなりの積雪が発生していた。任務全般のリスクレベル(Risk Common Operating Picture)は、低リスクと評価された。当該任務は、任務担当将校(mission briefing officer)によってブリーフィングが行われ、最終任務承認権者(final mission approval authority)によって承認された。

現地時間0918、事故機は、搭乗者をピックアップするため約16マイル離れた山岳地帯の降着地域に向け、飛行場を離陸した。

平均海面高度9,500フィートの降着地域に到着し、縦列編隊(離隔距離3〜5ローター)で対地高度約100フィート以下まで降下したところ、どちらの機体も激しいホワイトアウト状態に陥った。襲撃部隊の側方に着陸し、左側キャビン・ドアから、それぞれ8名の隊員を搭乗させる予定であった。自らの操縦で徐々に高度を下げていた1番機の機長は、激しいホワイトアウト状態が生じたため、対地高度約30〜40フィートでホバリングし視界が回復するまで待つ、と発唱した。2番機は、襲撃部隊に雪を吹き付けないようにするとともに、1番機によって引き起こされたホワイトアウト状態を回避するため、すでに右側への移動を開始していた。1番機の無線連絡を受けた2番機は、着陸を継続する、と応答した。

対地高度約8フィートで、テール・ホイールが雪に覆われた地面に接触すると同時に、それによって生じた右ロールによりメインローター・ブレードが機体右側(ローター・ディスクの前進翼側)の地面に接触した。機体は、さらに右ロールを続け、右側面を下にして停止した。

2番機のメインローター・ブレードが地面に接触した時、2番機の左前方に約350フィート離れた場所に位置していた1番機は、対地高度37フィートでホバリングしていた。2番機のメインローター・ブレードの断片が、1番機のテールローター・アセンブリに衝突した。この衝撃により、テールローター・アセンブリが完全に破壊され、テールローター・ギアボックスおよびテールローター・アセンブリが飛散した。テールローター・ギアボックスなどを完全に喪失し、テールローターが発生していた反トルク力が作用しなくなった1番機は、急速な右スピンに入った。1番機の機長は、直ちにコレックティブを下げるとともに、左側にある既知の障害物を回避しようとしてサイクリックを操作した。機体は、360°旋転し、水平状態で左にドリフトしながら地面に接触した。

双方のUH-60Lは、事故発生後、直ちに緊急シャットダウンを行い、エンジンを停止した。2機の機体は、1番機はほぼ水平、2番機は右側に横転した状態で、お互いに380フィート離れた位置で静止した。

搭乗員の練度

事故機の搭乗員(2番機)
左パイロット席に搭乗していた教官操縦士兼機長の総飛行時間は4,256時間、H-60での飛行は2,024時間であった。副操縦士の総飛行時間は178時間で、そのうち100時間がH-60での飛行であった。左ガナー席に搭乗していたクルーチーフの総飛行時間は563時間、右ガナー席に搭乗していたクルーチーフは436時間であった。

事故機の搭乗員(1番機)
左パイロット席に搭乗していた機長の総飛行時間927時間、H-60での飛行は843時間であった。副操縦士の総飛行時間は435時間で、そのうち355時間がH-60での飛行であった。左ガナー席に搭乗していたクルーチーフの総飛行時間は837時間、右ガナー席に搭乗していたクルーチーフは168時間であった。

考 察

HLZファルコンへの進入の最終段階において、2番機の機長は、ホバリングへの移行または地面へ接地を、UH-60シリーズの搭乗員訓練マニュアルのタスク1058「有視界飛行状態での進入」に従い円滑に制御することができなかった。対地高度50フィート以下で地面を視認できなくなった機長は、操作が不適切になり、接地直後にメインローター・ブレードを地面に接触させてしまった。

地面効果外ホバリングは、地上の補助目標の視認を困難にし、空間識失調の可能性を高める可能性がある。地上の補助目標を視認できなくなった場合には、直ちに計器飛行に移行して離陸できるように準備しておかなければならない。

                               

出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年05月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. Heggy より:

    ヘリコプターは右側が機長席、というイメージがありますが、米陸軍では必ずしもそうではない、ということなのでしょうか?

    • 管理人 より:

      コメントありがとうございます。
      UH-60も操縦マニュアル上は右側が機長席になっています。ただし、特に訓練においては、副操縦士を機長席に座らせることが多いようです。
      ちなみに陸上自衛隊でも同じような運用が行われています。