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陸軍航空の情報センター

将来型長距離強襲機(Future Long Range Assault Aircraft, FLRAA)プログラム:MV-75に向けた教育訓練基盤の構築

上級准尉3 ジョシュア・D・ベイカー

米陸軍は、将来型長距離強襲機プログラムの機体としてベル社のV-280を選定し、MV-75の正式名称を付与しました。「MV」は「Multi-Mission Vertical Takeoff(多任務垂直離陸)」の略であり、「75」は陸軍創設年の1775年にちなんだものです(ベル・テキストロン社、2025年)。

MV-22(オスプレイ)でティルトローターの経験を積み、MV-75の教義策定に役立てる陸軍パイロットたち。写真:レスリー・ハーリック博士(米陸軍)

アラバマ州フォート・ラッカーの訓練教義局(Directorate of Training and Doctrine, DOTD)は、航空に関するすべての教義と訓練を統括する機関です。新システムの訓練プログラム策定もその業務に含まれます。約40年ぶりとなる陸軍の新型航空機をどのように訓練体系に組み込むか——ここ数年、訓練教義局の新システム統合部署を中心に、フォート・ラッカーの複数の組織が非常に詳細な訓練所要分析を行ってきました。

ベル・テキストロン社のV-280バローが次期多用途プラットフォームに選定されて以来、MV-75の部隊配備と訓練の方法を決めるための取り組みが急ピッチで進んでいます。現在、①新装備慣熟訓練(New Equipment Training, NET)チームを部隊に派遣する方式と、②集中的な配備・訓練拠点を設置する方式の2つが候補です。いずれにも利点がある一方、コスト面の課題も抱えています。訓練教義局は、G3/5/7(作戦・訓練部)、能力開発及び統合部局(Capability Development and Integration Directorate, CDID)、陸軍装備マネージャー(垂直離着陸機/固定翼機担当)、米陸軍コマンド(U.S. Forces Command, FORSCOM)と連携し、「どこで訓練するのか」「どう訓練するのか」「適切な人材をどう確保するのか」を検討する四半期ワーキング・グループを開催してきました。ただし、試作機の試験が行われるまでは、多くの仮定に頼らざるを得ないのが実情です。関係機関は、製造元企業(Original Equipment Manufacturer, OEM)および将来型長距離強襲機のプログラム・マネージャー(Program Manager, PM)と緊密に連携し、その仮定を一つでも多く事実に変えるべく取り組んでいます。

もう一つの重要な課題が、教育機関における訓練戦略の策定です。試作機がない中での分析は困難ですが、陸軍はこの1年間、ティルトローターの運用実績が最も長い海兵隊の知見を活用してきました。V-22は海軍、海兵隊、空軍で運用されていますが、各軍種の訓練飛行隊を訪問し教官要員と意見交換した結果、陸軍の運用に最も近いのは海兵隊であることが分かりました。完全に一致する軍種はないものの、海兵中型ティルトローター飛行隊が最も参考になります。この判断のもと、海兵隊のパイロットおよび整備員の訓練体系を徹底的に調査しました。実戦飛行隊への視察も繰り返し行い、日常の訓練飛行から実任務への展開まで幅広く観察しています。これらの分析結果は、教育機関の訓練体制をどう立ち上げるかの決定に活用されます。配備プロセスの早い段階で訓練体制を確立する計画であり、航空機は教育機関が最初に受領して、教官要員の訓練開始と教授計画(Program of Instruction, POI)の策定につなげます。

機体の納入に先立ち、操縦・整備訓練の教官要員には教材およびシミュレーター(Training Aids, Devices, Simulators, and Simulations, TADSS)が引き渡されます。これにより教官要員は、機体の到着よりかなり前の段階から、システムや手順の習得、訓練計画の策定に着手できます。

運用上の重要性を浮き彫りにした、レッドストーン工廠におけるMV-75の兵士参加型設計評価。写真:マシュー・ライアン(米陸軍)

2025年1月、訓練教義局はパイロット2名と搭乗整備員1名をノースカロライナ州の海兵隊航空基地ニュー・リバーに派遣しました。目的は、V-22慣熟訓練の受講と、搭乗整備員の訓練課程および整備訓練の調査です。海兵隊・空軍の全パイロットが受講する学科課程に参加し、60時間のシミュレーター訓練も受講しました。整備訓練では、先進複合材料や光ファイバーの修理など、陸軍にとって未知の技術領域にも触れました。仕上げとして、訓練プログラム策定担当者がそれぞれMV-22で2時間の実機飛行を行い、慣熟課程で学んだ内容を実体験として統合することができました。

MV-75の訓練基盤を構築するうえで、陸軍には大きな強みがあります。オスプレイが初めて実用化された時代とは異なり、すでに25年分のティルトローター運用経験が蓄積されているのです。慣熟訓練を通じてティルトローターの搭乗員を育成していく中で、次の段階として一部の要員を海兵隊の部隊に送り、実際の運用を学ばせるのが自然な流れです。現在、陸軍と海兵隊は交換プログラムの具体像を詰めています。少数の陸軍パイロットがMV-22の完全な操縦資格を取得し、オスプレイの実戦部隊に配属されて実任務を経験するという構想です。一方、海兵隊側のパイロットには、重要課題選定委員会(Critical Task Site Selection Board, CTSSB)や試験イベント、戦術開発の初期段階といった陸軍の重要な場に参加してもらい、ティルトローターの運用経験を提供してもらうとともに、MV-75開発の最新知見を持ち帰ってもらいます。双方にとって得るものがある仕組みです。

海兵隊のジョン・アルベルティーニ大尉からMV-22オスプレイの搭乗員ブリーフィングを受ける陸軍上級准尉3ジョシュア・ベイカー。写真:レスリー・ハーリック博士(米陸軍)

2025年7月、フォート・ラッカーでのインダストリー・デイズ(航空産業交流イベント)に先立ち、フォート・ラッカーとアラバマ州ハンツビルのレッドストーン工廠にバーチャル・プロトタイプ(Virtual Prototype, VP)が導入されました。シミュレーターの一種と思われるかもしれませんが、実際には航空機設計の初期段階を確認するためのごく基本的なツールです。量産機がラインオフするまでの間、その役割は設計への早期フィードバックと、試作機に先行したタスク分析です。現在はこのバーチャル・プロトタイプを使い、MV-75の搭乗員訓練マニュアル(Aircrew Training Manual, ATM)の土台づくりに着手しています。搭乗員訓練マニュアルに加え、戦術、技術および手順(Tactics, Techniques, and Procedures, TTP)の策定も重要な活用目的です。巡航速度240〜280ノットという性能は、陸軍航空にとってまさにパラダイム・シフトです。この驚異的な性能を活かすためには、陸軍全体で戦術を根本から見直す必要があります。搭乗員訓練マニュアルの新規策定だけでなく、野外教範(Field Manual, FM)3-04『陸軍航空』、陸軍技術教範(Army Techniques Publication, ATP)3-04.1『航空戦術運用』、訓練回報(Training Circular, TC)3-04.4『飛行の基礎』など、航空運用、空中機動戦術、患者後送に関わる複数の教範類(陸軍省、2025年;同、2020年;同、2022年)も改訂しなければなりません。バーチャル・プロトタイプがあれば、実機の到着を待たずにこれらの改訂作業に着手できます。バーチャル・プロトタイプ上で検討した手順は、量産機による検証を経て正式に文書化される予定です。

教義の改訂は、もう一つの大きな取り組みです。陸軍はこれまでヘリコプター戦術を極め、低層空域を支配してきました。しかし、常に高度200フィート以下で飛ぶことが正解とは限りません。ヘリコプター並みの速度で低高度に張り付いていては、MV-75の速度と航続距離がもたらす優位性はたちまち消えてしまいます。MV-75はヘリコプターではなく、垂直に離着陸できる飛行機です。この発想の転換が早ければ早いほど、ティルトローターの潜在能力を引き出せます。教義は必ず変わりますし、変えなければなりません。戦術の変化に合わせて、搭乗員も計画立案者も幕僚も、従来の枠組みから踏み出し、統合戦力の支援を活用して戦場に到達する方法を考える必要があります。統合防空システム(Integrated Air Defense Systems, IADS)、サイバー攻撃、電子戦(Electronic Warfare, EW)による接近阻止・領域拒否が、我々の作戦遂行を大きく脅かしていることは今さら言うまでもありません。先進的なセンサーや各種支援器材を積極的に取り入れ、作戦環境への迅速な移行と任務達成を可能にしなければなりません。

訓練教義局がこれまで行ってきた作業はすべて、MV-75のパイロット、搭乗整備員、後方整備員を対象とする重要課題選定委員会に向けた訓練所要分析に集約されます。重要課題選定委員会は通常3年ごとに開催し、重要課題リストの見直しが必要かどうかを判定するものです。ただし、まったく新しいシステムであるMV-75の場合、対象となる特技(Military Occupational Specialty, MOS)のすべてについて一から委員会を実施することになるため、作業の規模は格段に大きくなります。委員会では各分野の専門家が集まり、搭乗員訓練マニュアルの形で重要課題リストの推奨案をまとめるとともに、どの課題を教育機関で教えるかを決定します。まったく新しいシステムであるだけに、専門家チームは固定翼・回転翼のパイロットおよび搭乗員に加え、他軍種のティルトローター・パイロットを交えた混成編成となります。陸軍にとって学ぶべきことはまだ多いものの、国防省全体で蓄積された25年分のティルトローター運用経験を活用できるため、決してゼロからのスタートではありません。

将来型長距離強襲機の部隊装備機命名法(Mission Design Series, MDS)としてMV-75の名称を付与された機体。写真:マシュー・ライアン(米陸軍)

最後に、プログラムの規模拡大に伴い、専門知識を最も効果的に発揮できる場所へ、より多くの専門家を配置する必要があります。現在、フォート・ラッカーのチームに在籍する専門家はごくわずかですが、運用開発チーム(Operational Development Team, ODT)の新設によって状況は一変します。聞き覚えのある方もいるかもしれませんが、運用開発チームはMV-75開発の中核的な連絡調整機関です。メンバーはそれぞれの豊富な経験と専門知識を活かし、プロジェクトの意思決定を支える役割を担います。ベル社、将来型長距離強襲機プログラム・マネージャー、レッドストーン試験センター、フォート・ラッカーの各組織との橋渡し役も務めます。訓練教義局は今後もプログラム・オフィスやベル社と連携し、開発が関係者不在のまま進むことのないようにしていきます。今後数年間にわたる部隊からのフィードバックと分析が、このプログラムの成否を左右します。運用開発チームの設立を進めながら、他軍種が20年以上の実戦運用で培った教訓をしっかり取り入れていく方針です。

著者略歴:
上級准尉3ジョシュ・ベイカーは、UH-60 A/L/Mのパイロットであり、航空任務担当士官(Aviation Mission Survivability Officer, AMSO)の資格を保有しています。現在、訓練教義局で将来型長距離強襲機の訓練プログラム策定を担当しています。

参考文献:
ベル・テキストロン社 (2025). MV-75: 陸軍航空の変革
陸軍省 (2020年5月7日). 航空戦術運用 (Aviation Tactical Employment, ATP 3-04.1).
陸軍省 (2022年7月5日). 飛行の基礎 (Fundamentals of Flight, TC 3-04.4).
陸軍省 (2025年3月27日). 陸軍航空 (Army Aviation, FM 3-04).

訳者注
バーチャル・プロトタイプ(VP)について:2025年6月24日、陸軍はベル・テキストロン社から最初のVPをレッドストーン工廠で受領した(2基目はフォート・ラッカーの航空センター・オブ・エクセレンスに納入)。VPは、実機のデジタル・ツイン(デジタル上の複製)に基づく先進シミュレーターであり、初期段階の設計改善、ソフトウェア開発、検証・統合・試験に活用されるほか、特別ユーザー評価(Special User Evaluation, SUE)と呼ばれる兵士参加型設計評価と連携した戦術・技術・手順の策定にも用いられる。将来的にはフライト・トレーニング・デバイス(飛行訓練装置)にアップグレードすることも可能とされている。

                               

出典:AVIATION DIGEST, Army Aviation Center of Excellence 2026年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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