AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

天候による任務の修正・中止を躊躇するな

上級准尉3 ケビン・エイケンズ

私がイラクに派遣されたのは、操縦課程を卒業してから、わずか4ヶ月後のことでした。NVG(夜間暗視眼鏡)を用いたダスト・ランディング(砂塵による視界不良状況下での着陸)は、まだ難しいものの、技量の向上は、おおむね順調に進んでいました。学ぶべきことはたくさんあり、時間がいくらあっても足りないくらいでした。

派遣期間の半ばを過ぎた頃、私は、ある機長と5機編隊で実施する任務に長機として参加するように命ぜられました。それは、重要な会議に参加するポール・ブレマー大使を、バクダッドからアルビールまで護送するという任務でした。イラク北部に位置するアルビールは、山岳地帯に囲まれた街でした。

飛行開始に先立って行われた気象ブリーフィングでは、飛行経路のすべてにおいて快晴が予報されていました。ところが、アルビールに近づくにつれて、雪やみぞれが降り始め、視程が約1マイルまで低下し、その後、霧が発生して約0.5マイルまで悪化しました。ドップラー/GPSを確認すると、目的地まで、あと約3マイル(約5.6キロメートル)のところまで到達していました。降着地域への進入を開始すると、天候および視程がさらに悪化したため、速度を落とすことを決心し、他の機体にもそのように指示しました。

操縦を行っていた私は、気づかないうちにIMC(instrument meteorological condition, 計器飛行気象状態)に陥ってしまっていました。機長に「IMCに入りました、地面が見えません」と報告しました。まだ、地面が見えていた機長は、操縦を交代してくれました。しかし、わずか1、2分後には、機長も地面が見えない状態になりました。

窓の外を見ると、右側のドアから20フィート(約6メートル)くらいのところに山が迫っていました。私は、機長にそのことを報告しました。ほぼ同時に、機付長も、その山のことを報告しました。機長は、衝突を避けるために上昇することを決心しました。

約1万フィート(約3408メートル)までほぼ垂直に上昇して障害物を回避しましたが、まだ雪が降っていました。このため、アンチ・アイス(エンジン防氷装置)およびブレード・デアイス(ローター・ブレード除氷装置)を作動させましたが、ブレード・デアイスが正常に動作しませんでした。機長は、ブレード・デアイスに不具合があることを把握していましたが、雪が降るとは思っていなかったのです。キルクーク管制所にレーダー誘導を依頼し、飛行場まで安全に到着することができました。我々がIMCに入った後も、他の機体はVMC(visual meteorological conditions, 有視界気象状態)を維持することができ、キルクーク飛行場に帰投することができました。

着陸して、燃料補給をしてからエンジンを停止すると、改めて気象ブリーフィングを受け、天候の回復を待ってからアルビールに帰投しました。この任務は、私に重大な教訓を与えてくれました。それからは、任務中に悪天候に遭遇すると、いつもこの経験を思い出すようになりました。

2年後、私は、アフガニスタンである任務を行っていました。信じられないかも知れませんが、あのイラクでの任務の時と部隊も機長も一緒でした。その任務は、2機編隊で行うバグラームから前方運用基地オルグンEまでの部隊空輸でした。バグラームへの帰投に関する気象ブリーフィングでは、天候は快晴であり、全飛行経路において視程が規定を満たしていると予想されていました。しかしながら、離陸してから約30分後に砂塵の壁に遭遇し、視程が4分の1マイル(約463メートル)まで低下しました。直ちに行動方針を決定しなければなりませんでした。もう少し前進を続けて砂塵を回避しようと試みるか? それとも、引き返してオルグンEで一泊するか? それは、我々の次の任務にも影響を及ぼす問題でした。

私は、引き返してオルグンEで一泊すべきだと強く主張しました。編隊指揮官でもある機長は、バクラームへの前進を継続したがり、少なくとも、もう少し前進して天候が回復するかどうかを確認したがっていました。天候の状況に不安を抱いた僚機のパイロットたちは、引き返すことに同意してくれました。

オルグンEで一泊し、次の朝、目を覚ますと、天候が回復しており、バグラームに向けて離陸することができました。バクラームに帰投した後、別の任務にあたっていた編隊が前日にオルグンEに向かって離陸していたことを知りました。その4機の機体は、天候の悪化にもかかわらず離陸し、砂漠の真ん中で前進できなくなってしまいました。悪視程のために着陸を余儀なくされ、天候が回復するまでの間、周辺の警戒を行うための緊急対応部隊の派遣を受けなければならなかったのです。また、同じ日、我々とは別の中隊においては、カンダハールからバクラームまでの物資空輸任務を行っていたところ、IMCに遭遇して機体の操縦を誤り、山腹に墜落して、18名が死亡する事故が発生しました。

お分かりのとおり、天候というものは、我々が戦っている敵と同じくらいに、場合によってはそれ以上に危険なものなのです。実際の天候は、運用機関が行う気象ブリーフィングとは違う場合があります。与えられた状況に応じ、任務を修正または中止しなければならない場合もありますし、天候回復を待ってから離陸しなければならない場合もあるのです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年10月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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4件のコメント

  1. 管理人 より:

    1ヶ月以上に渡ってhttps://safety.army.mil/にアクセスできない状態が続いていましたので、久々の翻訳・投稿となりました。

  2. 管理人 より:

    イラクにも雪が降るんですね。想像できませんが...

  3. 元航空学校第2教育部教官、川崎修治 より:

    影本さん御活躍されていますね!単機任務でしたが海上自衛隊との発着艦試験での木更津推進を思い出しました。当時影本さんが整備班長をされていた頃でしたでしょうか?伊豆半島に横たわる前線を突っ切り関東平野に散在する雷電情報を継続入手しながらのフライトでした。

    • 管理人 より:

      ご無沙汰しています。その節は、大変お世話になりました。残念ながら、そのフライトのことは覚えていませんが、航空科部隊の者ならば誰でも似たような経験があると思います。この記事が、そういった経験を思い出すきっかけになってくれればと思っています。