クルー・ミックス(搭乗員の組み合わせ)の重要性
OH-58Dのパイロットとして、イラクのキャンプ・タージの第17騎兵連隊第6飛行隊ブラックフット部隊に配属されていた私は、バグダッド、バラド、ラマディ、アルアサドおよびその近郊において、さまざまな任務を遂行していました。搭乗員たちは、飛行計画の作成が完了し、スケジュールに変更がないことを確認するために、任務開始前のほぼ同じ時間に集合することになっていました。派遣間においては、パイロットの負傷や病気、他の任務への変更、あるいは勤務可能日の不足などにより、飛行スケジュールが変更されることが頻繁にありました。週に少なくとも2つか3つの任務変更があるのが当たり前でした。
その日も、ナイトシフトについていた私は、編隊の空中部隊指揮官を兼務する部隊教官パイロットと一緒に、編隊の僚機として飛行することになりました。二人とも、この作戦地域の飛行を6カ月以上行っており、その地形に慣熟していました。長機には、飛行隊の幕僚パイロット(コールサイン「ダコタ」)が機長として右席に搭乗し、新しく配属されたばかりの小隊長が左席に搭乗することになりました。いずれも、この作戦地域をある程度飛行していましたが、これまで一緒に飛行したことはありませんでした。
情報参謀のブリーフィングを受けた後、空中部隊指揮官が詳細な編隊ブリーフィングを行いました。いつものとおり、長機は航空管制官および地上部隊との通信を担当し、僚機はバグダッドおよび上級部隊との通信を担当することになりました。私は、離陸する前から、この編隊の「クルー・ミックス(搭乗員の組み合わせ)」が気にかかっていました。長機の幕僚パイロットのOH-58Dでの飛行時間は数千時間に達していましたが、この作戦地域に関する知識は僚機のパイロットの方がはるかに豊富でした。しかし、空中部隊指揮官が問題ないと判断したのであるから、大丈夫だろうと思っていました。
その夜の3つの任務のうち、最初の任務は何事もなく終了しました。その後、次の任務での滞空時間を確保するため、バグダッド国際空港で燃料補給を行うことになりました。バグダッドの南東からバグダッド国際空港に到着するためには、「エムバシー」、「リバティ」および「バグダッド国際空港」の3つの管制空域を通過しなければなりません。各空域への進入/離脱に際しては、それぞれ異なる管制官への通報が必要でした。空中部隊指揮官は、それを迂回(うかい)して、単純にしたいと思っていました。AH-64のチームがバグダッド国際空港の南/南西地域で任務を遂行するとブリーフィングを受けていました。このため、「ダコタ・コンタクト・ポイント」を経由して北からバグダッド国際空港に進入した方が、空域を分離し、混乱を避けるために有利であると考えられました。
バグダッド国際空港に向かう途中で、管制空域の外側を飛行するために通常使用している経路と違う経路を飛行していることに気づきました。空中部隊指揮官にそれを報告すると、あたかも考えていたことが分かっていたかのように、直ちに無線機を使って、どこに向かっているのかを質問しました。数秒後、長機は、現在地を考慮し、東からバグダッド国際空港に進入することを要求しました。そのためには、平均海面高度1,200フィートから転移し、トラフィックに影響を与えることなく空港の民間側を飛行できるようにする必要がありました。その時点では、対地高度約700フィートでリバティ空域を飛行していました。空中部隊指揮官がその要求を承認すると、長機は、上昇を開始しました。
同じく上昇を開始した私は、リバティ空域から離脱しようとしている機体が他にないか監視していました。空中部隊指揮官は、左側をを見ながら、バグダッド国際空港の南側を飛行しているAH-64を探していました。正面に目を移すと、おどろく光景が目に飛び込んできました。1機のアパッチが、2~3ローターしか離れていないところを右にバンクしながらダイブしていたのです。私は、他のアパッチが近くを飛んでいないことを祈りながら、推力を増して左にバンクしました。幸運なことに、そこには他のアパッチはいませんでした。空中部隊指揮官は、飛行高度を転移し続けながら、長機の機長と長い話し合いをしました。
その後の飛行は、問題なくすすみました。すべての任務を完了し、キャンプ・タージに帰投しました。デブリーフィングと徹底的なAAR(after-action review, 検討会)を行った結果、そのAH-64のパイロットに連絡し、何が起こったのか、そして、どうして異常接近が生じたのかを確認することにしました。すると、非常に重大な複数の誤りがあったことが分かりました。
まず、任務を完了したAH-64のパイロットは、情報参謀のブリーフィングで聞いていた場所とは異なる地域の偵察を行っていたのです。また、われわれの長機が「ダコタ」というコールサインを使いながらバグダッド国際空港の管制空域に転移することを要求したことも、混乱を招いていました。AH-64のパイロットたちは、われわれが南東からではなく、当初予定していたとおり、北から「ダコタ・コンタクト・ポイント」を経由して進入すると思い込んでしまったのです。バグダッド国際空港とリバティの管制空域は、重複しているため、双方の編隊は異なった管制官とコンタクトしており、相互の通話が聞こえず、お互いに他のチームが何を行っているのかを知ることができませんでした。
すべてが明らかになったのち、私は、離陸前に大きな過ちを犯していたと感じるようになりました。僚機の方が経験が豊富であったことにより、長機の機長は、行わなければならないタスクで飽和状態になってしまっていた可能性がありました。その夜、少なくとも4人の命が失われ、2機の航空機が破壊され、さらに地上の民間人までもが犠牲になった可能性があったのです。クルー・ミックスは、飛行計画における重要な考慮事項であり、決して軽視してはなりません。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2021年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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