予想外の天候悪化
それは私が韓国で機長になったばかりのことでした。キャンプ・ハンフリーズで勤務していた私に与えられたのは、新米の中尉とともにキャンプ・ケーシーまで飛行する任務でした。飛行時間は4時間であり、任務終了後に1時間以上の飛行が可能なため、その時間を利用して患者後送訓練を行う予定でした。燃料補給を完了し、キャンプ・ハンフリーズの空軍気象予報官から最新の気象情報を入手しました。その気象予報官は、海上には降雪が生じていると教えてくれました。そのうえで、1時間半以内に飛行経路上にも弱い降雪があるが、すぐに通過するだろうと付け加えました。午後の遅い時間にはさらに強い降雪が予報されていましたが、その数時間前には帰投する予定でした。
陸軍規則95-1のセクション5-2には、「目的地の天候は、到着予定時刻から到着予定時刻の1時間後までの間、VFR制限値以上であると予報されていなければならない」と記載されています。私たちが受け取った予報によれば、フライトの最後の1時間もこの基準を満たしていました。任務終了後、後部座席に搭乗している数名の救難員に実員ホイスト資格を付与するため、キャンプ・ハンフリーズから南へ約10分の飛行距離にある整備試験飛行区域にあるLZ(膠着地域)エルボーに向かいました。
LZに到着して着陸すると、飛行教官がホイストの巻き直しを行うための100ポンドのコンクリート・ブロックを準備しました。これを使って荷重をかけることにより、ホイストのケーブルをリールにしっかりと巻き付けることができます。準備が整ったので、高度 250 フィートでホバリングし、ホイストの巻き直しを開始しました。その時、雪が降り始めました。巻き直しは完了しましたが、降雪が激しくなり、LZに着陸しなければなりませんでした。
それは、その20分前に気象予報官から得た情報よりもずっと激しいものでした。視程は4分の1マイル(約463メートル)まで低下し、シーリングは100フィート(約30メートル)未満になりました。気象予報官がいるところからは、2つの山脈で隔てられていため、飛行経路まで戻らない限り、無線交信ができませんでした。こちらから呼びかけてみましたが、返答はありませんでした。携帯電話を使うしかなかったため、LZで機体をアイドル状態にしてから電話をかけました。
気象予報官は、急激な天候の変化について謝罪したうえで、飛行場に戻れるようになるまでには少なくとも45分はかかると言いました。また、その際、8マイル(約15キロメートル)北にある滑走路に戻るために必要な通り道は確保できるだろうと付け加えました。私は部隊長に電話をして、現在の状況を報告しました。部隊長は、天候が回復するまで待ってから帰投することを許可してくれました。それから45分後、視界は800m、シーリングは200 フィートまで改善しました。
離陸前に搭乗員に帰投を開始することを説明し、同意を得ました。クルー・チーフと私はその地域で150時間の飛行経験があり、帰投経路は熟知していました。改めて、IIMC(予期していなかった天候急変等による計器飛行状態)に陥った場合の手順を確認しました。着陸が困難な地域でシーリングが低くなった場合には、ランウェイ32にILS(計器着陸装置)による進入を行うつもりでした。
ウインドシールドに降り積もった雪を溶かすため、防氷装置をオンにしました。また、ピトー管とエンジンの防氷装置もオンにし、それらが正常に機能していることを確認しました。地上の気温は6°F(‐14°C)でした。これは、進入手順に定められている最大3,200フィートまでの上昇が指示された場合、着氷の可能性があることを意味していました。PCL(パワー・コントロール・レバー)を押し出すと、離陸前のチェックを開始しました。機体に搭乗しているのは6名であり、現状では、ILSアプローチを行うのに必要な出力の余裕を十分に確保できていました。
LZから湖につながる川に沿って帰投を開始しました。その後、湖岸に沿って飛行し、トラフィック・パターンの進入通報地点であるチェックポイント3に到着しました。航空乗組員訓練マニュアルの第6章には、任務を安全、効率的かつ効果的に遂行するために必要なクルー・コーディネーションと乗組員間の連携要領が記載されています。我々は、常日頃から、離陸前にクルー・コーディネーションのさまざまな側面についてブリーフィングを行ってきました。このため、誰もが落ち着いて目の前の業務に集中することができていました。
搭乗員間の効果的なクルー・コーディネーションのおかげで、無事に滑走路に戻ることができました。平静を保ち、状況を十分に把握し、相互に効果的なコミュニケーションを行うことができました。通常は10分の経路を飛行するのに50分もかかりましたが、搭乗員全員がチームとして協力し合うことにより、無事に飛行を終えることができました。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
ホイストの「巻き直し」について
旧式のものでなければ必要がない(自動的にテンションがかかった状態で巻き上げる)と認識していたのですが...
アメリカ陸軍では行っているようです。
ちなみに陸上自衛隊のUH-60JAに装備されているホイストは、アメリカ陸軍とは異なるものです。