AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

無人機の運用手順における競合の問題

上級准尉2 イーアン・ガイスラー
第101空挺師団(空中機動)第1旅団戦闘チーム第1特殊支援大隊B中隊
フォートキャンベル、ケンタッキー

無人機には、その安全を確保するため、有人機と同様に、システムの性能、環境要因、空域競合の回避などを考慮した運用手順が定められています。これらの手順は、同一の作戦地域内で運用される有人機およびその搭乗員の安全確保にも重要な役割を担っています。アフガニスタン東部で最も錯綜した軍用飛行場のひとつだった当該飛行場およびその周辺空域においては、複雑かつ流動的な空域の運用が求められていました。操作員たちは、運用制限空域の頻繁な設定および解除、急激な天候の変化、視界の悪化、トラフィック・パターンのふくそうなどの複数の問題に同時に対応しなければなりませんでした。それぞれの問題に関しては、そのリスクを軽減するための手順が個別に定められていました。しかし、ここで、これらの手順の間に競合が生じた場合はどうなるのでしょうか? その場合、どの手順が優先されるのでしょうか? そして、それを決定する権限は、誰にあるのでしょうか?

旅団作戦本部に所属するUAS(Unmmand Aircraft System, 無人航空機システム)技術者だった私は、RQ-7シャドーの運用統制を担当していました。当該機は、発射・回収地点(launch and recovery site, LRS)から45分離れた場所において、約2時間にわたって通常の対間接照準射撃任務(counter indirect fire mission)を実施していました。その時、マルチユーザー・インターネット・リレー・チャット(multiuser internet relay chat, MiRC)を介して、砂嵐が発射・回収地点に約1時間半で到達するという他機の操作員からの報告が気象所(weather operations)を通じて伝えられました。

飛行手順には、機体または地上設備システムの制限のいずれかを超える気象が予測される場合には、その1時間前に着陸することが求められていました。当該機が飛行していた空域は砂嵐からかなり離れていましたが、強風により機体の制御アンテナが損傷する可能性も考えられ、すみやかに基地に帰投する必要がありました。基地に向かって飛行させつつ、気象状態を確認したところ、北から砂嵐が近づいているのが見えました。高さ約100フィートの砂の壁が、発射・回収地点に向かって、かなりの速さで移動していました。幸いなことに、回収地点に安全にたどり着くまでには、まだ十分な時間の余裕がありました。

10分後、管制所(air traffic control, ATC)に連絡し、シャドーの発射・改修地点に直接着陸するため、滑走路へのダイレクト・アプローチを要求しました。管制所からは、旅団本管中隊により滑走路の進入端に爆破のための運用制限空域(restricted operating zone, ROZ)が設定されている、という情報が伝達されました。列線やホット・リフュエル用地域から100フィートしか離れていないところで不発弾の爆破処理を行おうというアイデアを、一体誰が思いついたのかは分かりません。また、半径5マイルで高度20,000フィートまでという広大な運用制限区域が設定された理由も分かりません。この運用制限区域は、作戦地域全体の航空運用を停止させてしまうことになります。

最終進入経路上にある運用制限区域内を飛行中に不発弾の爆破が行われた場合、機体が損傷する可能性があります。再びマルチユーザー・インターネット・リレー・チャットを介して本管中隊本部に連絡し、運用制限区域内への進入か可能なのか、あるいは、着陸するまでに制限が解除されるのかを問い合わせました。本管中隊本部からは、現地の要員と連絡がとれないため、問い合わせに応じられないとの回答がありました。

私たちは、双眼鏡で現地の状況を確認しようとしました。砂の壁が飛行場に近づいて来るのが見えたため、爆破地域の隊員および本管中隊と連絡を取り、爆破が行われないことを確認しようとしました。10分間にわたって進入許可を得るための努力を続けた結果、本館中隊から、中隊としては上空を飛行しても構わないが飛行はそちらの責任で行って貰いたい、という回答が得られました。不発弾処理が行われている地域の上空を飛行するリスクと砂嵐に突入するリスクを比較した私は、飛行管制所からの承認を得て、列線の反対側から進入することにしました。

飛行管制所からの進入許可を得てから、滑走路の反対側への移動を開始しました。砂嵐が近づいてくるのが肉眼で確認できるようになっていました。不発弾処理のための運用制限地域により費やされた無駄な時間のために、砂嵐に接近してしまったのが明らかでした。横風が強くなり、機体が激しく振動しはじめましたが、何とか着陸許容範囲内には収まっていました。

着陸においては、地上50フィートが着陸最終決心高度(decision point, DP)になっています。その高度を通過すると、もはや着陸を復行することはできず、機体は自動的に制御されます。進入を継続した機体は、その高度に近づいていました。砂の壁がほんの数分先にまで迫っている状態ではありましたが、すべての諸元はシステムの制限内にあり、問題なく着陸できるように思われました。着陸最終決心高度を通過した機体は、滑走路末端を対地高度20フィートで通過し、滑走路に向かって降下を続けました。

着陸する寸前になって、機体が突風を受け、乱気流が発生しました。加速度計が異状な値を出力し、機体に対し、既に着陸したという誤った認識を与えてしまいました。このため、ソフトウェアは、機体がまだ地上20フィートの空中にあるにもかかわらず、エンジンを停止させました。当該機は、滑走路にハード・ランディングし、降着装置およびペイロードに重大な損傷が生じました。修理は翌日までに完了し、運用に復帰しました。ただし、問題となった手順の改正には、さらに長い時間が必要でした。

その日、私が学んだことは、ある手順における実際の危険が別の手順によるものよりも重要である場合には、航空機に対する指示を遅滞なく決定しなければならない、ということです。当該飛行場においては、この事故の発生を踏まえ、誰にとっても安全な運航を可能とするための諸手順の改善が実施されました。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年06月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

アクセス回数:801

コメント投稿フォーム

  入力したコメントを修正・削除したい場合やメールアドレスを通知したい場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。

1件のコメント

  1. 管理人 より:

    本記事では、「pilot」という用語を(無人機の)「操作員」と訳しています。