UH-60のデュアル・エンジン・ロールバック
UH-60にはDER(dual engine rollback, デュアル・エンジン・ロールバック, 両エンジンの非過渡的な回転数低下)という事象が発生することが知られていますが、誤解されている場合も多いようです。この記事では、この現象に関するこれまでの経緯について説明し、何がDERであって、何がそうでないのかを明確にしたいと思います。
何がDERでないのか?
利用可能馬力を超過したために、シングル・エンジンでの飛行が不能となる事象は、DERではありません。また、操縦操作によって生じる過渡的なローター回転のドループもDERと誤認されることが少なくありません。過渡的なローター回転のドループを経験したパイロットの多くが、トリム・スイッチでDERを補正したと報告していますが、実際には、エンジン・コントロール・ユニットによって修正されたと考えられています。
何がDERなのか?
DERは、トリム・スイッチが操作されたり、操縦操作によりローター回転数が過渡的にドループしたりしていないにもかかわらず、(飛行中または地上運転中に)ローター回転数(Nr)おび両方のエンジンのパワー・タービン回転数(Np)が100%よりも低い値まで低下する事象です。エンジン始動時にNrおよびNpが100%に達しない事象もDERと判断される場合があります。
これまでの経緯
UH-60ブラックホークにおいては、1990年以降(1999年5月まで)、飛行中に15件、地上運転中に12件のDERが発生しています。そのうちの2機がDERに対処するための予防着陸中に損傷しています。この期間内のアメリカ陸軍H-60の飛行時間は、150万飛行時間でした。
シコルスキー社、ゼネラル・エレクトリック社、多用途ヘリコプター・プロジェクト・マネージャー・オフィス、航空研究開発エンジニアリング・センターのチームは、DERに関し、広範にわたる試験および故障探求を繰り返してきました。これにより、報告されているDERの一部が過渡的なドループであったことが確認されましたが、ロールバックの原因はまだ特定されていません。これまでに報告されたロールバックを再現できたことはありませんでした。
発生する現象
DERが発生すると、通常、NrおよびNpが同時に94~96パーセントまで低下します。いくつかの事例においては、NrおよびNpが92%まで低下したことが報告されています。ある事例においては、NrおよびNpが計器に表示されなくなるまで低下しましたが、そこまで低い値に達したのは操縦による過渡的なドループが原因と考えられています。いくつかのDER事例においては、トリム・スイッチを使用することでNrおよびNpを100%に復帰させることができました。別の事例では、NrおよびNpの低下にともないエンジンが停止しました。ある事例では、NrおよびNpが100パーセントとそれより低い値の間で増減を繰り返しました。別の事例では、NrおよびNpがトリムで減速させるよりも急速に低下するのが確認されました。
まとめ
飛行中にNrおよびNpが100%未満に低下した場合は、急激な操縦操作を避けるべきです。ローター回転数低下時の緊急操作手順は、運用規定の第3次改訂版に追加されます(1999年6月発簡予定)。第5次改訂版では、第8章にUH-60Aで発生しうる過渡的ドループの背景的構造機能と、それが発生しうる条件に関する説明が追加されます。多用途ヘリコプター・プロジェクト・オフィスのWebサイトにアクセスできるユーザーは、承認済みの改訂版をオンラインで確認することができます。さらに、DERの報告手順についても改定が行われます。
多用途ヘリコプター担当プロジェクト・マネージャー、ゼネラル・エレクトリック社およびシコルスキー社は、これからもDER現象の解決に取り組んでゆきます。DERの発生が疑われる場合には、AMCOM(U.S. Army Aviation and Missile Command, 航空・ミサイル・コマンド)のLAR(logistics assistance representatives, 兵站支援官)または現地のシコルスキーおよびゼネラル・エレクトリック社支店にお問い合わせください。
関連記事:海上でのデュアルエンジン・ロールバック
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 1999年05月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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3件のコメント
昨年4月6日に発生した陸自UH-60JA航空事故の調査結果について、「ロールバック」という事象の発生が要因であったとの発表があったことから、関連する記事を翻訳してみました。
ただし、本記事は左右両方のエンジンに同時に「ロールバック」が発生するDER(デュアル・エンジン・ロールバック)に関するものであり、陸自の事故とは事象が異なっています。
「UH-60JAの航空事故調査結果について」(陸上幕僚監部)
2009年版の運用規定(Operator’s Manual)には、ロールバックに関する記述が確認できませんでした。
TM 1-1520-237-10 Operators Manual for UH-60
デュアル・エンジン・ロールバックの訳語を「両エンジン回転数の緩徐な低下」→「 両エンジンの非過渡的な回転数低下」に変更しました。