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陸軍航空の情報センター

小型ドローンの未来を先導するレッド・キャット:現代の戦闘員のために

ジョージ・マタス

レッド・キャットのブラック・ウイドウ

2006年、連邦航空局(FAA)は、ハリケーン・カトリーナ後のニューオーリンズでの災害派遣に際し、商業空域での無人航空機(UAV)の使用を初めて許可しました。これは、一般市民にとって、画像監視や災害対応のツールとしてのドローンに触れる初めての機会となりました。

それは、必ずしも新しい技術ではありませんでしたが、UAVの商業利用が普及し、ドローンの多様な用途が広く知られるきっかけをもたらしました。その後の10年間で、ドローンに関する議論が活発化し、国内外でのドローン生産も急増しました。

同時に、軍によるドローンの利用も進化していました。戦闘員のニーズが変化し、背のうに入れて持ち運びができる、より小型で軽量かつ低コストな機体により、分隊や小隊レベルでも戦場全体のデータを共有できることが求められるようになりました。2006年のFAAによる商業空域でのUAV承認がその後10年間のイノベーションに必要な舞台を整え、軍のニーズ拡大がその後数年間の業界の進歩を促したのです。

戦場における環境の変化

歴史的に見ると、戦場でのsUAS(小型無人航空システム)の利用が現在の状態に至るまでの過程には、紛争におけるドローン活用の長い進化の道のりがありました。それは1980年代初頭から1990年代にかけて、CIAとペンタゴンが無人ISR(情報収集・監視・偵察)ドローンの実験を始めた頃にまでさかのぼります。その実験は空中偵察用の大型機(プレデターやリーパー)の開発につながり、最終的にはヘルファイア・ミサイルという殺傷力を有する攻撃能力を備えるに至りました。これらのドローンはアフガニスタン、イラク、シリア、ソマリアなどの国々で実戦に使用されました。

ドローンの小型化および低コスト化に関する次のイノベーションの波は、2003年に導入された固定翼機であるRQ-11レイブン(エアロ・バイロンメント製、約1.8キログラム)システムなどの登場によってもたらされました。レイブンは、当時、中東での中隊レベルの戦場におけるゲーム・チェンジャーとなりました。これらのシステムにより、レッド・キャットのブラック・ウィドウのような、さらに小型のシステムへの道が開かれ、分隊や小隊レベルにまでドローンが配備されるようになりました。

2018年後半、アメリカ陸軍の短距離偵察(SRR)プログラムが正式に開始され、兵士に戦場でリアルタイムの状況認識を提供する小型で携帯可能な無人航空機システム(UAS)を装備することが焦点となりました。これらのドローンにより小隊レベルの偵察・監視能力が強化され、戦闘員が視程外から複雑な地形で作戦を行うことが可能になりました。SRRプログラムは、陸軍が進めていたUAS再編事業の一環として、Blue UASパイプライン(訳者注:アメリカ陸軍が採用している無人航空機システム(UAS)の開発、取得、運用までのプロセス)を通じて実現される、国防総省の最初の主要sUASプログラムとなりました。

さらに、2022年のロシアによるウクライナ侵攻とその後の戦争においては、小型ドローンの有効性がより鮮明になりました。ガレージで作られた小型で安価なドローンがFPV(訳者注:ファースト・パーソン・ビュー)システム(まるで自分がその場所にいるかのような視点で映像を見ることができるシステム)として機能し、この非対称戦争におけるウクライナ軍の重要な武器となり、ロシアの戦車、兵員の陣地、その他の大規模兵器などを撃破しています。ウクライナによる反転攻勢作戦においては、小型無人航空機システム(sUAS)の利用に関し、数多くの教訓が明らかになりました。特に敵が電子戦(EW)によるドローン無効化戦術を用いる中で得られた教訓は貴重なものでした。

2023年8月、国防総省(DoD)は急速に変化する世界情勢に対応し、増大する中国の脅威に対抗するため、レプリケーター・イニシアチブ(訳者注:革新的な技術を迅速に軍事へ導入し、戦場での優位性を確立するための野心的な計画)を開始しました。国防総省によると、レプリケーターの第一段階は「中国の急速な軍備増強に対抗する戦略の一環として、今後18〜24ヶ月以内に複数の領域で数千の自律システムを配備することに焦点を当てている」とのことです。

要求に応える

ドローン技術企業のレッド・キャット(Red Cat)は、戦闘員のニーズの進化に応えるべく、SRR(短距離偵察)プログラムにファイナリストとして参加することに注力してきました。加えて、ティール・ドローンズ(Teal Drones, レッド・キャットの子会社)も、当初の37社から選ばれた2社のうちの1社として、アメリカ軍に短距離偵察ドローン(SRR)を供給する複数年にわたる公式プログラムへの参入を目指していました。

ティール・ドローンズは過去数年間、SRRの要求事項を満たすため、主力製品であるティール 2・ドローンのイノベーションに取り組んできました。SRR(短距離偵察)は、諸職種連合軍戦闘の各段階で火力と機動力を同期させるための統合UAS(無人機システム)の一部を形成し、その要求事項の多くは、陸軍航空のUAS階層コンセプトと一致していました。また、それにはウクライナでの電子戦から得られた教訓への対応も含まれていました。

主要な要求事項の多く(背のうに収納可能なISR実現手段であること)は長年にわたって変わっていませんが、レッド・キャットはデータリンク、機上処理能力、ソフトウェア、AI/自律性、スウォーミング(群れ)飛行能力など、様々な分野で進歩を遂げ、単なる空中カメラ以上の実現手段(ソリューション)をもたらしました。

レッド・キャットは、AUSA(アメリカ陸軍協会)の年次会議および展示会において、 そのアラクニド(ARACHNID, クモの意)・シリーズの無人情報収集、監視、偵察(ISR)および精密攻撃システムについて発表しました。レッド・キャットとティールは、SRR トランシェ 2の要求事項を満たしたブラック・ウィドウ(Black Widow , クロゴケグモの意)・ドローンを開発しました。 これはティール2の後継機であり、電子戦環境下での運用に特化した背のう携行型の高性能小型無人航空機システム(sUAS)です。ブラック・ウィドウのモジュラー設計は、短距離偵察や二次ペイロード(訳者注:UAVの主目的を達成するための主要なペイロード(搭載物)とは別に、追加で搭載される様々な機器や装置)を用いた運用など、任務要求事項への迅速な適応を可能にしています。この純軍事用システムは、アメリカ国内で製造され、生存性と戦闘員の安全性向上に貢献しています。

新たな前進

アラクニド・シリーズには、レプリケーター・プログラム(レプリケーター2を含む)に準拠した、中距離偵察および持続的攻撃システムとしてのニーズを満たすドローンも含まれています。レッド・キャットはブラック・ウィドウの他にも、FPV(ファースト・パーソン・ビュー)ドローンであるファング(FANG, 牙の意)・シリーズの開発を加速させています。今後の製品ロードマップには、トライコーン(TRICHON, 三角帽子の意, フライトウェーブ・エッジ(FlightWave Edge) 130 Blueをベースとした、中距離マッピング、情報収集、監視、偵察用の軍用VTOLトライコプター)も含まれています。これらは、レッド・キャットのドローンのサポート範囲をMRRやLRR(中距離および長距離偵察)にまで広げる可能性があります。

レッド・キャットのアメリカ陸軍の期待を超えるための5年間にわたる努力は、まだ終わりを遂げてはいません。現代の紛争では、戦場の情報をどれだけ迅速に共有できるかが勝敗を決します。レッド・キャットは、将来のニーズを見据えたフューチャーズ・イニシアチブ(Futures Initiative)を立ち上げました。 これは、相互運用可能な最先端の無人航空機システムを戦闘員の手に届けることを目的とした、ロボティクスと自律システムに関する業界全体にわたる独立したコンソーシアム(訳者注:複数の企業や組織が特定の目的のために共同で結成した連合体)です。

フューチャーズ・イニシアチブの当初の支持および創設メンバーには、Ocean Power Technologies、Sentien Robotics、Primordial Labs、Athena AI、Unusual Machines、Reach Power、MMS Productsが含まれています。これらの企業は、「モジュラー・オープン・アーキテクチャを通じて既存の技術ギャップを埋めるための支援、統合および共同マーケティングを実現する」という単一の目標を共有しています。

わずか5年余りの間に、アメリカのドローン業界は目覚ましいイノベーションを成し遂げました。地政学的緊張が高まる中、レッド・キャットはある一つの任務に駆り立てられています。それは、戦闘員の安全を確保し、戦術的な状況判断を強化し、世界中の舞台におけるアメリカ軍のリーダーシップを支える、先進的で信頼性の高いドローン技術を提供することなのです。

ジョージ・マタス氏はプエルトリコのサンフアンを拠点とするレッド・キャット・ホールディングスの最高技術責任者です。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2024年12月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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