「SOP どおりに」――不測事態訓練の実践こそが惨事を防ぐ
陸軍航空部隊の航空搭乗員は、いかなる過酷な制約のもとでも複雑な任務を精確に遂行できるように日々訓練を重ねています。しかし、任務が計画どおりに進まない場合はどうなるのでしょうか。航空部隊の多くが「不測事態への備えはできている」と思い込んでいます。しかし、それは単に、部隊固有の作戦規定(Standard Operating Procedures, SOP)に参照できる手順が記載されているからにすぎません。

通信の途絶、意図しない計器気象状態(inadvertent instrument meteorological conditions, IIMC)への移行時の編隊解散、空中会合、あるいはゴー・アラウンド(着陸復行)といった複雑かつ高リスクな不測事態においては、概略的な知識だけではなく、搭乗員による実地訓練や検証の反復が不可欠なのです。
問題点:作戦規定は練度と同義ではない
作戦規定は不測事態対処の枠組みを提供するものですが、ストレス下での実経験の代替にはなりません。この経験を積み上げるためには、その文書に記載された内容を定着させるための継続的な訓練を行うしかありません。ブリーフィングで「通信途絶時は作戦規定に従って対処する」と述べるだけで、最後にその手順を実際に訓練したのが操縦課程やレディネス・レベル(readiness level)練成訓練であったのでは、ほとんど意味をなしません。航空科部隊は任務遂行を強く重視するあまり、組織内のすべての操縦士がダッシュ10(-10, 取扱書)に示された標準的な緊急操作手順を超えた緊急事態対処に習熟していることを前提にしがちです。
しかし、多くの指揮官には認識できていませんが、現実には、不測事態への対処を演練する機会はほとんどありません。飛行時間の制約、訓練飛行よりも任務飛行を優先せざるを得ない状況、任務要求を満たさなければならないプレッシャー、そして「何とかなるだろう」という軍人特有の楽観的な傾向が相まって、訓練に空白が生じています。暗視眼鏡(night vision goggle, NVG)使用時、低月照度、あるいは悪天候といった低視程環境での作戦中において、そのような状況に実際に直面すると、繰り返しの訓練によって培われるはずのマッスル・メモリー(muscle memory)の欠如により、本来であれば対処可能な事態が壊滅的な事故へと一気に転化しかねません。
不測事態が惨事に転じるシナリオ
通信途絶: 通信途絶には、多機による空中機動作戦中に編隊の1機が他の機と通信を失う場合があります。ブリーフィングで確認した不測事態に基づく信号を実際に演練したことがなければ、当該機に飛行上の重要情報が伝わらず、衝突リスクが増大する可能性があります。
意図しない計器気象状態への移行に伴う編隊解散: IIMCへの移行に伴う編隊解散は、航空搭乗員が編隊飛行中に予報されていない気象条件に侵入した場合に必要となります。航空搭乗員がIIMCの編隊解散手順を演練できていない場合、空中衝突のリスクが高まるのみならず、操縦操作の過大による操縦可能状態での墜落(controlled flight into terrain, CFIT)のリスクも増大します。
「我々は期待の水準には達しない。訓練の水準にまで落ちるのだ。」――アルキロコス(古代ギリシアの詩人・傭兵)
空中会合: 空中会合は、離脱した航空機が飛行編隊への復帰を試みる際に必要となります。空中会合手順を訓練できていないと、空中衝突のリスクが高まります。
部隊の作戦規定には、これらの不測事態シナリオのいずれについても、「答え」が記されています。しかし、プレッシャーが高まる中、練度の高い乗員が不足した状況においては、ためらい、意思疎通の失敗、あるいは危険な場当たり的対応に陥り、惨事に至ることが少なくありません。
不測事態訓練が重要な理由
- マッスル・メモリーを築く。 安全な回復と惨事が数秒で分かれる状況において、コックピットで作戦規定を参照する必要があってはなりません。
- 部隊の即応性と練度の空白を明らかにする。 訓練は、部隊の作戦規定内の矛盾や、実際に課業を実施したときの不明確な期待値を洗い出すことにつながります。
- 航空搭乗員間の連携を強化する。 各搭乗員が不測事態を一緒に訓練することで、全員が部隊の作戦規定に従った予測可能な行動をとるという相互信頼が育まれます。
- 航空事故を防ぐ。 不測事態訓練を行う最大の目的は、いかに過酷かつ困難な状況においても、緊急事態を管理可能な任務の逸脱として対処できる能力を担保することにあります。
結論
陸軍航空部隊には、不測事態を後回しの課題として扱う余裕がありません。航空搭乗員が空中会合やIIMCの編隊解散を初めて実施する場面が悪条件下の実任務であったならば、彼らは自分たちだけではなく、同乗者たちが求めている安全水準を満たすことにも失敗したことになります。小隊から大隊に至るすべての階層の指揮官は、航空搭乗員の訓練計画に、搭乗員訓練マニュアル(Aircrew Training Manual, ATM)に基づいた不測事態訓練が確実に組み込まれるようにしなければなりません。作戦規定は指針であり、保証ではありません。実効的な訓練こそが、文書に記された内容と実際に命を救う行動の間の懸け橋になるのです。
次の任務で予期せぬ事態が発生したとき、「作戦規定どおりに」という言葉だけが、あなたの搭乗員が頼れる訓練の全てであってはなりません。
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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