チェック欄を埋めるだけの点検

暑くて埃っぽい砂漠での、ある朝のことでした。私が所属していた任務部隊は、受入国からの要請により大規模な周辺地域の示威飛行(show-of-force)を行うため、飛行可能なブラック・ホークとアパッチをかき集めて離陸させました。帰投までは数時間ほどありましたので、私たちは水筒とキャメルバック(背負い式給水システム)に水を補給する短い休憩を取った後、作業に戻りました。エプロンに駐機していた部分的任務可能状態(partially mission capable)のアパッチ1機に数名の班でキャプティブ・ボアサイト・ハーモナイゼーション・キット(captive boresight harmonization kit)を装着し、調整作業を行っている最中に、突然、腹に響くほどの大きな衝撃音が機体の後方から聞こえ、感じられました。
何事かと思いながら、副操縦士/射手(co-pilot/gunner, CPG)席から身を乗り出して外を見た瞬間、血の気が引きました。1機のアパッチが予定より早く帰投し、トランスミッション・ベイから白い煙をもうもうと噴き出しながら、私たちのすぐ後方に緊急着陸を余儀なくされていたのです。私は急いでコックピットから飛び降り、いちばん近くにあった150ポンド(約68キログラム)のハロン消火器を引きながら、被害を受けた機体に向かいました。現場で合流した小隊陸曹が、その消火器のホースを繰り出しながら、煙を上げる機体に近づいてゆきました。
消火剤を放出するため、作動レバーのロックを解除しようとした私は、安全ピンを勢いよく引きました。しかし、そのピンはびくともしませんでした。引っ張ったり、揺さぶったりしながら、あらゆる方向に動かそうとしました。しかし、どうしても外れませんでした。半ばパニックに陥りながら、小隊陸曹をちらりと見上げました。騒音と混乱のなか、小隊陸曹は私をじっとにらみながら、「お前は・何を・やって・るんだ!」と一喝しました。その一言で、私は我に返りました。私はガーバー社のマルチツールを素早く取り出して、そのリングをプライヤーでつかむと、消火器のフレームを両足で押さえながら、渾身の力で引きました。突然、「ピン」という鋭い音とともにピンが外れ、私は後ろへ転がりました。
事態発生からすでに数分が経過しており、エプロン各所から隊員が現場に集まって、煙を封じ込めながら乗員を救出しようとしていました。私はすぐに体勢を立て直し、作動ハンドルを握って一気に開きました。すると、私にとっては恐ろしいことでしたが、周囲の者にとっては大いに愉快なことに、消火剤が轟音とともに真上に向かって30フィート(約9メートル)も噴き上がりました。消火剤は現場のすべての人や物の上に降り注ぎ、ともすれば惨事になりかねなかった現場に、笑いを巻き起こすことになりました。
結果として操縦士2名はいずれも無事であり、煙の原因も配線の不具合にすぎなかったことが分かりました。私は、消火器を持って真っ先に現場に駆けつけたにもかかわらず、その結果に何ひとつ寄与できなかったのです。苦い教訓でしたが、その意味するところは明白でした。エプロンの消火器の月次点検を担当していた隊員は、点検表のチェック欄をすべて埋めていましたが、それだけでは不十分だったということです。本来あるべき点検とは、ホースが劣化していないか、安全ピンが固着していないか(この事例ではまさに固着していました)を確認するといった、一歩踏み込んだ手順を実施することを意味します。使えるように見える装備と、実際に使える装備は別物であり、緊急時にはその差が結果を分けるのです。
出典:Checking the Box, Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年08月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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