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戦争省の人工知能戦略

戦争長官 ピート・ヘグセス

訳者追加。フォート・キャンベルで行われた指揮所演習で、最高デジタル・AI室の生成AI任務部隊の要員とともに、生成AIのワークフローを構築し、試験する第101空挺師団(空中機動)第3機動旅団戦闘団の兵士たち(出典:DVIDS。2026年9月1日撮影)

戦争長官(国防総省 1000、ワシントンDC 20301-1000)

2026年1月9日

あて先:戦争省高級幹部、各戦闘コマンド司令官、各国防機関および戦争省現業機関の長

件名:戦争省の人工知能戦略

米国の軍事AI優勢の加速(Accelerating America’s Military AI Dominance)

トランプ大統領は、大統領令第14179号において、「人間の繁栄、経済的競争力および国家安全保障を促進するため、米国の世界的な人工知能(Artificial Intelligence, AI)優勢を維持し、強化することが米国の政策である」と明言している。国家安全保障の領域では、「AIを活用した戦争」と「AIを活用した能力開発」が、今後10年のうちに軍事の様相を一変させることになる。この変革は競争であり、その勢いは、米国の民間部門から生まれる民生AI革新のペースの加速によって、一段と強められている。米軍は、戦闘員の殺傷性と効率性をさらに高めなければならない。その土台となるのは、この技術の導入における敵対者に対する優位性である。それはトランプ大統領の第1期に築かれたものであった。このため、戦争省(Department of War, DoW)に対し、「米国AI行動計画(America’s AI Action Plan)」に沿って、全構成組織にわたり前線から後方まで「AIファースト」の戦う軍となることによって、米国の軍事AI優勢(Military AI Dominance)を加速するよう指示する。

戦争省は、この目標を達成するため、次の方策を実施する。

以下に示す当初の7件のペース設定プロジェクトは、単一の責任者、野心的な日程、測定可能な成果、そして失敗が学習と改善を加速する迅速な反復という、新たな実行の基準を打ち立てる。

加速の方法(Acceleration Approach)

この戦略を進める手段は、引き続き、各軍種および各構成組織がAIに重点を置いて投じている多額の事業予算と人員を柱とする。また、議会が「一つの大きく美しい法案(One Big Beautiful Bill)」の形で時宜を得て措置した財源を、予算留保(統合加速予備費〔Joint Acceleration Reserve〕)の柔軟性の拡大とあわせて活用し、当面の軍事AIの導入のペースを速める呼び水とする。さらに、トランプ大統領のAI行動計画が掲げる「国際的なAI外交・安全保障の主導」に沿って、米国の同盟国・パートナー国のアクセス、能力、投資および知見を生かし、共通の目標達成を支援する。

最高デジタル・AI室(Chief Digital and AI Office, CDAO)とこれらの増強した資源を、1つの目的に集中させる。すなわち、戦争に勝つための取組みを加速するのに欠かせない基盤的支援要素を、省全体で使えるようにすることである。2026会計年度には、その手始めとして、以下に列挙する7件のペース設定プロジェクトを可能にする。これらのペース設定プロジェクトは、軍事AIの優位を高めるため、戦闘、情報および組織運営(エンタープライズ)の各任務領域における主要な好機をとらえる。

1. Swarm Forge(群れ〔スウォーム〕の鍛冶場):AIを活用した能力を用いて戦い、またそれに対抗する新しい戦い方を繰り返し見いだし、試し、広げていくための競争型の仕組み。米国の精鋭の戦闘部隊と精鋭の技術革新者を組み合わせて行う。

2. Agent Network(エージェント・ネットワーク):AIを活用した戦闘管理・意思決定支援を実現するため、戦役計画からキル・チェーンの実行に至るAIエージェントの開発と実験を自由に行えるようにする。

3. Ender’s Foundry(エンダーの鋳造所)(訳注:少年が訓練シミュレーションと信じて実戦を指揮するSF小説『エンダーのゲーム』に由来する名と見られる):AIを活用したシミュレーション能力と、シミュレーション開発・シミュレーション運用のフィードバック・ループを加速し、AIを活用する敵対者の先を行き続ける。

4. Open Arsenal(開かれた工廠):技術情報(Technical Intelligence, TechINT)から能力開発に至る流れを加速し、情報を年単位ではなく時間単位で武器に変える。

5. Project Grant(グラント計画)(訳注:名称の由来は覚書に示されていない):抑止を、静的な態勢と憶測から、解釈可能な結果を伴う動的な圧力へと変革する。

6. GenAI.mil(訳注:生成AI〔Generative AI〕と軍のドメイン名「.mil」を合わせた名):米国の世界最先端のAIモデルを、あらゆる秘密区分において300万人の文民・軍人の手に直接渡すことにより、省全体でAIの実験と変革を民主化する。

7. Enterprise Agents(組織運営用エージェント):組織運営のワークフローを変革するため、迅速かつ安全なAIエージェントの開発・配備の運用教程(プレイブック)を作成する。

各ペース設定プロジェクトは、模範となるプログラム・リーダーが、後援する組織とパートナーシップを組んで率いる。進捗は毎月、戦争副長官(以下「副長官」)および研究・工学担当戦争次官(Under Secretary of War for Research and Engineering, USW(R&E))に対して実演して示し、本覚書の日付から6か月以内に、移管先となる使用部隊による最初の実演を行う。

最高デジタル・AI室はまた、これらのプロジェクトが使えるようにした基盤的支援要素のすべてを、リアル・タイムで省全体の事業に提供する。これにより、ペース設定プロジェクトが実行を速めれば、省内の各プロジェクトもそれにつれてペースを速められる。したがって、各軍省、各戦闘コマンド、各国防機関および現業機関に対し、これらのペース設定プロジェクトに素早く追随するため、30日以内に少なくとも3件の優先的に進めるプロジェクトを選び出すよう指示する。自律、C-C5ISRT(対C5ISRT〔指揮・統制・通信・コンピュータ・サイバー・情報・監視・偵察・ターゲティング〕)、先進製造などを含む6つの重要技術分野における取組みも、引き続き戦争省のペースを速めるものでなければならない。また、各別冊(秘密)に示された特別な施策も、本覚書に別送で添付する別冊(秘密)のものを含めて加速する。最高デジタル・AI室は、こうして広がったAIの取組みの全体を、速さと効果の面で追跡して順位を付け、進捗を毎月、副長官および研究・工学担当戦争次官に報告する。

AI計算資源(AI Compute)。AIおよび自律の加速に向けた投資の一環として、データセンターからエッジ(末端)に至るAI計算インフラへのアクセスの拡大に多大な資源を投じる。米国の世界最先端の企業と結ぶ、広がりつつある創造的なパートナーシップを通じて、米国のAI分野に投じられている数千億ドル規模の民間資本投資を生かす。各省庁のパートナーと協力し、新たな安全なデータセンターの技術規格を定める。さらに、トランプ大統領の科学技術革新のための「ジェネシス・ミッション(Genesis Mission)」が開発中の「米国科学・安全保障プラットフォーム(American Science and Security Platform)」を支援し、活用する。これにより、戦闘員と能力の開発担当者が、米国のAI計算資源と最新の革新の恩恵を余すところなく受けられるようにする。

データへのアクセス(Data Access)。AIによる活用と任務上の優位のためにデータをさらに使えるようにするべく、最高デジタル・AI室に「国防総省データ布告(DoD Data Decrees)」を執行するよう、また戦争省のすべての構成組織にこれを順守するよう指示する。各軍省および各構成組織は、2021年5月の省の覚書「データ優位の創出(Creating Data Advantage)」が義務付けるとおり、あらゆる秘密区分にわたってシステムのインタフェース、データ資産およびアクセス手段を開示する連携型(フェデレーテッド)データ・カタログを整備し、維持し、更新する。各組織は、現在のカタログを、利用できる更新をすべて含めて、本覚書の日付から30日以内に最高デジタル・AI室に提出する。情報・保全担当戦争次官は、情報データが同様の扱いを受け、同じ期間内に活用の経路が整えられるようにする。最高デジタル・AI室は、保全上の指針に従い、秘密取扱資格を持ち正当な目的を有する利用者に対して戦争省のあらゆるデータの提供を指示する権限を有する。今後、最高デジタル・AI室のデータ要求を拒否する場合は、7日以内に研究・工学担当戦争次官に対してその理由を示さなければならず、同次官はこれを是正するか、副長官に上申する。我々のデータの優位は、開発者と運用者がそれを活用できなければ無意味である。

人材(Talent)。最後に、米国の最良の人材は、戦争省がAI能力の開発と導入をこのように速める態勢に注目すると私は信じており、各軍種および各構成組織がこうした人材を引きつけ、確保することを期待する。そこで、技術人材をAI関連の職に採用するペースを速めるため、省全体で特別な採用・給与の権限、ならびに人事管理局(Office of Personnel Management。訳注:原文の表記は「Office of Personnel and Management」)などのパートナーによる新しい人材プログラムを用いるよう指示する。また、各構成組織に対し、本覚書から60日以内にAI人材の採用・育成計画を人事・即応性担当戦争次官に提出するよう指示する。同次官は、その後30日以内に承認、却下または修正を行う。

加速への期待(Acceleration Expectations)

この戦略は我々の優位を加速するものであり、戦士の精神(Warrior Ethos)をもって実施しなければならない。戦争省を戦時態勢に立て直す方針に沿い、軍事AI優勢を維持するためのこの競争において、次の考え方が、我々の実行に欠かせない要素として身に付くことを期待する。

速さが勝つ(Speed Wins)。軍事AIが当面の間は競争であり、したがって速さが勝つことを、我々は肝に銘じなければならない。学習の速さを武器とし、サイクル・タイムと導入率をAI時代の決定的な変数として測定し、管理しなければならない。十分に速く動かないリスクは、足並みが完全にはそろわないリスクを上回る。このことを受け入れなければならない。最高デジタル・AI室に対し、すべてのペース設定プロジェクトについて配備の速度と運用サイクル・タイムの指標を定め、副長官および研究・工学担当戦争次官への月例報告の焦点とするよう指示する。

AIモデルの同等性(AI Model Parity)。我々は、最先端(フロンティア)AIモデルの進化において前例のない速さを目にしている。これらのモデルは日ごとに賢く、堅牢になっている。戦争省が、数か月あるいは数年前のモデルで仕事をしていてよいはずがない。最新かつ最良のAIモデルを戦闘員のために配備しなければならない。これらの能力をあらゆる階層に配備するだけでは到底足りず、あらゆる階層でモデルの迅速な更新を支え、持続できなければならない。最高デジタル・AI室に対し、最新のモデルを一般公開から30日以内に配備できるよう、AIベンダーとの納入・組込みの周期を定めるよう指示する。これは、今後のモデル調達における主要な調達基準となるものとする。

障害への戦時の取り組み(Wartime Approach to Blockers)。データ共有、運用認可(Authorization to Operate, ATO)、試験・評価および認証、契約、採用・人材管理、その他の方針から、迅速な実験と配備を妨げる障害を取り除かなければならない。リスクのトレードオフ、「利害関係(equities)」、その他の主観的な問題に対しては、戦時であるかのように取り組まなければならない。このため、最高デジタル・AI室が戦時の最高デジタル・AI室(Wartime CDAO)として行動し、最高情報責任者と協力して、法律上の権限と委任された権限を最大限に活用することを期待する。これにより、省全体でペースを押し上げる指導者たちに代わって、領域横断のデータ・アクセスや運用認可の迅速な相互承認を含めたAI能力の提供を加速する。研究・工学担当戦争次官は、法律の定めによらない要求事項の適用を一時免除する権限と、障害を即時解決のために上申する権限を持つ月例の「障壁除去委員会(Barrier Removal Board)」を設置する。

競争>中央計画(Competition > Centralized Planning)。米国のAIエコシステムが示すとおり、成果を透明な指標で測る小規模チーム同士の活発な競争こそが、民生AIで主導的地位を得る原動力である。このモデルを戦争省に持ち込み、活発な競争を奨励して、軍事AIの導入の加速を促さなければならない。革新が動的で予測不能なこの競争では、小規模で責任の明確なチームが手続き(プロセス)に勝つ。成功は、継続的な実地実験によって測る。すなわち、AI能力を運用者の手に渡し、年単位ではなく日単位でフィードバックを集め、敵が適応するより速く更新を送り込む。最高デジタル・AI室に対し、これらのAI加速の取組みの成否を評価するため、AIシステムの利用状況と任務への効果の指標を定めるよう指示する。市場の力学によって資源配分が決まるよう、関連する能力の今後の資源配分と廃止に関する決定は、主としてこれらの指標に基づいて行う。

AIネイティブの戦闘(AI-Native Warfighting)。能力の革新とあわせて、AIおよび自律を、軍事計画、戦術、技術および手順(tactics, techniques and procedures, TTP)の開発、ならびに実験のプロセスに、より全面的に組み込まなければならない。各軍種の長および各戦闘コマンド司令官に対し、30日以内にAI導入責任者(AI Integration Lead)を指名するよう指示する。AI導入責任者は最高デジタル・AI室と協力し、AIを活用した能力を戦闘のコンセプトおよび実験とともに進化させることに責任を負う。最高デジタル・AI室に対し、AI能力を用いた活発な実験の基準を定めるよう指示する。また、統合参謀本部に対し、各軍種のAI戦闘コンセプトの開発とワークフローの最適化を監督する高官を指名し、四半期ごとに私に進捗を報告するよう指示する。旧来の戦闘の手法にとらわれず、この破壊的な技術を用いて我が軍の殺傷性を何倍にも高めなければならない。AIおよび自律能力を実質的に取り入れない演習と実験は、費用評価・プログラム評価局長(Director of Cost Assessment and Program Evaluation)が資源配分の見直しのために審査する。

モジュラー・オープン・アーキテクチャ(Modular Open Architectures)。AI軍拡競争においては、優越を維持するため、システムのアーキテクチャは、民生分野と同じ速さで構成品を交換できるものでなければならない。AI能力を取得する各軍省および各構成組織のプログラム・マネージャーに対し、「国防総省データ布告」とあわせてモジュラー・オープン・システム・アーキテクチャ(Modular Open System Architectures, MOSA)を徹底し、主契約企業の支援なしに第三者が統合できるだけのモジュラー・インタフェースと関連文書を開示するよう指示する。

戦争省における「責任あるAI」の明確化――空想的な理想主義を去り、現実主義へ(Clarifying “Responsible AI” at the DoW — Out with Utopian Idealism, In with Hard-Nosed Realism)。多様性・公平性・包摂性(Diversity, Equity, and Inclusion, DEI)や社会的イデオロギーは戦争省に入り込む余地はなく、したがって、利用者の問いかけに客観的で真実に基づく回答を返す能力を損なうイデオロギー的な「調整(チューニング)」を組み込んだAIモデルを用いてはならない。戦争省はまた、利用方針に合法的な軍事利用を制限しかねない制約がないモデルを使わなければならない。したがって、最高デジタル・AI室に対し、90日以内にモデルの客観性の基準(ベンチマーク)を主要な調達基準として定めるよう指示し、調達・維持整備担当戦争次官に対し、180日以内に戦争省のすべてのAIサービス調達契約に、標準の「あらゆる合法的用途(any lawful use)」の文言を盛り込むよう指示する。また、最高デジタル・AI室に対し、省の既存のAI方針指針のすべてを本覚書に示した指示に整合させるよう指示する。

AIファーストの省となる(Becoming An AI-First Department)

AIの導入を加速する時は今であり、我々は、戦争省の指導部、資源、そして拡大しつつある民間部門のパートナーの総力を、米国の軍事AI優勢の加速に注ぎ込む。

「AIファースト」の戦う軍となるには、既存のワークフローにAIを組み込むだけでは足りない。既存のワークフロー、プロセス、戦術、技術および手順、作戦コンセプトが、それらの作られた当時に現在のAI技術が存在していたらどう設計されていたかを構想し直し――そのうえで、それに従って作り直すことが求められる。

この変革を戦争省のあらゆる側面にわたって推し進めなければならない。上に示した期待は、統合軍にとっての技術面における「AI体力検定基準(AI fitness standards)」(訳注:軍の体力検定になぞらえた表現)とならなければならない。2026年は、我々が軍事AI優勢の水準を断固として引き上げる年となる。

(署名)ピート・ヘグセス

訳者コメント:
令和8年版防衛白書は、本覚書を「『米国の軍事AI優勢の加速』と題する覚書」と呼び、別の節では「AI加速戦略」と呼んでいます。本記事の題は覚書の件名を訳したものですが、いずれも同じ文書を指しています。
冒頭に引用された大統領令第14179号は、2025年1月23日に署名された「人工知能における米国の主導権に対する障壁の除去」です。本覚書の「ペース設定プロジェクト」のうち、GenAI.mil は覚書に先立つ2025年12月に運用が始まっており、白書も、同月に戦争省の全機関で生成AIが導入されたと記しています。官僚機構の障壁を取り除き、速さを求める姿勢は、同じ長官による2025年7月の覚書(本サイトの「米国の軍用無人航空機優勢の解放」)にも見られます。
本文の「あらゆる合法的用途」は、AIサービスの契約に盛り込むよう指示された文言です。米国の防衛専門誌 Defense One(2026年1月13日)は、この文言について、AIの使用には、武力の行使一般に適用される法的基準を満たせば足り、自律兵器に「有意な人間の統制」を求めるような、より高い基準は要しないことを意味すると解説しています。ただし同誌は、覚書が「有意な人間の統制」を重視してきた方針を明示的に撤回してもいないと指摘しています。いずれも同誌の解釈であり、覚書の文言ではありません。
結びの文の原文は "2026 will be there year" となっていますが、"the year" の誤記と判断して訳しました。
                               

出典:Artificial Intelligence Strategy for the Department of War, Memorandum, Secretary of War 2026年1月9日

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本文書は米国政府の著作物(パブリック・ドメイン)であり、転載・翻訳に承認を要しない

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