「世界一無人アセットを駆使する組織」へ──令和9年度概算要求は何を求めたのか
令和8(2026)年8月31日、防衛省は「防衛力の変革に向けた予算-令和9年度概算要求の概要-」を公表しました。来年度の予算として何にいくら必要かをまとめたものです。
この概算要求の概要には、「世界一無人アセットを駆使する組織」への変革を目指す、という一文があります。無人アセットをめぐって、防衛省は何を求めたのでしょうか。
「世界一無人アセットを駆使する組織」という宣言
「無人アセット」とは、人が乗らずに動く装備の総称です。空を飛ぶUAV(無人航空機)だけでなく、地上を走るUGV、水上を進むUSV、水中を潜るUUVを含みます。
防衛省は、無人アセットを駆使することで「人的損耗を局限しコスト優位を実現」するとし、その使い方を三つ挙げています。
- 無人アセットで相手方のドローンを安価に迎撃し、反撃能力としても活用。
- 洋上侵攻に際しては、相手の攻撃を「吸収」し、スタンド・オフ・ミサイルと組み合わせて早期遠方でより効果的に対処。水中の脅威は可視化・無力化して水中優勢を獲得。
- そのほか、有人アセットの機能を代替。
そのうえで、こう宣言しています。
「『世界一無人アセットを駆使する組織』への変革を目指す。」
この文言は、概算要求で初めて出てきたものではありません。小泉防衛大臣が今年3月19日、三文書の改定に向けた省内の会議(防衛力変革推進本部)で、「自衛隊は『世界で最も隊員の命を大切にする組織』でなければなりません。そのためにも、自衛隊を『世界一無人アセットを駆使する組織』に変革します」と述べたのが、公表されている資料で確認できる最初のものです。

何を求めたのか
無人アセットについての概算要求は、次の4つに区分されます。
- 情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング(ISRT)機能の強化
- 攻撃機能の強化
- スタンド・オフ防衛能力の強化
- UGVの導入
各区分ごとに要求された事業は、表1のとおりです。
表1:無人アセット防衛能力の主要事業
| 区分 | 事業名 | 令和9年度概算要求額 | 事業の概要 |
|---|---|---|---|
| ISRT機能の強化 | 滞空型UAV「MQ-9B」の取得(17機、海上自衛隊) | 2,922億円+事項要求 | 太平洋側の警戒監視を強める滞空型の無人機。昨年は機体4機を含む取得等で770億円 |
| 目標情報収集用無人機の取得 | 113億円 | スタンド・オフ・ミサイルで撃つ相手を見つける | |
| UAV(中域用)VTOL型の取得(陸上自衛隊) | 87億円+事項要求 | 師団・旅団の情報隊が使う偵察無人機スキャンイーグル2の系列に、垂直に離着陸できる型を加える(新規) | |
| 艦載型UAV(小型)の取得 | 36億円+事項要求 | 艦艇に載せる小型の無人機。昨年の概算要求では「敵艦艇等を攻撃可能」と説明 | |
| 攻撃機能の強化 | 小型攻撃用UAVの取得(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ型、陸上自衛隊) | 363億円+事項要求 | 近距離用のⅠ型から遠距離用のⅢ型までの三つ。Ⅰ型は今年3月に量産の契約を締結 |
| 迎撃UAVの取得 | 76億円+事項要求 | 相手のドローンをドローンで迎え撃つ。この名前の事業が概算要求に立つのは初めて | |
| 水上艦発射型UAVの取得 | 事項要求 | 艦艇から発射して敵の艦艇などを攻撃する | |
| モジュール型UAVへの攻撃機能の付与検証 | 事項要求 | 昨年は情報収集用とされた機体に攻撃機能を付ける検証 | |
| スタンド・オフ防衛能力の強化 | 低コストなスタンド・オフ防衛用UAVの開発 | 事項要求 | 民生部品を使って安価に大量生産し、スタンド・オフ・ミサイルと組み合わせる |
| UUV用スタンド・オフ・ミサイル発射モジュールの研究 | 事項要求 | UUVからスタンド・オフ・ミサイルを発射するための装置 | |
| UGVの導入 | 汎用小型UGVの開発 | 95億円+事項要求 | 地上の無人車両(新規) |
| 金額が付いている7事業の合計 | 3,692億円 | ||
※出典:防衛省「令和9年度概算要求の概要」「令和8年度概算要求の概要」ほか。金額は契約ベース。合計は筆者の計算。

ただし、その金額は、「◯億円+事項要求」または単に「事項要求」となっているものが多く、明確には示されていません。政府は7月21日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2026」で、令和9年度予算については、年内に改定する三文書を踏まえて検討することとしていました。このため、概算要求においては、現行の防衛力整備計画を踏まえた事業の所要額のみを計上し、三文書の改定に左右される事業の所要額は「事項要求」として、年末に持ち越されています。
金額が付いている7つを足すと3,692億円になります。これは、分野ごとの金額が示されるようになった令和6年度以降で、最大の要求です。
表2:無人アセット防衛能力の推移
| 年度 | 概算要求 | 予算 |
|---|---|---|
| 令和6年度 | 約1,184億円 | 約1,169億円 |
| 令和7年度 | 約1,032億円 | 約1,110億円 |
| 令和8年度 | 約3,128億円 | 約2,773億円 |
| 令和9年度 | 分野別の記載なし(金額の付いた7事業の合計3,692億円) | 未定(年末の予算案で決定) |
※出典:各年度の防衛省「概算要求の概要」「予算の概要」。各年度の金額は、分野の見出しに示された額(他の分野にまたがる事業を含む)。令和9年度は筆者が同項の事業を合計。金額は契約ベース。
※7事業の合計は筆者の計算であり、防衛省が分野別金額を算出する方法と同じとは限りません。比較は「無人アセット防衛能力」の見出しの下に並ぶ事業の範囲で行いました。
何が見えなくなったのか
今年の概算要求の概要には、昨年の概算要求の概要にあったのに掲載されなかった事業があります。陸上自衛隊が導入を検討している多用途UAVの調達枠とみられていた「UAV(広域用)」、航空自衛隊の「レーダーサイト防衛用UAV」、無人アセットを組み合わせて沿岸を守る構想「SHIELD」などです。
表3:昨年の概算要求の概要にあって今年は名前が見当たらない事業
| 区分 | 事業名 | 令和8年度概算要求額 | 事業の概要 |
|---|---|---|---|
| ISRT機能の強化 | UAV(狭域用)/UAV(狭域用)汎用型(陸上自衛隊) | 49億円(189式)+39億円(767式) | 部隊レベルの小型偵察機。令和6年度から毎年取得。今年の資料に記載なし |
| UAV(広域用)(陸上自衛隊) | 111億円(5式) | 水上艦艇などを遠くから早期に探知する。令和8年度予算で取得済み | |
| 水際障害探知UAV(陸上自衛隊) | 7億円(6式) | 海底地形を含む水際の障害情報を集める。歳出の要求書に4.0億円で計上 | |
| ISR用小型USVによる警戒監視態勢構築のための実証試験 | 20億円 | 小型USVが警戒監視に使えるかを試す(早期装備化実証推進事業)。歳出の要求書に15.7億円で計上 | |
| SHIELD構築のためのUAV・USV・UUVの取得 | レーダーサイト防衛用UAV(航空自衛隊) | 1,287億円の内数 | 敵のUAVからレーダーサイトを守る。昨年唯一の迎撃型。今年の「迎撃UAV」に引き継がれたとみられる |
| 艦艇攻撃用UAV(航空自衛隊) | 1,287億円の内数 | 長距離を飛んで敵の艦艇などを攻撃する。令和8年度予算に計上 | |
| 小型多用途USV(陸上自衛隊・海上自衛隊) | 1,287億円の内数 | 敵の艦艇などを攻撃する無人艇。Ⅰ型は今年3月に実証試験の契約を締結 | |
| 小型多用途UUV(陸上自衛隊) | 1,287億円の内数 | 敵の艦艇などの情報を集める。令和8年度予算に計上 | |
| 多層的沿岸防衛体制「SHIELD」(構想) | 1,287億円 | 無人アセットを組み合わせて沿岸を守る構想。令和9年度中に構築。今年の資料に名前なし | |
| その他 | 無人機同時管制機能の導入に資する実証 | 23億円 | 多数の無人アセットを同時に管制する実証(早期装備化実証推進事業)。歳出の要求書に22.5億円で計上 |
| 無人アセットに関する研究開発 | UAV連携型AI駆動オフロードUGVの研究 | 45億円 | UAVとAIを載せ、悪路で輸送・偵察・攻撃支援を自律的に行うUGVの研究。今年の資料に記載なし |
| 進捗欄のみ | 輸送用UAV(小型) | 記載なし | 陸地と艦艇の間の輸送を試す実証(早期装備化実証推進事業)。昨年7月に実証試験。歳出の要求書では今年「輸送用UAV(滑空投下器材)」に1.0億円を計上 |
※出典:防衛省「令和8年度概算要求の概要」「令和9年度概算要求の概要」「令和9年度概算要求書」を筆者が突き合わせ。区分は昨年の資料の項目。金額は契約ベース。「内数」はSHIELD構築費1,287億円に含まれ、個別の金額が示されていないもの。
※早期装備化実証推進事業:防衛省が企業などから提案を募り、既製品や民生技術を運用実証して5年以内の装備化を目指す仕組み。研究開発とは別の枠。
ただし、概算要求の概要に載っていないことは、実行していないことを意味するものではありません。UAV(広域用)は令和8年度予算で5式111億円を取得済みで、SHIELDを構成する無人アセットも令和8年度予算の1,001億円で取得し、令和9年度中に体制を構築するとされていました。取得が一巡した事業が概要から消えるのは自然なことです。
むしろ目を引くのは、消えた名前の先に、姿を変えた事業が見えることです。概算要求の概要は新規事業を青字で示していますが、「迎撃UAV」は黒字、つまり継続事業として扱われています。昨年の資料で迎撃型のUAVは、航空自衛隊のレーダーサイト防衛用UAVだけでした。任務と自衛隊を特定したこの事業が、どちらも特定しない「迎撃UAV」に引き継がれたとみられます。
このように、名前が見えなくなった事業の中には、廃止されたのではなく、1年のうちに次の段階へ移ったとみられるものがあります。そこに表れているのは、無人アセットをめぐる変革の速さと大きさです。
見えたもの、年末に見えるもの
概算要求は、「世界一無人アセットを駆使する組織」への変革を求めました。個々の事業の金額は、事項要求として年末に持ち越されたものが多く、いまの時点では分かりません。しかし、示された金額だけで、無人アセットの要求はすでに過去最大です。年末の予算案では、それがどこまで大きくなるか、具体的に何が充実するのかが見えてくるはずです。
本記事の略語
| 略語 | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| UAV | Unmanned Aerial Vehicle | 無人航空機 |
| UGV | Unmanned Ground Vehicle | 無人車両 |
| USV | Unmanned Surface Vehicle | 無人水上艇 |
| UUV | Unmanned Underwater Vehicle | 無人水中航走体 |
| ISRT | Intelligence, Surveillance, Reconnaissance and Targeting | 情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング |
| VTOL | Vertical Take-Off and Landing | 垂直離着陸 |
※この記事は、2026年9月5日時点で公表されていた資料に基づいて執筆したものです。
関連リンク
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発行:Aviation Assets 2026年10月2日
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