不具合発生時の飛行継続
それは、リスクに値することなのか?
パイロットというものは、自分自身だけでなく、他の搭乗員や航空機にも無理を強いる存在です。一連の事象が生じている間に、副操縦士、機体、そして自分自身に無理を強いたがために、悲劇的な結末をもたらすところだった事例を紹介したいと思います。
別の部隊から、MND-C(Multinational Division Center, 多国籍師団)における任務を引き継いだ我々は、その作戦地域での全ての飛行任務を行っていました。そのMND-Cの担任地域は、南部のタリルからバグダッド国際空港に至るイラクの広大な地域に広がっていました。
その日、2機のアパッチで編成され我々のチームは、バグダッドからおよそ50キロ東にあるFOB(フォワード・オペレーティング・ベース、前方運用基地)において、飛行任務を実施していました。我々の旅団が北および東方向から圧迫を加えていたこの地域においては、武装勢力による支配が続いており、IED(improvised explosive device,簡易爆発物)による攻撃が頻繁に発生していました。旅団は、ハマーと名付けられたFOB(フォワード・オペレーション・ベース、前方運用基地)を設定するとともに、2カ所のFARP(forward arming and refueling point, 弾薬燃料再補給点)を開設していました。
任務を終了し、BIAP(Baghdad International Airport, バクダッド国際空港)に戻ろうとしていた我々は、燃料を補給するためFARPに向かっていました。
私は長機の機長であり、副操縦士とともに編隊を指揮していました。その副操縦士とは、いつも一緒に飛行している間柄であり、リラックスした飛行を楽しんでいました。もう1機の航空機は、ある教官パイロットと大尉が操縦していました。
1,500フィートで水平飛行に移行するとすぐに、何かが焼けるような匂いを感じました。副操縦士に、何か燃えているような匂いがしないか、と尋ねました。「いいえ」と答えた副操縦士は、その前日のジェネレーター焼損との関連を示唆しました。新しいジェネレーターに交換された後も、その不具合で生じた匂いが残っているのであろう、という意見でした。我々は、匂いのことは気にしないことにし、FOBハマーを離脱しました。(最初の着陸するチャンス)
10分位飛行した頃、焼けるような匂いを再び感じました。今度は、先ほどよりも強い匂いでした。私は、副操縦士に、何か焼けるような匂いがしないか、ともう一度聞きました。彼は、そんな匂いはしない、と言いました。私は、何かが燃えているに違いない、と言いました。彼は、今度も、ジェネレーター焼損による燃えカスが残っているのではないか、というようなことを言っていました。その時、「GEN 1 FAIL(No.1 ジェネレーター故障)」の警告灯が点灯しました。そして、プラスチックが燃えるような匂いが、今度は副操縦士にも感じられました。我々は、その事象に対する対応を検討した結果、不具合の発生したジェネレーターをリセットせずに、シャット・ダウンすることにしました。副操縦士がジェネレーターをオフにすると、私は11Wとも呼ばれていたアッラシード飛行場に向け、進路を変更しました。
11Wに近づくにつれ、匂いは消えてしまい、他に機体に問題はなさそうでした。不具合の発生を伝えていた僚機からも、機体からの煙の発生は、確認できていませんでした。ディヤーラ川を渡ると、副操縦士と私は、11Wに向かうことが最善の行動方針かどうかを話し合いました。我々は、不具合が発生しているのはジェネレーターだけであると確信できており、機体はまだ飛行可能だし、BIAPはそれほど遠くないと考えました。その前の日に、ジェネレーターが焼損した際には、11Wに着陸したのですが、その時に11Wには十分な整備環境がないことが分かっていました。このため、今回は、BIAPまで戻ろうと決心しました。西に進路を変更した時、11Wの長い滑走路が右側のドアから見えました。(2番目の着陸するチャンス)
更に10分ほど飛行した時、私の方のコックピットに灰色の煙が充満し始めました。外が見えなくなったので、副操縦士に操縦を交代しました。我々は、BIAPまで20キロメートルの地点をルート・ジャクソン沿いに飛行していました。10キロメートル北にあるFOBやその他たくさんのチェックポイントに着陸できる場所がありました。しかしながら、それらは、武装勢力の脅威が存在する地域でした。どこに行くにしても、まずは充満している煙を排出する必要がありました。134ノットで飛行しながら、コックピットのドアを両手で押し開け、素早く煙を排出しました。
BIAPに無理やり向かい続けていた我々は、FOBファルコンを通過しました。結果的には、そこが最も安全に着陸できる場所だったのです。(3回目の着陸するチャンス)
BIAPの空域に進入すると、座席の後方から、大きな摩擦音が聞こえ始めました。それは、トランスミッション・デッキの上で、ジェネレーターが分解し始めた音でした。ベース・レグに進入する頃には、ジェネレーターがバラバラになりながら、振れ回り始めたに違いないと思っていました。ファイナルに入りながら、エプロンに消防車を待機させるように要求しました。空中機動の時のような大きなフレアーをかけてから着陸すると、エプロンに向けてできるだけ速くタクシーしました。エンジンを停止し、航空機をシャット・ダウンすると、副操縦士は、座席ベルトを外して、機体から飛び出して行きました。私も、そのすぐ後に続きました。既に航空機は、消防隊員たちに取り囲まれていました。機体から30メートル位離れてから立ち止まり、機体を確認しました。火も煙も出ていませんでした。後に、ジェネレーターが焼損し、自己粉砕していたことが判明しました。実際には、火災は発生しておらず、自己粉砕により煙が発生しただけでした。
教訓事項
FOBハマーからBIAPまでの飛行時間は、約40分間でした。振り返ってみれば、概ね10分毎に着陸するチャンスがありました。幸運なことに、煙が発生しただけで火災には至りませんでしたが、そうなった可能性は十分にあったのです。
BIAPに到着するまでの間に、いくらでも違った行動をとることができました。まずFOBハマーに戻っても良かったし、次に11Wに着陸することもできたし、その後もFOBファルコンの搭乗ターミナルに着陸することができたのです。しかしながら、我々は、事後の整備、当直勤務の問題、敵情などの様々な状況に基づき、無理に飛行を継続することを選択してしまいました。
この飛行から私が学んだのは、同僚パイロット、機体および自分自身に無理を強いることが、不適当な場合もある、ということでした。不具合発生時に飛行を継続することは、そのリスクに値するものでしょうか? 我々には、特に任務があったわけではなく、単に基地に戻るだけだったのです。FOBハマーや11Wで一夜を過ごすことになったとしても、焼け焦げになるよりはずっとましだったはずです。私は、BIAPまで戻れるという方に賭け、その賭けに勝ちました。しかし、もう2度と、こんなことにサイコロを振ることはないでしょう。
出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年06月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
敵地における不具合発生時の状況判断、難しいですよね。