AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

ブラウンアウト・ランディングの習得

上級准尉5(退役) デニス・マッキンタイア
テキサス州フォート・ワース

Mastering Brownout Landings

今日のヘリコプターは、数年前に想定されていたものとは全く異なる環境および頻度で運用されています。東ドイツの国境警備が主な任務だった頃には、ブラウンアウトなど想像したこともありませんでした。アフガニスタンやイラクでの戦争を通じて、この問題が表面化するようになったのは、近年になってからのことなのです。

ヘリコプターのローター・ウォッシュによって巻き上げられる砂塵の中での着陸(ダスト・ランディング)は、どんなに優秀なパイロットにとっても克服することが困難な課題です。強烈な砂塵によってブラウンアウトが生じるからなのですが、ここで問題なのは、それが「生じるかどうか(if)」ではなく「いつ生じるか(when)」なのです。「生じるかどうか」は我々が制御することができませんが、「いつ生じるか」はわずかではありますが制御できる余地があるからです。

着陸段階において巻き上がる砂塵に関して重要なのは、空気の渦により大量の砂塵がローター・システムを通過するようになるまでは、完全なブラウンアウトは生じない、ということを理解することです。ブラウンアウトが生じる前に接地できれば、容易かつ安全に着陸することができるのです。さらに、接地後の滑走距離(ground roll/run)は、機体の進入角度(angle of approach)と降下速度(rate of descent)の相関関係によって決まることを理解しなければなりません。これは、次のように説明することができます。極端な例ではありますが、対気速度が高く(接地速度が有効転移揚力速度〈effective transitional lift〉以上)、降下速度が十分に低く、接地後の滑走距離を長く確保できる場合は、進入角度を浅くすることができます。このような進入要領は、習得が比較的容易であり、平坦な障害物のない場所に着陸する場合においては有効です。

説明を容易にするため、反対に極端な例として、進入角度が90度の場合を考えてみましょう。この理論上の進入においては、対気速度が0で、降下速度が非常に大きくなりますが、設置後の滑走がほとんど不要になります。このような進入を実際に行うことは、極めて困難です。繰り返しますが、これは非常に極端な例であり、このような進入要領を推奨しているわけでは決してありません。これら2つの極端な例の間に該当する諸元を用いることにより、接地後の滑走距離を最小限にしつつ、安全に制御されたダスト・ランディングを行うことができるのです。

私は、長年にわたり、他のパイロットを指導しながら、何千回ものダスト・アプローチを行ってきました。そこから学んだのは、砂塵の発生しやすい降着地域へのダスト・ランディングにおいては、通常よりも進入角度を大きくした方が良い結果が得られるということです。この要領で進入することは、技術的に難しいことではありますが、すべてのパイロットが習得すべき技法であると確信しています。

大きな角度による進入は、通常の進入よりも降下速度が高くする必要があります。降下速度を高くすると言っても、空から降ってくるように降下する必要はありません。それは、無理なことです。例え大きな進入角度で進入しても、ブラウンアウト状態が前触れもなく発生することに変わりはないのですが、砂塵がローター・システムを循環し始める時期を遅らせることができます。このため、ブラウンアウト状態になる前に着陸を完了できる可能性が高まるのです。

この進入を行うためには、タイミングを逃さずに接地するように操縦桿を操作できる高度な操縦能力が必要となります。しかしながら、この技法は、凸凹のある砂塵の多い降着地域に着陸する際において、明らかに有効です。この技法を用いることにより、進入のほぼ全過程を通じて降着地域を目視で確認できるし、かつ、接地後の滑走距離を短くすることもできるからです。

この要領によるダスト・ランディングを実施できるようになるためには、経験豊富な教官操縦士に隣に乗ってもらいながら、反復演練を行うしかありません。その訓練の大部分は、機体の摩耗を防止するため、砂塵の発生しない場所で行うことができます。ただし、最終試験は、真のブラウンアウト状態で行わなければなりません。そうでなければ、この技能が本当に身に着いたかできたどうかを判定できないからです。

多くのパイロット、特に余剰馬力の大きな機体を操縦しているパイロットには、風向きを気にせずに着陸方向を決定する者が多いことに驚かされます。はっきり言って申し訳ないが、そのような着陸要領は容認できません。背風状態においてブラウンアウトになる前に着陸を完了するためには、正対風の状態よりも高い対地速度で着陸しなければならないからです。「風弱し」という情報は、必ずしも風がない状態を意味するものではありません。ダスト・ランディングにおいては、2~3ノットの風であっても、着陸の成否に大きく影響を及ぼす可能性があるのです。

このことは、ぜひ、自分自身で体験してもらいたいと思います。弱い風が吹いているときに、背風と正対風でダスト・ランディングを試して見るのです。斜め後方あるいは斜め前方からの風であっても構いません。恐らく、その違いに驚くことになると思います。

このため、地上風の方向を知ることは、特に重要です。私の場合、それを確認するための信頼できる指標(樹木、砂塵、煙または水面)がない時には、最終降着地点から離れた場所に低空進入して、自分の機体で砂塵を起こすようにしています。最終降着地域から離れた場所で行うのは、じ後の進入の前に地面を荒らさないようにするためです。この手順を踏むことにより、風向を正確に判断したうえで、他の要素を踏まえて総合的に分析し、進入方式を決定することができるようになります。

編隊での着陸(formation landing)は、着陸または着陸復行の間に他機と衝突する可能性があるため、危険度がさらに増大します。編隊での着陸において、各パイロットが的確に操縦できるようになるためには、各個訓練だけではなく、部隊訓練が必要となります。着陸のための技法自体は単機での着陸と変わらないのですが、編隊内の全機の進入角度、速度および制動を同一にしなければならないからです。また、砂塵の中での編隊着陸では、最後尾の航空機(trail aircraft)を一番最初に接地させるという技法が有効です。その後、他の機体が順次着陸し、長機(lead aircraft)が最後に接地するようにすれば、全ての航空機が比較的清浄な空気の中で着陸することができるのです。

梯形編隊(echelon formation)の場合には、同時接地という着陸技法もあります。ただし、この技法を使用できるのは、降着地域が十分に広く、地上指揮官が部隊の分散を容認した場合に限られます。

埃、砂、雪などにより視界に制限を受ける中での航空機の運用は、陸軍のパイロットが直面する最も困難な状況の1つです。任務遂行間に機体を安全に運行することは、機長としての重要な役割の1つです。機長の操縦技量が視界に制限を受ける環境を克服するための重要な鍵であることに、疑う余地はありません。しかしながら、任務の遂行および安全の確保のためには、高度な操縦技量だけではなく、クルーコーディネーションの確立に必要なブリーフィング、リハーサルなどの実施が不可欠であることも忘れてはなりません。Fly safely!(ご安全に!)

                               

出典:KNOWLEDGE, U.S. Army Combat Readiness/Safety Center 2017年08月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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2件のコメント

  1. 管理人 より:

    DVE(悪視程環境)下での着陸においては、接地のタイミングも重要な要素のようです。

  2. 管理人 より:

    操縦に関わる記事ですので、整備特技の自分の翻訳には不適切な部分があるかも知れません。お気づきの点がありましたら、コメントを頂けると助かります。(出典に原文へのリンクを設定しています。)