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陸軍航空の情報センター

統合多国籍即応センターにおける多国籍回転翼作戦(1年を振り返って)

陸軍少佐 パトリック・テイラー

Managing Airspace
ドイツ国グラーフェンヴェーアのグラーフェンヴェーア演習場において実施された「COMBINED RESOLVE X」実弾射撃訓練における旅団戦闘チームの部隊空域計画の深化

統合多国籍即応センター(Joint Multinational Readiness Center)は、過去12か月の間に米国の第10及び第12戦闘航空旅団および第1航空騎兵旅団から航空任務部隊(aviation task force)を受け入れてきた。また、飛行班から任務部隊までの部隊規模の多国籍回転翼航空部隊6個部隊も訓練に参加した。中には、米軍の航空中隊が多国籍航空任務部隊司令部の指揮下に入った場合もあった。ただし、訓練計画会議以外では一緒に業務を行ったり、互いに協力したりしたことがない多国籍旅団司令部に対し、各飛行部隊が直接および全般支援を行うことが多かった。これがヨーロッパにおける回転翼機部隊の運用環境なのである。多国籍部隊間の統合なくして、戦闘力の連携を図ることはできないのだ。この記事は、2017年6月から2018年6月までの間においてファルコン評価・指導・教育チームが最も大きな障害であると認識した、回転翼機に関する航空運用の傾向と教訓事項を紹介しようとするものである。なお、本記事中の旅団戦闘団(Brigade Combat Team, BCT)という用語には、米国および多国籍軍の旅団が含まれている。

すべての訓練参加部隊に対し、地上機動旅団が攻撃および輸送航空部隊を適切に運用できるようにするにはどうすべきかを認識させることができた。しかし、実行動においては、旅団航空班(brigade aviation element, BAE)の経験不足のため、計画および実行が円滑に行われない状況が生起した。航空部隊を同行させてきた多国籍機動旅団であっても、(空軍の)近接航空支援(close air support, CAS)の計画および統合については準備できていたものの、回転翼航空部隊を機動に用いることについては準備できていなかったのである。空軍の支援能力が制限されまたは低下し、地上部隊指揮官の機動計画に盛り込むことが困難な場合には、攻撃ヘリ部隊を近接戦闘攻撃(close combat attack, CCA)または近接航空支援(close air support, CAS)に用いなければならない。訓練想定間の指導により、各旅団は、最低限の統合がなされた小隊レベルの回転翼周到攻撃を概ね実施できるようになった。また、防御においては、機動、障害、航空(空軍)、航空(陸軍)および火力を活用した旅団レベルの撃破地域の構成を概ね完全に行うことができるようになった。こうした練度の向上は、いかにして得られたのであろうか?

教訓その1

航空任務部隊の指揮官は、最も優れた航空運用の専門家である。空中機動、航空攻撃および航空輸送について、旅団戦闘団の誰よりも豊富な知識を有している。旅団戦闘団の参謀もそれらの構想に精通してはいるものの、機体管理、気象、火力および攻撃効果の集中、戦術的および安全上のリスクなどに関するの重要な構想に関しては、指揮官同士で意見を交換するべきである。旅団戦闘団が旅団航空班に参謀を配置していない場合も十分にあり得る。旅団航空班の経験が不足していたり、統合航空運用を担当する参謀を有していない場合、(その支援を担任する)航空任務部隊の部隊長は、旅団の計画との調整を図るため、被支援部隊ではなく、旅団戦闘団に連絡将校チームを派遣することを検討しなければならない。可能ならば、戦闘航空旅団は、隷下の航空任務部隊が戦闘訓練センター(combat training center, CTC)(訳者注:統合多国籍即応センターも戦闘訓練センターの一部である。)で訓練を行う際に、航空連絡将校チームの一部を一緒に参加させることを検討すべきである。そうでなければ、旅団戦闘団の参謀が統合航空作戦において成功を収めることはできないであろう。

教訓その2

被支援部隊の司令部に連絡将校を派遣した航空部隊は、それを行わなかった部隊よりも良い成果を収めている。航空運用は、距離と言語がもたらす障害を考慮に入れなかったとしても、なお十分に複雑なのである。NATO諸国の旅団戦闘団の司令部は、連絡将校(liaison officer, LNO)または連絡班がNATO ATP 3.2.2 に記載されているとおりに派遣されることを期待している。支援を受ける旅団戦闘団の司令部にとっては、航空任務部隊の連絡班を旅団航空班として活用できれば非常に都合が良いというのが実態である。特に、独自の航空部隊を有していない場合はなおさらである。連絡将校の成果を妨げるものの1つに、兵站上の相互運用性がある。このため、自己完結能力(車両、通信、宿営用装備など)を完全に有する部隊を送り込むことが、連絡将校の成果を増大し、被支援司令部の負担を軽減することにつながる。通信の相互運用性も、問題となる。任務計画の書類を送信することは自国の通信システムを用いる場合でも難しいものであるが、多国籍通信システムで作戦図を送信することは克服が困難な新たな問題を引き起こすことになる。可能であれば、部隊は、音声およびデータ送信の双方が可能な通信機器を連絡将校に携行させるべきである。

教訓その3

Exercise COMBINED RESOLVE X
ドイツ国ホーエンフェルス所在の統合多国籍即応センターで実施された夜間の対襲撃訓練において、展開地を警備する第227航空連隊第2大隊D中隊の隊員たち

展開地における運用は、集結および多国間の相互運用の速度を著しく低下させる。2017年の訓練課程から、航空部隊の運用は、中間宿営地(intermediate staging base, ISB)ではなく、現地で実施するように変更された。現在では、航空任務部隊の運用に必要なすべての戦闘機能に関する訓練は、統合多国籍即応センター(Joint Multinational Readiness Center, JMRC )の簡素な環境で実施されている。展開地(tactical assembly area, TAA)への進入を行う部隊は、部隊移動を行いながら、詳細な任務計画(MDMPを参照)を作成することができない。旅団戦闘団は、専門の警戒部隊を派遣できるだけの兵力を有していないため、飛行部隊が自ら展開地の警戒および指揮所の抗堪性の向上を行う必要があり、小規模な航空任務部隊にとって、段階的に展開地を推進することは不可能なのである。部隊は、35~75パーセントの勢力しか対敵防衛(Defense Against The Enemy, DATE)訓練に参加させておらず、展開地の警戒および部隊移動および展開地警戒の遂行能力に制約を受けていた。任務部隊として編成されている部隊は、十分な勢力を有しているため対応が比較的容易であるののの、その編成から任務遂行までの時間は限られており、関係部隊との調整や戦闘リズムの確立に十分な時間を割くことができなかったのである。

教訓その4

Royal Netherlands Air Force Puma Helicopter
「SWIFT RESPONSE 17」演習において、英国統合ヘリコプター部隊のFARPで燃料給油を行うオランダ空軍のピューマ・ヘリ(フィゼック陸軍飛行場)

航空任務部隊および旅団戦闘団による空域統制計画の策定は、依然として大きな課題である。空域統制の手法および計画に関する教義上の知識が、到達すべきレベルに達していないのである。その原因は、主として、15年間にわたって空域統制の必要性が低い対反乱(counterinsurgency, COIN)作戦しか行われなかったことにある。空域統制が統合軍航空部隊指揮官(Joint Force Air Component Commander)の任務であり、その権限が通常、旅団戦闘団に委譲されるものではないということを認識しつつも、部隊は、いまだに調整高度以下の空域については、ほとんど常に師団レベルの空域支援運用センター(airspace support operations center)または統合空地統制センター(Joint Air Ground Integration Center, JAGIC)にその統制の権限が委譲されるものと考えてしまっている。 機動旅団の運用統制下にある航空任務部隊の参謀は、旅団航空班の存在の有無に関わらず、自隊の部隊空域計画(unit airspace plan, UAP)を、通常、無人機システム、対空作戦および間接射撃を焦点として策定された旅団戦闘団の部隊空域計画に統合できるように準備しなければならない。任務部隊の副部隊長は、空域調整手段に関する自隊の即応能力について、自隊の参謀に確認したことがあるだろうか?周到攻撃において、(空軍の)近接航空支援のための空域統制地域に関する調整を行えるだろうか?空域統制区域の重点について、確認したことがあるだろうか?友軍と直接接触していない敵に対する攻撃において、それを支援する空中FARPを行う地域が、射撃禁止地域(no-fire-area , NFA)に指定されていることを確認しているだろうか?参謀(および搭乗員)の空域統制の調整レベルに関する認識は、当該地域におけるNATO軍の回転翼部隊運用と同一に保たれているだろうか?

教訓その5

AH-64 from 1-501st Attack Reconnaissance Battalion
ドイツ国ホーエンフェルスに所在する統合多国籍即応センターで実施された「COMBINED RESOLVE VIII」演習において、ルーマニアの走行人員輸送車が行う監視任務を支援する第1-50攻撃偵察大隊のAH-64

対敵防衛訓練想定において、センサーによる射撃を行った部隊は、それを用いない部隊よりもはるかに損害を受けることが少なかった。敵に1~3キロメートルまで近づいた場合、敵の携帯型地対空ミサイル(man-portable air defense system, MANPADS)によって撃墜される可能性が高くなる。有人機と無人機の連携が常に訓練目標に掲げられているにも関わらず、部隊は、ヘルファイア・ミサイル攻撃に際し、数多くのセンサーおよび指示能力の組み合わせが利用可能であることを忘れがちである。軽量レーザー指示測距装置を搭載したブラッドレーおよびストライカー前方支援車両を活用することは、AH-46が、高度に統合された対空脅威が存在する中、隠掩蔽した状態で遠隔射撃を実施する場合に有効な手法の1つである。特殊作戦部隊も、目標指示に活用できる。

これらの教訓は、統合多国籍即応センターにおける毎回の対敵防衛訓練に共通する教訓事項であり、すでにその傾向となっていると言える事項である。航空統合部隊の運用参謀は、自隊の訓練目標を早期に確立し、必ず達成しなければならない目標を達成するため、他の参謀将校および下士官を陸軍諸兵科連合訓練戦略に完熟させるとともに、部隊訓練に可能な限りの時間と隊力を配分すべきである。

Train to Win!(勝利のために訓練せよ!)

パトリック・テイラー少佐は、ドイツ国ホーエンフェルスに所在する統合多国籍即応センター(Joint Multinational Readiness Center, JMRC)の航空任務部隊において、運用参謀の評価、指導および訓練担当官(Observer, Coach, Trainer, OC/T)を務めている。

           

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2018年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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6件のコメント

  1. 管理人 より:

    米陸軍は、NATO諸国との統合運用に関する訓練を実施するため、ドイツのホーエンフェルス(
    ドイツ南東部のニュルンベルクから約100キロメートル離れた地域のようです)に統合多国籍即応センター(Joint Multinational Readiness Center)という機関を設けているようです。

  2. 管理人 より:

    もう20年以上も前になりますが、米陸軍地上部隊の航空支援を担任するヘリコプター部隊の要員として、FTX(実動演習)に参加したことがあります。本記事には、指揮官同士の意見交換、連絡幹部の派遣、通信手段の確保、空域統制など、貴重な教訓が述べられていると思います。

  3. Water より:

    途中まで拝見させていただいたところですが、
    忘れないうちにコメントいたします。
    BAEは歩兵旅団司令部内のAviation element ですのでどちらかというと旅団航空班のようなイメージです。

    将校、軍曹の4名程度の編成だったと思います。

    • 管理人 より:

      ご指摘ありがとうございました。
      BAE(brigade aviation element,)の訳語を「旅団航空部隊」→「旅団航空班」に変更させていただきました。
      今後とも、よろしくお願いいたします。

  4. 匿名 より:

    すごいサイトだあ⋯。素晴らしすぎる⋯。

    • 管理人 より:

      コメントありがとうございます。より良いサイトにしてゆきたいと思っていますので、ご意見等ございましたら、お寄せ下さい。