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陸軍航空の情報センター

コックピットから戦闘へ:研究は陸軍航空の未来をどう形作りつつあるか

ケイティ・フェルトマン博士
ジェイソン・ガーストナー
アマンダ・チャールトン少佐

航空機事故の増加は、「操縦士の能力発揮に影響を及ぼす要因は何か」という重大な問いを投げかけています。事故後に作成される事故報告書は貴重な洞察を与えてくれますが、包括的な情報を欠いていることが少なくありません。現役の操縦士に対する調査は、任務要求を満たす能力に影響を及ぼす共通の要因を、当事者の視点から直接把握できる貴重な機会となります。また、操縦士自身が将来の事故を減らすための方策を提案することもできます。このような調査は、装備品の研究者や要求事項起案者が、どこに労力を集中すべきかを見極める助けとなります。

アラバマ州フォート・ラッカーに所在する米国陸軍航空医学研究所(U.S. Army Aeromedical Research Laboratory, USAARL)は、最前線における陸軍操縦士のための航空医学の革新を推進しています。同研究所は、能力発揮、防護または搬送間治療に焦点を当てた複数のチームで構成され、陸軍航空に科学的に妥当な解決策を提供しています。飛行中の操縦士の能力発揮にプラスまたはマイナスの影響を及ぼすものは何かを明らかにするため、ある調査が実施されました。本稿は、その初期分析結果の一部を報告するとともに、読者の皆さんにも調査への参加を検討していただくようお願いをするものです(記事末尾のリンク参照)。

調査の概要

回答者の募集は、テネシー州ナッシュビルで開催された2025年陸軍航空ミッション・ソリューション・サミットの会場で行われました。図は、回答者の飛行時間と機種の内訳を示しています。

調査は、操縦士に対し、戦闘任務での派遣、戦闘任務以外の派遣および戦闘訓練センターという三つの状況における、運用上のストレス要因と能力発揮について行われました。対象とされたストレス要因は、悪視程環境(Degraded Visual Environment, DVE)、疲労、タスク飽和(task saturation)、天候、通信などです。そのうえで、これらのストレス要因がどの程度の頻度で発生するか、また「操縦(aviate)」「航法(navigate)」「通信(communicate)」の各能力にどのような影響を及ぼしたかについて回答を求めました。また、自らの評定についての意見を自由に記述できるようになっていました。

初期分析の結果

派遣環境において各要因が能力発揮に影響した頻度について回答を求め、「頻繁に」および「常に」という評定が最も多かったストレス要因を絞り込みました。回答が多かったのは、疲労(68%)、悪視程環境(52%)、通信(60%)でした。これらが派遣環境で最も頻繁に経験するストレス要因として挙がったのは意外なことではありません。事故報告書において事故の要因として指摘されてきた内容とも一致しています。

次に回答が求められたのは、各要因が操縦・航法・通信の能力に影響を及ぼした「程度」でした。その回答は「全く影響なし」から「非常に大きく影響」までの中から選択できるようになっており、これに「自分は影響を受けなかったが、副操縦士が受けた」という選択肢が加えられていました。

そのうえで、操縦士が「かなり」または「非常に大きく」影響を受けたと回答したストレス要因に着目し、最も重大な要因を特定しました。操縦能力への影響が最も大きかった要因は、悪視程環境(32%)、タスク飽和(32%)および天候(52%)でした。航法能力への影響が最も大きかった要因も、天候(約54%)とタスク飽和(25%)でした。通信能力に最も影響したストレス要因は、タスク飽和(約18%)でした。

操縦・航法・通信のそれぞれに影響した要因。数値は回答者数。

操縦士たちには、ストレス要因が操縦・航法・通信の能力に及ぼした影響だけでなく、能力発揮がどのように損なわれたかについても具体的な回答が求められました。その結果は、「影響を受けた能力発揮」と題した図表に要約しています。操縦士のコメントからは、タスク飽和が飛行中の通信に有害な影響を及ぼすことが明確に読み取れます。

影響を受けた能力発揮

操縦

航法

通信

さらに、調査では回答者が自由に意見を追記できるようにしました。そこで目立ったテーマの一つが、訓練と自信に関するものでした。

「陸軍航空の安全にとって最大の要因は、飛行搭乗員が実のある経験を積めなくなっていることだと思う。かつては飛行時間3,000時間超の操縦士が珍しくなかったが、今では極めてまれだ。これに追い打ちをかけるように、多くの操縦士が服務期間の満了を迎え、あるいは無条件退職を申請している。経験者は部隊を去り続け、部隊全体の経験値が振り出しに戻り続けている。実機のヘリコプターで実のある課目を飛ぶ時間がもっと必要だ。」

「編隊での経験が不足しているため、編隊長と空中部隊指揮官を同時に務めなければならなくなる。」

「任務に直結した課目を実施できたことで直近の飛行経験と練度が得られ、それが多くの悪影響に対する何よりの緩和策になった。実際に練成ができ、自分たちの裁量で飛べる時間があったことは大きな利点だった。これ(経験と練成の不足)こそ、陸軍航空事故の最大の要因だと思う。搭乗員には、より多くの経験と任務に即した練成が必要だ。」

米国陸軍航空医学研究所はこの情報をどう活用するのか

能力発揮に影響する要因について操縦士から得られた意見に基づき、米国陸軍航空医学研究所は、解決策に向けた研究の優先順位を適切に定めることができるようになりました。同研究所の研究者は既にこれらの課題に取り組んでいます。例えばヒース・ジョーンズ博士とジェニファー・ノーツェル中佐は、無線通信を強化するための空間音響(spatial audio)の実用化を進めています。空間音響がワークロードが高い状況での音声の聞き取りを改善することは既に実証されています。四つの無線を同時に聞き分ける条件において、従来の音声環境での正答率がわずか42%であるのに対し、空間音響を用いた場合は85%を達成しています。この大幅な改善は、この技術が複雑で過酷な環境における通信の実効性を高める可能性を示しています。さらに操縦士からは、空間音響を使用することによって、主観的ワークロードが目に見えて低下したという報告も寄せられています。研究所は、無線通信を空間的に配置することにより、通信が輻輳(ふくそう)する局面でのタスク飽和による影響を軽減することを目指しています。現役の操縦士から意見が寄せられ続けることで、直面する課題への理解を深め、研究を磨き上げて、的を絞った実効性のある解決策を届けられるようになりました。

あなたの意見と知見を寄せてみませんか

陸軍の操縦士の皆さん、あなたの声が力になります。数分で終わる簡単なアンケートに回答し、今日の航空が抱える課題について、皆さんの知見をお寄せください。下のQRコードを読み取るだけで参加できます。いただいた意見は、皆さんのニーズに応えることを目指す現在および将来の研究に直接反映されます。回答は、現に操縦資格を有する操縦士に限らせていただきますが、州兵、予備役、現役のいずれの方の参加も歓迎します。

〔訳注〕原文にはここに調査参加用のQRコードが掲載されている。この調査は回答対象を米陸軍の有資格操縦士に限定した研究計画であり、本サイトの読者は対象外である。誤って回答されると研究の標本を損なうおそれがあるため、本稿では転載を省略した。

本研究(USAARL 2025-025)は、2025年5月6日、連邦規則集32編219.104(d)(2ii)に基づく適用除外のヒト対象研究として、米国陸軍航空医学研究所の適用除外判定官の承認を受けています。

米国陸軍航空医学研究所について

米国陸軍航空医学研究所は、複雑なシステムにおける操作員の健康と能力発揮、搬送間治療の環境、鈍的損傷・爆傷・加速度損傷とその防護、回転翼機および戦闘車両における搭乗員の生存、ならびに感覚機能の能力発揮・損傷・防護の各分野の特技者を擁する、世界最高水準の機関です。同研究所は、革新的な研究・開発・試験・評価活動を通じて研究上の空白を特定し、将来型垂直離着陸機(Future Vertical Lift, FVL)、医療、航空および国防衛生の能力向上に資する要求事項文書の作成に反映させています。また、統合軍の戦闘員を守り、その能力発揮を高める、根拠に基づく解決策と運用上の実践知を提供する、関係者から信頼される機関でもあります。さらに、人材を重視して育成し、タレント・マネジメントの原則を実践し、教育に関する対外活動に取り組むことを通じて、次世代の科学者・技術者、研究技術員、プログラム・マネージャーおよび事務系専門家への投資を行っています。


ケイティ・フェルトマン博士は米国陸軍航空医学研究所(アラバマ州フォート・ラッカー)の研究心理士、ジェイソン・ガーストナーは同研究所の上級研究パイロット兼飛行システム部門長、アマンダ・チャールトン少佐は同研究所の副所長です。

訳者コメント:本稿は、米陸軍航空医学研究所(USAARL)が現役操縦士に対して行った調査の中間報告です。同研究所は1962年7月、ライスター陸軍病院長スパージョン・ニール大佐の提唱により「陸軍航空医学研究班」として設置され、1969年に現在の名称となりました。回転翼機による航空医療後送の体系を築いた人物が母体をつくった機関であり、搭乗員の健康と能力発揮を扱う研究機関としては最古参に属します。

読む際に留意したいのは標本の規模です。本文は割合しか示していませんが、掲載された棒グラフの度数を合計すると、回答者は21〜25名にとどまります。実際、「操縦」における天候52%は25名中13名、「航法」における天候約54%は24名中13名、「通信」におけるタスク飽和約18%は22名中4名にそれぞれ対応します。1名の回答が4〜5ポイントを動かす規模であり、示された数値は精密な統計値ではなく傾向として読むのが妥当でしょう。母数が項目ごとに21〜25名の間で揺れているのは、設問を飛ばした回答者がいるためとみられます。著者らが末尾で調査への参加を重ねて呼びかけているのも、この標本の薄さを承知しているためでしょう。

技術面を補足すると、本文にある空間音響は既に実機での評価が進んでいます。USAARLは医療後送研究用のUH-60に3D空間音響装置を搭載し、米陸軍のヘリコプターとして初めてこの機能を実装しました。直近の評価は、航空・ミサイル・コマンドの統合兵站コマンドや民間各社との協同により、フォート・ラッカーのロウ陸軍ヘリポートで実施されています。本文に登場するヒース・ジョーンズ博士は、悪視程環境下の航法における空間音響の効果を扱った研究のほか、2025年の技術報告「多話者環境における操縦士の能力発揮」の共著者でもあります。従来の航空ヘッドセットが複数の無線を一つの音声チャンネルに束ねていたのに対し、音源を頭内の別々の方向に配置することで聞き分けを助ける仕組みです。

自由記述で複数の回答者が共通して挙げたのは、装備でも制度でもなく経験の不足でした。かつて珍しくなかった飛行時間3,000時間超の操縦士が今では極めてまれになり、任務に直結した課目を飛ぶ機会そのものが減っているという指摘です。調査が測ろうとしたのは疲労や悪視程環境といった個々のストレス要因でしたが、回答者はその手前にある練度の低下こそが本質だと答えたことになります。研究の設問と現場の問題意識のずれが、そのまま記録されている点は興味深いところです。

陸上自衛隊の読者にとって直接の含意を持つのは、タスク飽和が真っ先に損なうのが操縦でも航法でもなく通信だという知見と、「飛行の前後に幕僚業務を片付けるプレッシャー」を操縦への阻害要因として挙げた回答でしょう。いずれも搭乗員個人の心構えでは解決しません。飛行隊の日課と幕僚業務の配分、および搭乗員の組み合わせを決めるのは飛行隊長および運航を担当する幹部であり、この知見が向けられるべき相手もそこにあります。

なお、機種構成の円グラフにある「AH-54s」は「AH-64」の誤記と判断しました。また、原文末尾の調査参加用QRコードは転載を省略しました。実際に読み取ったところ回答フォームが開いて入力できる状態にあり、対象外の読者が回答すると米側の研究の標本を損なうおそれがあるためです。
                               

出典:From Cockpit to Combat: How Research is Shaping the Future of Army Aviation, ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2026年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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