AH-64の過去5年間の航空事故発生状況(2015~2019年度)
AH-64において、2015年度から現在までの約5年間(65万飛行時間以上)で発生したクラスA~Cの航空事故は、71件であった。そのうち、16件はクラスA、14件はクラスB、41件はクラスCの事故であり、総額3億7670万ドルの損害と、12名の死者をもたらした。クラスA事故の発生率は、10万飛行時間あたり2.11件であった。クラスA~C事故の発生率は、9.06であった。なお、回転翼機全体のクラスA事故の発生率は1.29、クラスA~C事故の発生率は7.34であった。すべての回転翼機の飛行時間の18.5パーセントを占めるアパッチがクラスA事故の31パーセント、クラスA~C事故の22%を発生させた。AH-64Eは、アパッチのクラスA~C事故全体の19パーセントを占めた。その内訳は、6件のクラスA事故、1件のクラスB事故、7件のクラスC事故であり、これらの事故により6名が死亡した。
発生原因別では、AH-64のクラスA事故のうちの81パーセント、クラスA~C事故のうち69.4パーセントが人的ミスにより発生していた。器材の不具合は、クラスA事故の19パーセントおよびクラスA~C事故全体の16.7パーセントを占めた。そのうち、4パーセントは環境に起因するもの(バード・ストライク)であり、10パーセントは報告未了または細部原因不明のものであった。以下は、発生頻度の高い事故の類別ごとの事故発生状況の概要である。
パワー・マネジメント
11件の人的ミスによるクラスA事故のうち1件は、パワー・マネジメントまたは激しい機動を伴う飛行によるものであった。また、2件のクラスBおよび1件のクラスC事故も発生した。パワー・マネジメントに関連する事故の概要は、次のとおり。
1 当該機は、離陸直後に地面に墜落した。メインおよびテール・ローター・システム、TADS/PNVS(目標補足指示照準装置・パイロット暗視センサー)および機体が損傷した。(クラスA)
2 オートローテーションを実施中、適切なタイミングで機体の降下を止められなかった。機体は、滑走路に接触し、機体下面および30ミリ・ガンに重大な損傷が生じた。(クラスB)
3 当該機は、戦闘機動飛行中、森の中へと降下し、その後、安全に着陸した。飛行後点検において、メイン・ローター・システムおよび機体右側面に損傷が発見された。(クラスB)
4 当該機は、背風の中でOGEホバリングを行っている最中に高度が低下し、地面に接触した。(クラスC)
物件との衝突
71件の事故には、6件の地形地物との接触、9件の樹木との接触および4件のワイヤーストライクが含まれていた。そのうち2件がクラスAの損傷を生じた。また、M-TADS(近代化目標補足・指示照準装置)へのローターの接触が2件、バード・ストライクが2件発生した。事故の事例は、次のとおり(CFIT(操縦可能状態での地表への墜落、シーフィット)、ワイヤー・ストライク、地上滑走、バード・ストライクに区分)
CFIT:当該機は、上り坂に向かって後方にドリフトし、テール・ローターを接触させ、墜落した。(クラスA)
CFIT:夜間の慣熟射撃を実施中、後席で操縦していた教官操縦士は、急降下ロケット射撃から姿勢を立て直した。その後、左方向に180度の旋回を行っていたところ、機首を下げ、左にバンクした状態で機体が急降下し、地面に接触した。機体は大破し、搭乗員は死亡した。(クラスA)
CFIT:夜間応急攻撃を実施中、操縦士が操縦を交代した直後に、高い前進速度および降下速度で地面に墜落した。機体は大破し、搭乗員は死亡した。(クラスA)
CFIT:当該機は、LZ(landing zone, 降着地域)に設置後、後方に向かって斜面を滑り落ち、テール・ブームが地面に接触した。当初のECOD(estimated cost of damage, 損傷見積)は比較的小さかったが、じ後に行われた検査の結果、さらなる損傷が確認された。ha(クラスB)
CFIT:当該機は、地形に沿う飛行を実施中、山頂に接触した。搭乗員は、不時着を試みたものの、機体に重大な損傷を生じさせた。(クラスA)
CFIT:ホバリング中に照明ロケット弾を発射中、尾脚が地面に接触し、機体が右方向にヨーイングおよびローリングして、胴体も地面に接触した。尾脚の降着装置、テール・ブーム部、右ウイングおよび30ミリガン・ターレットに重大な損傷が生じた。搭乗員に負傷はなかった。(クラスB)
CFIT:当該機は、地形に沿った飛行を実施中、障害物と接触し、スタビライザーを損傷させた。当該損傷は、FARP( forward arming and refuel point, 弾薬燃料再補給点)に着陸した後に発見された。(クラスB)
ワイヤー・ストライク:当該機は、NVD(night vision device, 暗視装置)を使用した訓練飛行中に送電線に衝突し、2名のパイロットが死亡した。墜落後に火災が発生した。(クラスA)
ワイヤー・ストライク:当該機は、NTC(National Training Center, ナショナル・トレーニング・センター)において、夜間の周密攻撃訓練を実施中、送電線に接触し、地形に激突した。機体は大破し、搭乗員は軽症を負った。(クラスA)
ワイヤー・ストライク:NOE(nap of the earth, ほふく飛行)を実施中、WSPS(wire strike protection system, ワイヤー・ストライク・プロテクション・システム)で、3本の送電線を切断した。当該機は、安全に着陸したものの、飛行後点検においてTADSの損傷が発見された。(クラスC)
地上滑走:地上滑走中、メイン・ローター・システムがコンクリート製の壁に接触した。(クラスB)
地上滑走:当該機は、地上試運転を実施中に駐機スポット上で旋転し、隣接したスポット上に駐機していた別のAH-64Dに接触した。機体が損傷するとともに、搭乗員が負傷した。(クラスA)
地上滑走:当該機は、駐機位置まで地上滑走している最中にメイン・ローター・ブレードをコンクリート製の監視塔に接触させた。(クラスA)
M-TADS・PNVS:FARPに着陸進入中、メイン・ローター・ブレードが前方に垂れ下がり、TADS/PNVSに接触した。(クラスB)
バード・ストライク:飛行中に鳥と衝突した可能性のあった機体を点検したところ、No.2NGB(nose gearbox, ノーズ・ギアボックス)カウリングに損傷を発見した。(クラスC)
整備ミス
1 500時間ごとのフェーズ点検終了後のMTF(maintenance test flight, 整備確認試験飛行)を実施していたところ、高度5フィートでホバリング中に意図しない右方向への機首ぶれが発生した。機体は、地面に接触して大破し、搭乗員は緊急シャットダウンを実施した。No.4テール・ローター・ドライブシャフトを再取り付けする際に適切なトルクをかけず、また、前方側No.4テール・ローター・ドライブシャフト・ボルトの検査を怠っていた。(クラスB)
2 飛行中、メイン・ローターのPCR(pitch change rod, ピッチ・チェンジ・ロッド)リンクの下側ロッド・エンドがロッド・エンド・ベアリングから分離し、メイン・ローター・システムに致命的な不具合を発生させた。機体は大破し、搭乗員は死亡した。(クラスA)
3 飛行中、機首下げのピッチ方向および右へのヨー方向の姿勢変化および異音が発生した。搭乗員は、開かつ地に緊急着陸した。着陸後の点検において、テール・ローター・リテンション・ボルトに適切なトルクがかけられていなかったため、飛行中にテール・ローターが脱落したいたことが確認された。(クラスB)
器材上の要因
1 ホット・リフュエルが完了した直後、AGL(above ground level, 対地高度)100フィートにおいて、No.2エンジン区画から異音が発生し、低ローター回転数の警報音が鳴り響いた。ただちに射座に着陸したものの、ハード・ランディングとなった。エンジン内部のコンプレッサー・ブレードが破損・分離し、下流側のコンプレッサーに致命的損傷を与えていた。(クラスB)
2 着陸後、きしみ音が発生するとともに、低作動油量の警報が点灯し、焼けるような匂いが感じられた。飛行後点検において、ハイドロリック・ポンプが固着し、トランスミッションが損傷していることが確認された。(クラスC)
3 飛行中にNO.2ストラップ・パック・アセンブリが損傷し、メイン・ローター・アセンブリが分離して、操縦不能となった。機体は大破し、搭乗員は死亡した。(クラスA)
4 No.1エンジンのDECU(digital engine control unit, デジタル・エンジン・コントロール・ユニット)の不具合が推定されたため、PL(precautionary landing, 予防着陸)を実施した。MDR(Maintenance data recorder, メインテナンス・データ・レコーダー)をダウンロードしたところ、当該エンジンのNo.1TGT(turbine gas temperature, タービン・ガス温度)が949℃を超過しており、シングル・エンジンで運用されたNo.2エンジンが130%のオーバートルク、メイン・ローターが115%のオーバートルクを記録していた。(クラスB)
5 当該機は、夜間、月照度ゼロの状態でホバリングを実施中、No.1およびNo.2スプラグ・クラッチがほぼ同時にスリップした後に再結合したことによって、メインローター回転数の急激な低下、トルクの急上昇、および異音が発生した。動力伝達系統に重大な損傷が発生し、飛行を継続するために必要なローター回転数を維持できなくなった。機体は、地面に激突し、大破した。(クラスA)
その他
1 連合軍の飛行経路を偵察中、敵対行動を取ったと誤認されたANSF(Afghan National Security Forces, アフガニスタン国家治安部隊)に対し、射撃を行った。(クラスA)
2 夜間、対地高度435フィートにおいて、APART(Annual Proficiency and Readiness Test, 年次技量査定)のための飛行検定を実施中、両方のエンジンをロックアウトしてしまった。当該機は、高度を失い、地面に激突した。機体は大破し、搭乗員は死亡した。(クラスA)
3 AH-64の航空射撃訓練第7習会を終了し、点検を実施中、30ミリガンの砲弾がNo.2メイン・ローター・ブレードに食い込んでいるのを発見した。(クラスC)
4 当該部隊は、LFX(live-fire exercise, 実弾射撃訓練)を実施していたところ、ロケット・モーターが機体から落下し、地上で火災が発生した。火災は、軍用地を超えて燃え広がり、民家に被害を及ぼした。(クラスB)
5 飛行後点検において、No.2エンジン・ナセルのカウリングが完全に閉じられておらず、飛行中に開放していたことが確認された。(クラスC)
6 当該機は、着陸進入の後、ホバリングを実施中、ダウンウォッシュにあおられた作業台が隣接して駐機していた機体のスタビレーター区画に入り込み、右ウイング・ストアおよびスタビレーターに損傷を生じさせた。(クラスC)
7 ホバリングしていたAH-64Dが、格納庫の外で塗装作業を行っていた6枚のCH-47用ブレードを吹き飛ばし、そのうち2枚に修復不能な損傷を生じさせた。(クラスC)
8 当該機は、AH-64D操縦課程において昼間の飛行訓練を実施中、エンジン始動中にエンジン・ホット・スタート状態を起こさせた。(クラスC)
要 約
16件のクラスA事故のうち9件は、夜間にNVSを使用している間に発生した。クラスA事故のうち4件は、NTCにおいて発生した。上述の事故事例は、71件の事故全てを網羅したものではない。その他の事故には、カウリングの開放、インレット・カバーを取り付けたままでのエンジン始動、パワー・レバーを後方に引いたまま機体を機動させたことによるシングル・エンジン状態でのオーバートルク、DECUの不具合によるNp/Nrのオーバースピードなどがあった。
航空事故の主要な原因は、引き続き、人的ミスであった。監督者および各個人が有効な手立てを講じ、これらのエラーを減らせる余地は、まだ残っている。部隊および搭乗員による人的ミスを回避するためには、細部に注意を払い、計画立案を確実に行い、シミュレーターおよび実機における操作訓練を適切に実施することが必要である。指揮官および搭乗員のたゆまぬ努力が違いを生み出し、事故を防止するのである。それができるかどうかは、貴官しだいなのだ!
訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれます。また、米国陸軍の航空事故区分の概要は、次のとおりです(AR 385-10、2017年2月改正)。
クラスA- 200万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 50万ドル以上200万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 5万ドル以上50万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2万ドル以上5万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE- 5千ドル以上2万ドル未満の損害を伴う事故
クラスF- 回避不可能なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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