チヌークの航空事故発生状況
2010年度~2014年度の5年間(飛行時間:493,000時間以上)における、CH-47シリーズで発生したクラスAからCの事故発生件数は、90件であった。クラスAの事故は17件、クラスBは11件、およびクラスCは62件発生し、機体の損傷や人員の負傷により2億6600万ドルの損害が発生し、1名が死亡した。10万飛行時間あたりのクラスA事故の発生率は、3.04であった。クラスAに該当する事故の調査結果によれば、14件(82%)の事故の主因は人的ミスであり、器材上の要因は1件(6%)、原因不明または報告未了は2件(12%)であった。クラスA事故のうち2件は、航空関連事故(機外搭載物の落下)であった。
比較的発生頻度が高かった事故の類別は次のとおりである。
エンジンの不具合/故障
エンジンの不具合または故障によるものは、1件のクラスA事故だけであった。
事例:エンジンの不具合
当該機は、着陸進入中にNo.2エンジンに不具合が発生した。前進速度が低かったため、No.1エンジンだけで高度維持に必要な出力を得ることができず、LZ(降着地域)の手前に落着し、石垣に衝突した。4名の搭乗者が軽傷を負い、機体は大破した。エンジンに不具合が発生したのは、部隊整備により実施されたエンジンのホット・エンド点検において、第3ステージ・シャフトに第4段ローターを取り付ける際の計測およびクリアランスの確認が適切に行われなかったことが原因であった。
DVE(Degraded Visual Environment, 悪視程環境)
飛行中に発生した15件のクラスA事故のうち7件は、DVEに関連したものであった。
事例1:ブレード・ストライク
砂塵環境下において、3度目の着陸を実施していた2番機がアンテナ塔に接触した。
前方ローター・ブレードが搭載していたMK19 40ミリ自動てき弾銃に接触し、数発の砲弾が暴発した。爆風により、機体およびアンテナ塔が破損した。
事例2:ダスト・ランディング
NVGを使用した戦場離脱任務を実施中、着陸進入時に視覚的補助目標を見失った。当該機は、後方に偏位した後、左に流され、横転を始めた。前方および後方ローター・ディスクが同時に地面に接触した。このため、左側面を下にして横転した。機体は大破し、搭乗員は軽傷を負った。
事例3:ダイナミック・ロールオーバー
着陸進入中、操縦桿を握っていたパイロットは、着陸しようとしていた場所の視覚的補助目標を見失った。接地する直前に、機体が右方向に流された。降着装置が地面に接触し、支点となって傾き始めた。機体が右方向に流されることにより、ロール運動が生じ、臨界角度を超過して、ダイナミック・ロールオーバーが発生した。機体は大破し、3名が軽傷を負った。
事例4:ブレードの接触
月照度が低い状況において、NVGを使用した着陸進入を実施中、予定していた降着地域の約0.5海マイル(約926メートル)手前の地点で、高度が計画していたよりも下がりすぎてしまった。前方ローター・ブレードが砂丘に接触した。機体は、反時計方向に旋転し、後部キャビン部が砂丘に衝突して、右側面を下にして横転した。7名の搭乗員および搭乗者が負傷し、機体は大破した。
事例5:ハード・ランディング
NVGを使用した夜間の戦場離脱を実施中、砂塵環境下で着陸進入を行っていたところ、機体の制御を継続できなくなり、ハード・ランディングした。進入中、降下率と対地速度が過大となり、機体は地面に毎分約400から800フィートの降下率、22から26ノットの対地速度で、固く踏みしめられた階段状の上り坂に激突した。機体は、墜落後も約50フィート横転し続け、後部降着装置、後部キャビン部および後部パイロン部を損傷した。
事例6:ダスト・ランディング
NVGを使用した不整地への着陸進入を実施中、粉塵が激しく舞い上がったため、地面上の視覚的補助目標を見失った。OGE(out of ground effect, 地面効果外)で、計器を使用した砂塵環境下での着陸を試みたが、地面に落着した。降着装置が地面に接したため、自動操縦系統のポジション・ホールド・モードが解除され、すべての速度安定モードが停止された。パイロットがサイクリックを右に倒していたため、機体は3秒間で約50フィート(約15メートル)右に移動し、溝の中に入り込んだ。機体は右に傾き、ブレードが障害物に接触した。離陸しようとして、推力を増加させたところ、右側面を下にして横転した。機体は大破し、搭乗員は軽傷を負った。
事例7:意図しない接地
NVGを使用し不整地の着陸地域へ進入中、対地速度約15~20ノットで機体が地面に接触し、そのまま滑走した。機体は、幅4フィートの水の枯れた谷に前方に傾いた状態で停止した。右主脚が損傷し、前方ローターが地面に接触して、3枚のローター全部が損傷した。
ブレード・ストライク
DVEと無関係のブレードの接触が、6件発生した。
事例1:機体との接触
RL(Readiness Level, 即応レベル)向上のための訓練を実施中、 後方メイン・ローターが機体に接触した。
事例2:地形との接触
高高度環境における訓練に連接したピナクル・ランディング(狭隘な山頂、家屋の屋根等への着陸)を実施中、ローターが山腹に接触した。機体は、渓谷に向かって降下し、墜落した。搭乗員1名が死亡した。3名の搭乗員は、負傷しながらも脱出に成功した。機体は、墜落後に発生した火災で破壊された。
事例3:地形との接触
NVGを使用した緊急空中機動を実施するため、降着地域の付近の登坂に着陸中、操作過大による事故が発生した。パイロットが誤ってCMWS(Common Missile Warning System, 共通ミサイル警報システム)を起動させてしまい、多数のフレアーを放出してしまった。その際、反射的にサイクリック・スティックを前方に押したため、前方ローター・ディスクが地面に接触した。ローター・システムのバランスが崩れ、回転が不斉一になって、機体が大破し、4名が軽傷を負った。
事例4:樹木との接触
高度9814フィート(約2991メートル)の不整地にNVGを使用した着陸進入を行っていたところ、後方ローター・ブレードが樹木に接触した。この接触により、少なくとも1本のブレードのチップ・キャップおよびカウンター・ウエイトが脱落し、バランスが崩れて後方パイロンを振動させ、コンバイニング・ギア・ボックスのNo.8またはNo.9ドライブシャフトを損傷させるとともに、ブレードの回転が不斉一になって前方ブレードと後方ブレードが接触した。ブレードの接触により、後部パイロンは機体から脱落し、機体右側方の地面に落下した。落下後、残骸から火災が発生した。
機体は破壊され、8名が負傷した。
事例5:空中でのブレードの接触
当該機は、対地高度2500フィート、計器速度115ノットでNVGを使用したヘリコプターの空中給油訓練を実施中、接続操作を開始した。その際、操作ミスにより、ドローグがプローブの先端に引っ掛かってしまった。機体は、前進を続け、メイン・ローター・ブレードが燃料ホースに接触して切断し、ドローグが上方のローター内に跳ね上がって、ローター・ブレードが損傷した。機体は、速やかに降下し、降雨で湿った地面の上に滑走着陸した。降着装置が軟弱な地面に沈み込み、機体は75フィート(約23メートル)地上滑走した後、後方降着装置が破断した。
機体は右に約15度旋回し、さらに75フィート(約23メートル)滑走した後に停止した。機体が停止する際の減速により、ローター・ブレードがたわみ、地面および機体に接触して、機体が大破した。
事例6:地形との接触
高度約1万3000フィートの急峻な岩場にある狭隘なピナクルへ、2輪着陸を実施しようとしたところ、後方ローターが岩の表面に接触し、その先端約1~2フィートが飛散し、キャビンに強烈な振動を発生させ、機首を下方向に押し下げた。損傷したローターは、一部が欠損した状態でありながらも機能し続け、操縦が可能であった。パイロットは、緊急着陸地域に着陸したが、その手前にあった大きな岩に接触し、後部ローターおよび機体へのさらなる損傷を生じさせた。
ハード・ランディング
事例
月照度が低い状態での夜間の緊急空中機動を実施中、パイロットは、搭載地域への進入を開始した。操縦していたパイロットは、低トルクセッティングのまま、機首を持ち上げてしまい、気付かないうちにOGEホバリング状態に入ってしまった。機体は、急激に降下し、機体後方から墜落して、右方向に横転した。搭乗員が軽傷を負い、後部パイロンが機体から脱落した。
機外搭載
事例1
当該機は、対地高度約150フィート(約46メートル)を計器速度約40ノット(時速約74キロメートル)で上昇中、3つすべてのカーゴ・フックが開放し、懸吊していたM777けん引榴弾砲が落下した。機体は、着陸場に戻り、異状なくエンジンを停止した。M777は、全損と判定された。
事例2
スリングを実施中、懸吊物が機体から切り離され、地面に墜落した。懸吊していた三重型コンテナおよびその内容物が損傷した。懸吊物が切り離された原因は、11Kリーチ・ペンダントの不具合であった。
要 約
クラスA事故のうち11件(65%)は、夜間にNVGを使用中に発生している。12件(70%)は、OEF(Operation Enduring Freedom, 不朽の自由作戦)において発生した。クラスBの事故としては、2件の機外搭載関連事故、2件のダウン・ウォッシュによるがれきまたはテントの飛散に伴う人員の負傷、3件のDVE関連事故(1件のワイヤー・ストライク、1件のハード・ランディング、1件の地形へのブレードの接触)および1件の強風下でのエンジン停止中のローターの機体接触が発生した。事故防止のためのより詳細な情報については、安全担当士官を通じて、safety.army.mil のウェブサイト上のRMIS(Risk Management Information System, リスク・マネジメント情報システム)から入手されたい。利用には、ユーザー登録が必要である。
備考:掲載されている写真は、訳者が追加したものです。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2014年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
少し古い資料ですが、他の機種(アパッチやブラックホーク)については、既に翻訳・掲載済みでしたので、チヌークに関する記事も追加することにしました。
ちなみに、オスプレイのクラスA事故発生率は、3.26(平成29年9月末時点)だそうです。
「オスプレイの安全性について」(2018.12 防衛省)