H-47(チヌーク)シリーズの過去5年間の航空事故発生状況(2014~18年度)
H-47シリーズの2014~18年度の5年間の総飛行時間は369,872時間であり、その間に発生したクラスA~Cの航空事故は45件であった。そのうち、6件はクラスA(5件の飛行事故および1件の飛行関連事故)、3件はクラスB(2件の飛行事故及び1件の飛行関連事故)、36件はクラスC(26件の飛行事故、5件の飛行関連事故および5件の航空地上事故)の航空事故であった。45件の事故のうち、37件の事故については原因が特定または推定されているが、残り8件の事故については報告未了または原因不明である。事故による被害総額は5500万ドルを超え、1名の陸軍兵士が死亡した。H-47シリーズのクラスA事故の発生率は10万飛行時間あたり1.35件であり、クラスA~Cの発生率は9.73件であった。なお、同じ期間内での陸軍全体の有人機におけるクラスA事故の発生率は1.23件であり、クラスA~C事故の発生率は7.74件であった。
事故調査報告書によれば、H-47の事故のうち26件(70%)は、その主因が人的ミスであった。また、9件(24%)の事故は器材上の不具合によるものであり、2件(5%)は環境要因(バード・ストライク)によるものであった。
以下、この期間内に発生した事故の一部について、その概要を紹介する。
事故事例
1. 高高度環境における訓練に連接したピナクル・ランディング(狭隘な山頂、家屋の屋根等への着陸)を実施中、ローターが山腹に接触した。機体は、渓谷に向かって降下し、墜落した。搭乗員1名が死亡した。
(クラスA)
2. RL(Readiness Level, 即応レベル)向上のための訓練を実施中、 後方メイン・ローターが機体に接触した。
(クラスA)
3. 当該機は、対地高度約150フィート(約46メートル)を計器速度約40ノット(時速約74キロメートル)で上昇中、3つすべてのカーゴ・フックが開放し、懸吊していたM777けん引榴弾砲を落下させた。M777は、全損と判定された。
(クラスA)
4. 当該機は、ペダル・ターンを完了する直前、HLZ(helicopter landing zone , 着陸地域)を囲っていた高さ15フィート(約4.6メートル)のコンクリート壁に左後方降着装置を衝突させた。
(クラスC)
5. 離陸中に左ガナー席のウィンドウが脱落した。森の中に落ちてゆくウィンドウの座標を確認できたため、回収することができた。
(クラスC)
6. 当該機は、スリングしようとして機体に接続していた155㎜榴弾砲に接触し損傷した。榴弾砲の砲脚がランプ・ドアに接触し、ランプ・ドアの下端に打痕を生じた。
(クラスC)
7. ピナクル・ランディングを訓練中に後部ローターが地面に接触し、機体が損傷するとともに人員が負傷した。
(クラスA)
8. FARP(forward arming and refueling point, 燃料弾薬再補給点)を離脱し、駐機位置に戻ったところ、No.2後部パイロンプラットフォームが開放し、エンジン・カウリングによりかかった状態になっているのをクルー・チーフが発見した。機体に損傷が生じた。
(クラスC)
9. NVGを使用したブラウンアウト状態での着陸訓練を実施中、機体がTバリア(下側がT字型に広がったコンクリート製の仮設壁)に接触した。
(クラスB)
10. 離陸中、機体姿勢に異状が生じ、滑走路に後方ホイールが複数回接触した。パイロットは、緊急停止手順を行った。当該機は、インテグレーテッド・ロワー・アクチェーターの交換完了に伴う整備確認飛行を実施中であった。
(クラスB)
11. 民間飛行場で地上滑走中、後部ローターのブレードが格納庫の角に接触し、3枚のローター・ブレードすべてが損傷し、2つの格納庫および格納庫内に駐機していた2機の航空機に損傷を与えた。
(クラスA)
12. FARPにおいて燃料給油のため地上滑走を行っていたところ、1番機の後部胴体に2番機の前方ローター・ブレードが衝突した。
(クラスA)
13. 腐食点検を実施中、No.2エンジンの第1段コンプレッサー・インレット・ブレードのうち2枚に損傷を発見した。FODスクリーン取り付けラッチの1つに、Tヘッド・ボルトの一部欠損が生じていた。細部を点検したところ、合計7枚のコンプレッサー・ブレードに損傷が発見され、エンジン交換が必要となった。
(クラスB)
14. 当該機は、フライト・アイドルで463Lパレットのホット・ローディング(エンジン運転状態での貨物搭載)を行っていた。FE(flight engineer, 机上整備員)がフォークリフト運転手に停止の合図を送るのが遅れたため、後部パイロンにフォークリフトが接触した。
(クラスC)
15. 後方メイン・ローター・ブレード・ダンパーの不具合により、エンジン・シャットダウン時にブレードが機体(前方トンネル・カバー)に接触した。
(クラスC)
16. 飛行後のエンジン停止手順を実施中、コックピット内で火災が発生し、その後、消火されたものの、損傷が生じた。当該火災は、ヒーター・コンパートメント内の油圧配管が摩耗し、作動油を霧状に噴霧したことが原因であった。摩耗した電気配線が発生させた火花が作動油に着火した。
(クラスC)
17. 承認された着陸地帯内にある狭隘地に、NVGを使用して着陸していたところ、後方メイン・ローター・ブレードが樹木に接触した。着陸には成功し、搭乗員に負傷はなかった。3枚の後方ブレードすべてに損傷が生じた。
(クラスC)
18. エンジン停止手順を実施中、付近に再移動してきた他機のダウン・ウォッシュにより、ブレードがNo.1トンネル・カバーに接触し、機体および操縦系統が損傷した。(クラスC)
結 言
2014~18年度の5年間、H-47シリーズにおいては、その前の5年間と比較して、航空事故発生件数及び発生率が減少した。クラスA~C事故の総件数は、2009~13年度の108件から2014~18年度の45件へと58パーセント減少した。クラスA事故は、15件から6件へと60パーセント減少した。直近の5年間におけるH-47シリーズの事故発生率は、10万飛行時間当たり2.52件から1.35件へと46パーセント減少した。クラスA~C事故の発生率は、14.53件から9.73件へと33パーセント減少した。
この期間に多く発生したのは、物件への衝突、オーバースピード(過回転)・オーバーテンプ(温度過昇)・オーバートルク、機外搭載関連事故、地上滑走中の事故およびドアの不時落下などによる事故であった。
一般的に、有人航空機による事故の75~80パーセントの原因は、人的ミスである。航空機の操縦および整備のいずれにおいても、人的要因による事故を防止するために最も効果的な対策は、「各級指揮官による適切な監督」と「定められた基準の厳守」であったし、これからもそうであり続けるであろう。
訳者注:米国の会計年度の開始は10月、終了は9月であり、終了時の年で呼ばれます。また、米国陸軍の航空事故の区分は、概ね次のとおりです(AR 385-10、2013年11月改正)。
クラスA- 200万ドル以上の損害、航空機の破壊、遺失若しくは放棄、死亡、又は完全な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスB- 50万ドル以上200万ドル未満の損害、部分的な身体障害に至る傷害若しくは公務上の疾病、又は3人以上の入院を伴う事故
クラスC- 5万ドル以上50万ドル未満の損害又は1日以上の休養を要する傷害若しくは公務上の疾病を伴う事故
クラスD- 2千ドル以上5万ドル未満の損害、又は職務に影響を及ぼす傷害若しくは疾病等を伴う事故
クラスE- 2千ドル未満の損害を伴う事故
クラスF- 回避不可能なエンジン内外の異物によるエンジン(APUを除く)の損傷
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2018年12月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
著者の肩書は、原文では「DAP,Aviation Division」となっています。Flightfax編集部に確認したところ、DAPは「Directorate of Assessments and Prevention」の略で、Aviation divisionは、DAPの一部署だそうです。
この質問をメールで送ってから、回答をもらえるまでの時間は、9分でした。インターネットの威力を改めて感じさせられました。
「Directorate of Assessments and Prevention」は、「評価・対策理事会」と訳してみました。すでに定訳などがあれば、教えてください。