航空事故調査:MRB(メイン・ローター・ブレード)に衝突したフライト・メディック
NVG(Night Vision Goggles, 暗視ゴーグル)を使用した患者後送任務中、HH-60Mが2点接地のピナクル・ランディングで待機していたところ、フライト・メディックがメイン・ローターのディスク・エリアに進入し、回転中のMRB(Main Rotor Blade, メイン・ローター・ブレード)に衝突した。当該メディックは頭部に致命傷を負った。
飛行の経緯
事故機であるHH-60Mは、OEF(Operation Enduring Freedom, 不朽の自由作戦)を支援するMEDEVAC(Medical Evacuation, 医療後送)中隊に所属していた。搭乗員は0700に勤務を開始し、TOC(Tactical Operations Center, 戦術作戦センター)で任務・気象ブリーフィングを受けた。当該機は昼間、戦闘作戦を支援するため、ホーム・ベースからFOB(Forward Operating Base, 前方展開基地)に移動した。1500にホーム・ベースに帰投した。その後まもなく、MEDEVAC要請を受け、離陸した。FOBに到着すると、ピックアップ実施の最終許可を待った。OP(Observation Post, 監視所)へ進み、3名の緊急患者のピックアップを許可されたのは、予定よりも約4時間後のことだった。2000頃、指定されたLZ(Landing Zone, 降着地域)に到着した。
LZへの進入および高・低高度偵察により、LZの地形は10度を超える上り坂であり、2点接地のピナクル・ランディングをするしかないと判断された。風は機首方向から19ノットで、最大瞬間風速30ノット以上と推定された。パイロットは主脚を接地させると、サイクリックを前方に押して機体を水平に維持した。サイクリックが前方に操作されたことと、10度を超えるLZの傾斜が相まって、ローター・ディスクのチップ・パスは地面から5フィート(約1.5メートル)未満の高さとなった。LZが急勾配であり、複数の電線、杭、および岩の障害物が存在したため、HH-60Mから左側に降機することはできなかった。航空機の右側には、患者収容点付近にあるHESCO防壁(金属製のメッシュフレームと布製の内袋から構成され、土砂を充填して設置される防護壁)へと続く狭い通路があった。この水路状の地形により、機体の右側から患者の位置まで非常に狭い経路を通ることが余儀なくされた。さらに、3時方向への降機は障害物と隆起した地形により阻まれていた。
フライト・メディックは、ローター・ディスクから離脱すると、2時方向から2名の緊急患者を連れて再進入した。その後、3人目の患者を回収するために2時方向から離脱したが、進入する際には12時から1時方向からローター・ディスク・エリアに入った。機体前方でのブレード・クリアランスは4~5フィート(約1.2~1.5メートル)であり、そのブレードがフライト・メディックのACH(Army Combat Helmet, 陸軍戦闘ヘルメット)と接触し、致命傷を負わせた。
事故調査委員会は、フライト・メディックがローター・ディスクから離脱・再進入する際に、搭乗員との双方向通信が確保できていなかったと判断した。フライト・メディックは、コックピットからの許可を得ることなく、ローター・ディスク・エリアに進入していた。このため、フライト・メディックが機体前方のローター・ディスクが極めて低いことを認識しているかどうか、搭乗員が確認することができなかった。フライト・メディックとパイロットの間に双方向通信が確保できていなかったことが、低い位置で回転しているローター・ブレードを回避するための適切な対応を妨げることとなった。
事故調査委員会は、関係部隊に対し、フライト・メディックがローター・ディスク・エリアに進入する際には、PC(Pilot in Command, 機長)との双方向通信を確保し、その承認を得ることを義務付ける標準化された手順を構築するよう勧告した。
この報告書に含まれるすべての情報は、事故防止目的以外に使用してはならない。また、USACRC(U.S. Army Combat Readiness Center, アメリカ陸軍コンバット・レディネス・センター)からの事前の承認なしにDOD(Department of Defense, 国防総省)外部に配布してはならない。完全な事故速報には、CRC RMIS(Combat Readiness Center Risk Management Information System, コンバット・レディネス・センター・リスク・マネジメント・インフォメーション・システム)からアクセスできる。
https://rmis.army.mil/rmis/asmis.main1
※AKO(Army Knowledge Online, アーミー・ナレッジ・オンライン)のパスワードとRMIS許可が必要
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2012年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:158
コメント投稿フォーム
1件のコメント
2012年の記事です。