任務ブリーフィングのプロセス

陸軍規則(AR)95-1の2-14項には、陸軍における飛行任務承認プロセスの要件が規定されている。ただし、その要件を満たしてはいたが、その目的を理解していかなったために航空事故に至る場合が少なくない。任務ブリーフィング実施者と機長および飛行任務指揮官(AMC)との連携が不適切だったために、リスクを効果的に軽減できなかったのである。重要なことが質問されず、事故に至るまでの一連の事象の連鎖を断ち切れないことは、壊滅的な結果をもたらしかねないのである。
2006年、陸軍はAR 95-1を改定し、任務承認プロセスの実施を義務づけた。以来、そのプロセスは陸軍航空部隊の日常的な業務になっている。その手続には指揮官による直接的な関与が要求されているが、それは良好な成果を残した指揮官は部隊の任務に直接関与していたという事実に基づいている。その規定は、指揮系統中の適切なリスク・レベル権限者によるリスク容認手順を定めるとともに、DAフォーム5484「任務スケジュール/ブリーフィング」への記録を義務付けている。2006年以前は、任務承認権者はブリーフィング実施者を兼ねていた。任務ブリーフィング実施者を承認権者から分離した目的は、部隊の任務について深い理解を有する機長をこのプロセスの中に取り込むことにあった。そうすることによって、機長たちが持つ、任務計画、任務遂行、規則や規定についての豊富な知識、そして最も重要なのは、細部事項の中に潜むリスク軽減のために重大な意味を見逃さない経験が活かせるからである。多くの航空事故の調査結果では、任務承認プロセスの崩壊が重大な要因であったと判断されている。
AR 95-1は、1次任務承認権者、任務ブリーフィング実施者および最終任務承認権者のために、任務承認およびリスク管理プロセスの標準化と理解を確実にするための訓練および認定プログラムを確立することを要求している。この訓練および認定の目的は、指定された要員にこのプロセスが徹底的に理解されるようにするとともに、指揮系統の誰かによるリスクの容認に先立って、適切なリスクの評価および軽減が実行されるようにすることである。しかし、実際には、そうなっていないことが多い。パイロットが機長になり、任務ブリーフィング実施者のリストに追加される際に、パワーポイントのスライドショーを使った教育が行われるだけなのである。その訓練資料は個人搭乗訓練記録簿(Individual’s Aircrew Training Folder)にさえも綴られず、任務ブリーフィングにおいて問いかけるべき最低限の質問事項すら分かっていない任務ブリーフィング実施者がいてもおかしくない状態となっている。任務ブリーフィング実施者は、その経験や成熟度、判断力、そしてリスクを効果的に軽減する能力に基づいて選定されるべきである。全ての機長をブリーフィング実施者に選定することは、ブリーフィングの実施を容易するものの、任務経験という基準を満たさない可能性を生じさせる。
明確に述べておかなければならないことは、様式の整ったDAフォーム5484に署名を得ただけでは、任務ブリーフィングのプロセスの目的を達成したことにはならないということである。任務ブリーフィング実施者が、最低限必要な質問、より具体的に言えば、任務に関する適切な質問を行っていないことがあまりにも多い。ブリーフィング実施者と機長/空中部隊指揮官との間の質疑応答がないまま、口頭命令(Verbal Orders of Commanding Officer, VOCO)による承認が行われることが少なくない。口頭命令による許可は認められているものの、電話や第三者を通じて任務計画を検討・評価することを常態とすべきではない。承認権者には機長や航空機指揮官との質疑応答が要求されていないため、任務ブリーフィング実施者による任務の詳細な分析が極めて重要である。それが行われなかった場合には、必要なリスク軽減が実行されず、プロセスの目的が達成できないことにつながる。AR 95-1は、特定の飛行または任務のリスクを把握し、評価し、軽減するためには、ブリーフィング実施者と搭乗員との間の質疑応答が最も重要であると述べている。ブリーフィング担当士官は、主要な任務要素を評価し、ブリーフィングすることで、任務を実施する機長または空中部隊指揮官にその内容を確実に理解させる責任を有しているのである。任務ブリーフィング担当士官が任務計画プロセスにおいて、検討・評価しなければならない最低限の事項は、次のとおりである。
- 当該飛行が作戦部隊の任務を支援できるものであること。
- 搭乗員が任務を理解し、任務の戦術的、技術的および管理的事項について、状況を詳細に把握できていること。
- 割り当てられた搭乗員に十分な任務前計画時間が与えられ、任務に必要な性能諸元やNOTAM(航空情報)の把握、支援部隊との調整などが適切に行われていること。
- 搭乗員は、本規則および第4-18項に基づいて指揮官が定める搭乗員資格認定・選抜プログラムに従って任命され、任務への適格性を維持していること。その適格性には、点検済みのALSE(航空救命機器)の装備、最新の搭乗員規定の把握、および任務に適合した搭乗経験などが含まれる。
- 任務間の気象予報(出発時、経路上、到着時の気象を含む)は、本規則および現地における規定に示された要件を満たしていること。
- 搭乗員が部隊の搭乗員疲労管理基準(crew endurance requirements)を超過して勤務していないこと。
- 指揮官のリスク管理プログラムに示された手順を完了し、リスクが可能な限り低いレベルまで軽減されていること。
- 必要な特殊任務装備品(special mission equipment)が可動状態であること。
任務ブリーフィング実施者の存在は任務承認プロセスに欠かせないものであり、任務の詳細な分析を行って指揮官のリスクを軽減することがAR 95-1により求められている。経験豊富な機長による詳細な任務ブリーフィングが行われない場合、このプロセスは失敗し、搭乗員と指揮官は必要以上のリスクを負うことになる。任務ブリーフィング実施者は、航空機事故につながる可能性のある一連の事象を断ち切るために必要なリスク軽減能力を有していなければならない。DAフォーム5484を書き上げるための最低要件を満たすことを、任務計画を詳細に分析することや、AR 95-1に従って任務に必要な最低要件を適用することと混同するようなことがあってはならない。
軍属チャールズ・W・レントには、(334) 255-9098、DSN 558で連絡可能です。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2013年04月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2013年の記事です。