航空事故発生状況 – UH-60L ケイビング・ラダー訓練中の事故

事故の数ヶ月前、事故発生中隊および大隊の指揮官は、海上運用中の航空機における緊急事態の発生を危険要因と認識するようになった。この危険要因を軽減するための組織的戦略の一つとして、海上飛行を行う航空機にケイビング・ラダー(金属または樹脂製の縄梯子)を搭載し、活用することになった。
発生状況
事故の1ヶ月前、当該部隊はケイビング・ラダーの運用を開始するために、セルフ・スタート条項(部隊内に専門家がいない状態において、指揮官が最も経験ある人員を指名して最初の教官とし、部隊内で自律的に新しい訓練プログラムを立ち上げていくための規定)の適用を決定した。その準備として、大隊の標準化教官操縦士は、中隊の上級教官操縦士に対し、任務に習熟させるための学科訓練を実施するように指示した。2月7日、中隊の教官操縦士は、事前に作成されたパワーポイントのスライドを利用して、中隊の隊員に対面での学科教育を実施した。このケイビング・ラダー運用に関する学科教育は、陸軍規則(AR, Army Regulation)95-1、UH-60シリーズ搭乗員訓練マニュアル(ATM, Aircrew Training Manual)、アメリカ特殊作戦軍マニュアル350-6、当該部隊の作戦規定(SOP, standard operating procedure)、陸軍技術出版物(ATP, Army Techniques Publication)3-18.12「特殊部隊水上作戦」、および空軍技術指令書(TO, Technical Order)00-25-245「人員安全・救助装備の試験・検査手順」に基づいて実施された。2月7日の訓練に参加できなかった任務関係者には、翌週に対面での補備教育が行われた。
中隊の隊員は、実技訓練実施の2日前に事前任務計画の作成および任務準備を行った。その準備には、任務ブリーフィングおよび承認プロセス、性能計画、および機体構成が含まれていた。実技訓練には、2機のUH-60Lブラックホーク・ヘリコプターを使用し、最初の訓練では、その後の訓練で用いる技術を決定し標準化するため、主要な訓練担当者全員が搭乗することになっていた。
2回目の訓練からは、その2機に有資格および無資格の搭乗員が搭乗し、危険見積に関するブリーフィングを受けた全隊員が交代しながら訓練を行う予定であった。危険見積は航空安全担当官によってブリーフィングされ、最終任務承認権者によって中程度*(Moderate*)のリスクとして承認された。このアスタリスク(*)は、リスク軽減策がとられたとしても、これより下位のリスク評価にはならないことを意味する。
中隊の隊員は、訓練時間を延長するため、2機のUH-60Lに機外搭載システム(ESSS, Extended Stores Support Systems)と耐衝撃性機外燃料システム(CEFS, Crashworthy External Fuel Systems)を搭載した。また、搭乗員は4組のエアリアル・システムズ社製のナイロン・ラダーを保管庫から運び出し、各機のキャビン・フロアに2組ずつ配分した。そして、各機の左右のキャビン・ドアの内側前方のD区画にある耐荷重5,000ポンドのタイダウン・フィッティングに、ラダーの上部を結合した。事故機の左側には、長さ30フィートのラダーが取り付けられていた。各機のキャビン・ドアは開いた状態で固定され、両方の操縦士ドアは取り外されて格納庫に保管された。
3月5日0730、最初の訓練に参加する搭乗員が格納庫に到着し、クルー・ブリーフィングを行い、機体の飛行前点検を完了した。機体に問題はないと判断され、0907にエンジンを始動した。飛行前点検および地上試運転が特記事項なく完了すると、事故機は飛行場から指定された訓練空域へ向けて離陸した。飛行場を離陸してから1分52秒後、 機体左側の30フィートのナイロン・ラダーが不意に展張し、テール・ローター・システムに衝突して、それを破壊した。操縦していたパイロットはオートローテーションに移行したものの、機体は開かつ地付近の森林に墜落した。墜落後、搭乗員は自力で機体から脱出し、中隊の飛行指揮所に事故の発生を報告した。特筆すべき事項として、事故後、機長が数名の搭乗員に戦闘捜索救難用無線機(CSEL, Combat Survivor Evader Locator)のIMMボタンを押すよう指示したが、その無線機は飛行前点検中に適切に準備されておらず、有効な位置情報を取得していなかった。このため、その無線機は設計されたとおりに作動し、統合人員救助センター(JPRC, Joint Personnel Recovery Center)に連絡する前に、位置情報を取得し始めた。結果的には、位置を特定する前に無線機の電源は切られ、携帯電話が使用されることになった。事故機の搭乗員は地元の医療施設に地上搬送されたが、その日のうちに治療を終えて退院した。
搭乗員の練度
機長兼教官操縦士は、総飛行時間1,658時間、うちUH-60Lでの飛行時間は1,374時間であった。もう一人の操縦士も教官操縦士で、総飛行時間916時間、うちUH-60Lでの飛行時間は755時間であった。先任クルー・チーフは、総飛行時間1,462時間、うちUH-60Lでの飛行時間は1,374時間であった。もう一人のクルー・チーフは、総飛行時間559時間、うちUH-60Lでの飛行時間は234時間であった。
考察
搭乗員はケイビング・ラダーが展張しないように固定されていると思い込んでおり、飛行中の不意な展張を予測できていなかった。訓練および任務遂行の全期間を通じて、危険要因を特定し、適切な軽減策を実施して、積極的にリスクを管理することを忘れてはならない。
TC 3-04.11のセルフ・スタート条項を利用することは、その任務または訓練計画に関する組織的な経験が不足していることを示していると認識すべきである。訓練主務者は、不慣れな任務の訓練に伴う危険要因とリスク軽減手法を適切に把握するために、以前にその任務または訓練計画を実施したことのある組織外の経験豊富な人員に支援を求めるべきである。
陸軍の航空機に特殊な装備を設置する際に疑問がある場合や、既存の基準が利用できない場合は、航空プログラム・エグゼクティブ・オフィスまたはシステム・レディネス総局に問い合わせるべきである。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2025年07月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
とりあえず、「ケイビング・ラダー」という名称は覚えておく必要がありそうです。