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次世代偽装システム:アメリカ軍兵士を隠蔽する2つの新装備

ULCANS(Ultra-light Camouflage Netting System, 超軽量偽装網システム)とIGS(Improved Ghillie System, 改良型ギリー・システム)

マット・クリサーラ

次世代偽装(ぎそう)システムは、暗闇の中でも敵を発見できるナイト・ビジョンやサーマル・イメージングの使用が増える中、アメリカ軍の戦場における車両や人員の隠蔽(いんぺい)方法に革命をもたらしてきた。しかし、こうした技術の発達は世界中のどの軍隊にも共通するものであり、「見える」と「見られない」の技術競争が繰り広げられている。

この記事では、ULCANS(Ultra-light Camouflage Netting System, 超軽量偽装網システム)IGS(Improved Ghillie System, 改良型ギリー・システム)という、戦場でアメリカ兵を隠蔽するための2つのシンプルな新型装備品について簡単に説明する。

ナイト・ビジョンとサーマル・イメージング

その前に、ナイト・ビジョンとサーマル・イメージングについて、簡単に説明しておこう。この2つの用語は、混同して用いられていることが少なくないからだ。

ナイト・ビジョン

ナイト・ビジョンは、周囲の可視光を増幅する器材である。ほとんどの場合、夜空は「暗闇で見る」のに十分な光を提供する。ただし、照明がまったくない屋内では、問題が生じる可能性がある。

サーマル・イメージング

サーマル・イメージングは、赤外線センサーを使用して物体間の温度差を検出する器材である。このため、可視光がゼロでも機能が損なわれない。また、サーマル・イメージングは、ほこり、煙、雨、霧などに影響を受けず、それを通り抜けて対象を検知することができる。

ULCANS(Ultra-light Camouflage Netting System, 超軽量偽装網システム)

戦場で車両や人員を隠蔽するための器材として、偽装網は古くから使用されてきた。このような従来型の偽装網は、どこでも入手できるという利点はあるが、可視光以外の光や熱を感知できる新型センサーには太刀打ちできないという欠点を有していた。ナイト・ビジョンやサーマル・イメージングに対する隠蔽効果はほとんど望めず、もはや時代遅れのものとなってしまっている。

そこで開発されたのがファイブロテクス(Fibrotex)社のULCANS(Ultra-light Camouflage Netting System, 超軽量偽装網システム)である。このシステムは、従来の偽装網よりも高い隠蔽性能を有するだけではなく、より迅速かつ容易に展張できるようになっている。上のビデオで分かるとおり、この最新のシステムはネットではなくシートを使っている。このため、目視でも車両等の輪郭が見えなくなっている。加えて、そのシートをマルチスペクトルに対応した「見えないマント」にするための巧妙な処理が施されている。

ULCANSの生地自体には、新素材が適用され特殊なコーティングが行われている。最大のマルチスペクトル脅威は、可視光を必要としないサーマル・イメージングである(ナイト・ビジョンは既存の明かりを増幅するため、可視光が必要)。サーマル・イメージングに対応するため、このシステムの生地にはヒート・シグネチャーを散乱させる高い反射性を有する素材で作られている。シート周囲のヒート・シグネチャーが反射されると、シートの検知が困難になる。

10年間で4億8000万ドルのアメリカ陸軍との契約に基づき、この次世代の偽装技術を開発しているフィブロテクス社は、1965年にイスラエルで設立され、元戦闘部隊や特殊部隊の兵士や物理学技術者の専門知識を活用して、世界各国の戦闘部隊に対して偽装用装備品の製造・販売を行っている。

IGS(Improved Ghillie System, 改良型ギリー・システム)

数十年にわたる戦闘経験を経て、IGS(Improved Ghillie System, 改良型ギリー・システム)はそのクライマックスに迎えようとしている。この最新のギリー・スーツは驚異的な性能を有しており、通気性、軽量性、難燃性を備えつつ、狙撃手をナイト・ビジョンから隠蔽できる。IGSを正しく理解するためには、ギリー・スーツの始まりとその進化を紐解く必要がある。

ギリー・スーツは、狙撃手が発見されないようにするための器材として古くから使用されてきた。スコットランドの猟師が周囲の地形・地物に溶け込み、体のシルエットを崩すためにギリー・スーツを発明したのは、17世紀のことであった。これを着用すると猟師はほとんど見えなくなり、野生動物に忍び寄ることが容易になった。イギリス軍がこのアイデアに着目したのは当然のことであり、第1次世界大戦の早い時期からギリー・スーツを実戦に投入してきた(アメリカ軍がギリー・スーツを使用し始めたのは、ベトナム戦争以降のことである)。その効果は非常に高かったが、着用すると暑くて重く、素材の黄麻布(おうまふ)が燃えやすいために危険でもあった。

「ギリー(Ghillie)」という名称は、スコットランドのゲール語で「少年」または「召使い」を意味する「ギル(Gille)」という言葉に由来する。スコットランドの農民は、自分たちの土地で野生動物の狩猟を行う際にギルを雇って手伝わせていた。

2012年に導入されたFRGS(Flame-Resistant Ghillie System, 難燃性ギリー・システム)は、それまでの黄麻布を使用したギリー・スーツの可燃性の問題を解決したものであった。しかし、依然として暑くて重く、戦闘行動に支障となっていた。それを根本的に改善しようとしたのがIGS(Improved Ghillie System, 改良型ギリー・システム)である。その目的は、ほぼすべての面での性能を向上させるとともに、快適で通気性があり、軽量で難燃性の高い偽装システムを開発して、狙撃手の発する赤外線シグネチャーがナイト・ビジョンにより検知されるのを阻害することにある。

IGSは、戦闘服の上から着用する袖部、裾部、頭部および肩・背部の覆いで構成されたモジュール式システムである。このため、狙撃手は状況に応じてそれぞれの覆いを追加または削除することができる。生地には通気性があり、システム全体の重さは5ポンド(約2.3キログラム)以下に抑えられている。このシステムの赤外線シグネチャー抑制性能についてはほとんど情報がないが、偽装効果を高めるため、従来よりも硬い「かせ糸(糸を巻いて束にしたもの。草木のような効果を生み出す)」を使用している。IGSは、性能向上に加えて、FRGSの1,300ドルよりも安価な価格も実現できそうだ。

シンプルなものほど美しい

子供の頃、私は「未来の武器」のような番組を見て育った。「ディスカバリー・チャンネル」という番組では、角を曲がったり、自動誘導されたりできる弾丸を使用するライフル銃というようなさまざまなアイデアを紹介していた。しかし、空飛ぶ自動車が21世紀の主流になるという希望が実現しなかったように、現実の技術革新はそう上手くはいかないものである。

アメリカ軍に関しては、新型軍用ライフル銃や電気自動車の可能性のような派手な技術革新だけが語られ、偽装のような超基本的な技術はその影に隠されてしまいがちである。しかし、ULCANSとIGSについて学んでみると、美しさはシンプルさの中にこそ存在するように感じられる。

なお、ナイト・ビションやサーマル・システムは、他の軍事技術とは異なり、民間人でも軍用品とほぼ同じものが購入できる。Amazonを検索すると次のような2つの製品があり、いずれも2,000ドルほどで購入できる。また、「The Night Vision Company」などの専門店では、軍や警察機関が使用するものと同等の性能をもつ製品も販売されている。ただし、新品の第3世代ナイト・ビジョン・ゴーグルやサーマル・イメージング・システムには10,000ドル以上の価格がつけられている。

マット・クリサーラ
オースティン生まれのマット・クリサーラは、国内外の車とモータースポーツに強い関心を持っています。「サーキット・オブ・ジ・アメリカズ」の「F1 Track and Speed City」での研修やオースティンのラジオ局で自動車レース専門のブロードキャスタを勤めたのち、「Motor1」誌ライターとして活躍したこともありました。アリゾナ大学ジャーナリズム学部で学士号を取得し、大学のクラブチームの一員としてマウンテンバイクのレースに出場していました。仕事以外の時は、シミュレーション・レースやFPVドローン、アウトドアなどを楽しんでいます。

                               

出典:Popular Mechanics 2024年01月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

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