コレクティブの抵抗

イラクのバラドで、いつもと変わらない夜が始まりました。任務内容も、タイムラインも、暑い中での飛行前点検も、すべていつもどおりです。私と前席搭乗員は、地上支援任務に就くアパッチ2機編隊の後続機を担当することになっていました。第1使用機の飛行前点検を実施した後、長機の搭乗員と予備機のところで合流し、乗り換えに備えた準備を行いました。いつもどおりの打ち合わせを済ませてから搭乗し、エンジンを始動しました。
最も信頼している整備下士官(noncommissioned officer, NCO)から、この機体は定期整備明けの初飛行になると聞いていたので、最悪の事態を想定して、特に入念な地上試運転を実施しました。すべてが順調に進み、各システムの表示も正常でした。バックアップ操縦系統の点検を終え、機体を起動しました。
出力が100パーセントに達し、即応態勢1(Readiness Condition 1, REDCON 1)の表示を確認したので、長機を呼び出しました。長機が北側のヘリパッドに向けて地上滑走を始めるのを待ってから、駐機位置を離れてバック・タキシーし、長機の後方に付くと通報しました。エンジン性能確認試験(Health Indicator Test, HIT)が完了すると、長機がタワーを呼び出し、南への離陸準備に入りました。コレクティブを引くと、機体を浮かせるのに普段よりやや力が要りましたが、操縦系統も重心も正常に感じられました。長機が先に出発し、こちらは5フィート(約1.5メートル)のホバリングで、長機のダウンウォッシュと砂塵が収まるのを待ちました。そして、いよいよ出発——のはずでした。
コレクティブの抵抗感は、ほんの数秒前よりもはるかに大きくなっており、滑らかに動かなくなっていました。動かすだけでもかなりの力が要るうえ、動いた途端に押し戻さないと、トルクが一気に跳ね上がってしまいます。砂塵を抜けて長機の後方に付くまでの間、前席搭乗員に、コレクティブに何か引っかかっているものが見えないか尋ねました。異常なしとの返答を受け、私も手早く自分の周囲を確認しました。そこへ長機が、基地外への離脱を通報してきました。私は「チョーク2、問題発生」と応答しました。
長機の先任機長(pilot in command, PC)兼エア・ミッション・コマンダーは、落ち着いた様子で状況を確認し、こちらで試すべき故障探求の手順を提案してくれました。まず、副操縦士/射手(Co-Pilot Gunner, CPG)の搭乗位置で、ペンや鉛筆、リップ・イット(エナジー・ドリンクの缶)などがコレクティブに挟まっていないか確認しました。次に、前席搭乗員に操縦を代わってもらい、自分の搭乗位置を点検しました。前後席ともコレクティブ周りに異物はなく、前席搭乗員もコレクティブが動かせないと言います。私が操縦を引き継ぎ、長機に引き返す旨を伝えました。長機は、緊急事態に発展しかねないと判断し、直ちに引き返すよう指示するとともに、自ら後方に回り、タワーへの通報を行ってくれました。
基地から約2キロメートルの地点で、私たちは着陸の段取りを考え始めました。この時点でコレクティブはひどく固着しており、上にも下にも動かすのに大きな力が必要でした。この状態では、ホバリングで機体を制御できるとは思えません。バラドの攻撃ヘリコプター駐機場の南端には大きめのヘリパッドがあり、私が駐機していたのは北端だったので、滑走着陸を行うには十分な距離がとれます。一方、アルファ誘導路にも航空機はなく、こちらのほうが滑走着陸に使えるスペースが広いうえ、万一のときに消火救難車両も迅速に駆けつけられる場所でした。いろいろ考えた末、私は南側のヘリパッドを選びました。
ファイナル・アプローチに入ると、前席搭乗員が対気速度と高度を読み上げ始めました。約35ノット(時速約65キロメートル)まで減速し、手順どおり見事な滑走着陸を決めました。そのまま急いで地上滑走を続け、機体を駐機位置まで戻しました。私たちが引き返してきたことや、通常より速い進入を目にしていた地上要員が、普段よりもかなり多く駆け寄ってきました。
2分間のエンジン・クールダウンを開始しながら、前席搭乗員に降機を指示し、信頼する整備下士官に代わりに乗り込んでもらいました。彼はヘッドセットを着けると、さっそくコレクティブを引き上げようとしました。当然、普通に動くと思っていたのでしょう——あまりの重さに驚いていました。筋骨隆々の彼ですら苦労し、「こんなもの、よく飛ばせましたね」と言うほどでした。
私は機体を降り、装備を予備機に移しました。その後の任務は問題なく遂行できました。コレクティブの異常の原因が判明したのは、翌日のことです。操縦士側のコレクティブ・ガイドに取り付けられた、わずか30セントのワッシャーが誤った向きで組み付けられており、正常に機能しなくなっていたのです。機体を浮かせるために出力を加えるまでは問題なく動いていましたが、出力がかかった途端にワッシャーがガイドに食い込み始めたのでした。正しく組み直した後は、問題は再発しませんでした。
教訓
振り返ると、すべてがうまく収まったことに感謝しています。自機の前席搭乗員だけでなく、長機の先任機長とも良好なクルー・コーディネーションがとれたおかげで、経験の浅い私でも、危うい状況を鮮烈な記憶と大きな笑顔だけで終わらせることができました。任務後、長機の機長からは、もっと余裕のある滑走着陸ができるようアルファ誘導路を使うべきだったし、消火救難要員にそこで待機するよう要請すべきだったとアドバイスされました。そうすれば、消火救難要員にとってもいい実地訓練の機会になったはずですから。すべての原因は、たった30セントのワッシャー1枚だったのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年03月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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2件のコメント
この記事は、2021年1月に掲載された記事が再掲載されたものです。
https://aviation-assets.info/risk-management/the-30-cent-washer/
さし絵がコレクティブではなくサイクリックになっているのは、原文のママです。あしからず。