自分の能力にうぬぼれるな
正直に言って、私たちパイロット、特にヘリコプターのパイロットにはうぬぼれの強い者が多いです。パイロットにA型性格(訳者注:よく遊び、よく働き、競争的でエネルギッシュなタイプの人間。血液型とは関係がない)が多いのは周知の事実です。それは、要求される危険で複雑な任務を遂行するためには仕方のないことなのです。しかし、パイロットのうぬぼれや自分は大丈夫だという態度が事故の原因になる場合も少なくありません。
2機編隊を指揮して、ジョージア州フォート・ムーアからアーカンソー州フォート・チャフィーまで移動し、地上部隊の訓練を支援する任務を命ぜられた私は、飛行時間が 1,000時間強の若い上級准尉2の機長でした。現地への推進は、何事もなく完了しました。翌日、現地の航空参謀からブリーフィングを受け、現地での飛行に必要な地図、SOP(standard operating procedures, 作戦規定)および航空運用規定などを受領しました。私は、現地の地形を偵察し、それに完熟するための飛行を計画し、編隊の長機として離陸しました。
私の機体の副操縦士は、たまたま前年にフォート・チャフィーで同じ演習を支援していた同じく上級准尉2の若いパイロットでした。彼は、その支援のため戦車道に沿って飛行している最中に木製のポールとのブレード・ストライク事故を起こしていました。私は彼のことを気の毒だと思いました。彼は素晴らしい男であり、優れたパイロットでした。たまたま不運だっただけだと思っていました。私の部隊では、過去1年半の間に3回のブレード・ストライク事故が発生していたにもかかわらず...
我々の飛行は、すべてが計画どおりに進んでいました。演習場の境界線を一周して全般地形を把握すると、場内の偵察を開始しました。飛行開始から約1時間半が経過すると、私は航法に疲れてきました。自分で操縦したくなったので、副操縦士に地図の確認をまかせて、操縦を引き継ぎました。
森の中の曲がりくねった戦車道の上を飛行していしました。「経験豊富」なパイロットである私は、NOE(nap of the earth, ほふく飛行)を開始しました。軍隊において常に指導されていることは何でしょうか? 訓練は戦闘と同じように行え、ですよね? だから私はNOEを行いました。そして少しだけ無理な速度で飛行していました。私の機体には試験飛行操縦士が操縦する2番機が追従していましたが、特に異論を挟むことなくNOE飛行に加わりました。私の後ろについてゆけばいいと思っていただけだったのです。その試験飛行操縦士は、無線で「木にローターを突っ込むのは勘弁してくれよ。」 というようなことを言いました。(その言い方は、もう少し下品だったかも知れません。)
その無線連絡の直後、副操縦士が、彼がブレード・ストライクを起こしたのはこの経路だったと思うと私に告げました。私が心配になったかって? まさか! 私は自分が副操縦士よりも優れたパイロットだと思っていただけではなく、そうだと分かっていたんですから。
その後どうなったか、もう皆さんにはお分かりだと思います。戦車道に沿って坂を登り、左に曲がるまでは大丈夫でした。何も問題がありませんでした。そして左に曲がりました。前年に副操縦士が衝突したポールは確認できませんでした。かなりの速度で飛行していたのですが、それはかわせたようでした。かわせなかったのは、戦車道の両側にならんだ樹木でした。ローター・ディスクを左側の樹木に約3フィートも突っ込んでしまったのです。
チップ・キャップが破損し、ローター・システムのトラッキングが瞬時に大きく外れるとどうなるかは、経験した者でなければ分からないでしょう。幸いなことに、機体はコントロールできたため、着陸適地を探し始めました。残念なことに、最も近い場所は、約7キロメートル離れたところにある離陸した飛行場でした。2番機の試験飛行操縦士は、私たちに大丈夫かと尋ねた後、機体の近くを追従しながら状態を確認してくれました。
その飛行やその後のエンジン停止は、私が経験した中で最悪のものでした。エンジン停止後、試験飛行操縦士がやって来ましたが、何も言わず、あの表情を見せただけでした。どんな表情かはお分かりでしょう? 私は罪悪感、恥、当惑、恐怖など、考えられるあらゆる感情に悩まされていました。何よりも最悪だったのは、自分だけでなく、機体に搭乗していた他の隊員も殺してしまったかもしれないという恐怖でした。それはすべて私のうぬぼれのせいでした。
指揮官に自分のやらかしたことを告げる電話は、私の勤務経験の中で最も恐ろしいもののひとつでした。彼が私がこれまで出会った中で最もプロフェッショナルで人道的なリーダーであったことを神に感謝します。ただし、機長は交代となり、機体の詳細な点検、試験飛行操縦士によるチップ・キャップの交換、技量評価操縦士による試験飛行などが必要となりました。私のプライドは大いに傷つきましたが、それは長い目で見れば良いことでした。どうか私の犯した誤りから学んでください。自分の能力にうぬぼれてはならないのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:562
コメント投稿フォーム
1件のコメント
今気づいたのですが、こちらの記事の再掲載でした。
(全然覚えていない...)
自信過剰に起因するブレード接触事故