ホイスト救助中の死亡事故
錯雑地において勤務時間外に負傷した兵士をUH-60L患者後送機でホイスト救助しようとしたところ、誤って落下させ、死亡させる事故が発生しました。この任務は、空軍救助調整センター(Air Force Rescue Coordination Center)通じて伝達された郡保安官事務所(sheriff’s office)からの要請により実施されたものでした。
ヘリコプターよりも先に現場に到着した初動対処要員は、スケッド社製のベーシック・レスキュー・システムへの患者の搭載および固縛を完了しました。その後、UH-60が到着し、ホイスト救助員(hoist rider)が患者が乗せられたスケッドの近くに降下しました。スケッドにフックを接続した後、ホイスト操作員(hoist operator)に吊り上げ開始の合図が送られました。巻き上げを行っている途中で、スケッドから患者が滑り落ち、頭部から地面に落下して死亡しました。
このような日常的な任務も、注意を怠ると極めて危険なものになることを改めて認識する必要があります。STACOM(Standardization communications, 標準化指示)通知2022年2月の7ページには、スケッド社製ベーシック・レスキュー・システムへの兵士の搭載および固縛要領が記載されています。各部隊は、その内容を把握するとともに、それに基づいた訓練プログラムが効果的に実施されていることを確認する必要があります。支給されている装備品の取り扱いについて、適切な訓練がすべての搭乗者に対して行われ、十分な習熟度に到達していることが確認できているでしょうか? 問題は、地上からヘリコプターまで吊り上げる要領だけではありません。ホイストで吊り上げる前に負傷者を搭載し、固縛する要領も重要です。ヘリコプターに他の貨物等を搭載する際と同じ様に、スケッドへの患者の搭載・固縛の状態を点検し、安全が確保されていることを確認する必要があります。
最初に取り掛かるべきことは、陸軍航空レスキュー・ホイストSOP(standard operating procedures, 作戦規定)(訓練教義ウェブサイトに保存されているホイスト操作SOP)などに基づいた訓練プログラムを適正に実施することです。そうすることで、訓練基準を明確化し、部隊運用のリスクを低減することが可能となります。2021年版のレスキュー・ホイストSOPにおいては、駐屯地内での訓練の実施および評価要領が2019年版から改正されています。重要なのは、ホイストによる救助の一場面だけに焦点を絞るのではなく、負傷した兵士の担架器材への搭載やホイスト操作中のクルー・コーディネーションから機内での患者の固定まで、任務のすべての段階に関する訓練を実施することです。また、戦闘と同じように、航空機搭乗員だけではなく、被支援部隊の隊員たちもチームの一員としての機能を果たせなければなりません。ホイスト救助において、他部隊との連携は、欠くことのできない要素です。負傷した兵士たちを後段階医療施設に安全に移送するためには、組織全体として訓練を実施し、練度を向上させることが必要なのです。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2022年03月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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4件のコメント
スケッド社製のベーシック・レスキュー・システムは、陸上自衛隊でも装備していたと記憶しています。
航空科部隊には別のホイスト救助専用器材が装備されているので、人員の吊り上げにこれを用いることはないと思いますが、同様の着意は必要だと思います。
英文のSATCOM Message 22-02に添付されている写真が正しい固縛要領です。
スケッドの頭部側末端を患者の頭部に沿うようにカーブさせ、そこに取り付けられているストラップを上から2番目の緊締ベルトの中央部に縛着することになっています。
これを使ってホイストアップしたことがあります。中身はダミーでした。
収納容易なように素材が柔らかいので、固縛が悪いと吊り上げたときに曲がったり、遊びができて不安定になります。
米海兵隊も使用していましたが、山中を曳き回しているうちにスケッドがヨレていたので、吊り上げ前の確認が重要かと思います。
ちなみに、これに収容されたときのストレスはかなりのものです。
なるほど。大変参考になるコメントをいただき、ありがとうございました。