整備員魂-FODチェックに求められる完全性
下士官になりたてだった頃のこと、ツール・アカウンタビリティー(工具の管理)が不適切だったために、ひどい目に遭ったことがありました。ひどい目に遭うのは、決して悪いことばかりではありません。人は、少しくらいの刺激を受けてもへこたれないものです。その経験は、私に、目標とする整備員になるためのきっかけを与えてくれました。
当時、私は、チヌーク中隊の整備下士官でした。ある日、部下たちが機体の列線整備を終えた後、その検査を行っていました。エアコンの効いた事務室までTI (technical inspector,技術検査員) を呼びに行こうとした時、1本の安全線が正しく掛けられていないことに気づきました。私は、ある2等兵(信頼できる隊員でした)に、TIを連れてくるまでにそれを交換しておくように指示しました。その際、作業が終わったらFODチェックを行うように念を押しました。しっかりと目をみながら、確実に指導したつもりでした。作業を終了したその兵士は、事務室に戻っていました。私と一緒に機体に到着したTIは、機体全体を自分で確認したかどうかを私に尋ねました。自信あふれる若手下士官だった私は、安全線の交換作業について確認していないにもかかわらず、「もちろんです」と答えました。
しかし、TIが検査を行うと、スワッシュプレートのところにカッティング・プライヤーと安全線の切れ端が残っているのが発見されました。TIから、スワッシュプレートにはバックアップがない、それが損傷したらどうするつもりなのだ、パイロットに雲の上に降りて修理を待てとでも言うつもりか? というようなことを、かなり厳しく指導されました。間の悪いことに、小隊長がたまたま通りかかり、TIの「説教」に戦闘加入することになりました。その日、私が学んだ貴重な教訓は、いかなる場合においても、兵士の行った整備作業に対する責任は自分にあるということです。
長い説教が終わり、残っていた工具と安全線を回収すると、事務室に戻りました。部下たちは、私が解放されるのをじっと待っていたようでした。私は、部下たちに、工具を全部確認したか? と聞きました。全員が「ハイ」と答えました。そこでプライヤーを取り出して見せると、一人の兵士がガックリとうなだれました。その姿を見ると、列線からの戻り道で考えていたように叱りつけることができなくなってしまいました。私は、そのまま何も言わず、部下たちを解散させました。
FODの犯人である2等兵は、その場に残り、私に謝罪してくれました。どうやら、私が説教されていることを誰かから聞いていたようでした。私は、その日の夜にあの機体を操縦する予定のパイロットのことを知っているか? と聞きました。彼は、知らない、と答えました。私は、その兵士を機体まで連れてゆき、もう一度FODをチェックさせました。その間に、その機体に搭乗する予定だった私の尊敬するパイロットに、あることを相談し、同意を得ました。
私は、その2等兵をそのパイロットのところまで連れてゆき、この人がどういう人なのかを説明するように言いました。そのパイロットを知らない2等兵は、何も言えませんでした。代わりに私が、そのパイロットと、その妻と、その息子たちのことを話して聞かせました。2等兵は、目に涙を浮かべながら聞いていました。私は尋ねました。「お前の工具がこの人の命を奪ったら、どうする? この人の家族に何と言う? そんな事態が起きてからでなければ、ちゃんとした整備ができるようになれないのか?」彼は、黙って聞いていました。
これが整備員魂というものです。我々の任務は、敵と戦うことだけではありません。自分たちの仲間が安全に帰投できるように、完全な機体を準備することも重要な任務なのです。FODチェックは、整備区画、駐車場、列線などのすべての整備施設施設において、常時、完全に実行されなければなりません。雨の日も、風の日も、どんなに疲れていても、我々整備員は、パイロットに最高の機体を提供しなければなりません。そのために求められるのは、パイロットと同じレベルの完全性なのです。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2023年09月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:764