嵐をやり過ごす
「天気予報を選り好みしてはいけない。」よく聞く言葉です。私もかねてよりそのように思っていましたが、最近になって、部外の情報源で気象ブリーフィングの裏付けを取ることの重要性を改めて認識しました。
大隊からCEFS(Crashworthy External Fuel System, 耐衝撃機外燃料システム)装着部隊に指定された私の中隊では、訓練においてもスタブ・ウイングおよびエクスターナル・タンクを取り付けて飛行するようになっていました。ところが、そのCEFSを活用して標準形態よりも飛行範囲を拡大しようとする者は誰もいませんでした。そのことを良く思わない一人の上級パイロットがある長距離飛行を計画しました。しかし、その飛行は、何回も直前に天候不良でキャンセルされていました。それは、フォートライリー(KFRI)から「ローカル」飛行空域の端にあるサウスダコタ州のスー・フォールズ(KFSD)までの飛行でした。機長になりたてだった私は、飛行時間を稼げるその長時間飛行を自ら進んで行うことにしました。
飛行当日、空軍の気象予報官から公式の気象ブリーフィングを受けました。危険な兆候は(あるいは注意すべき兆候でさえもが)一つもありませんでした。サウスダコタ州の気温は低かったものの、全般的には青信号の予報でした。他の気象情報源を確認するという考えは、全く思い浮かびませんでした。公式の予報に何か疑問があれば、当然、部外の情報源を確認しようとするものです。しかし、飛行経路全体に晴天が予報されている場合、そこを気象予報官が読み誤ることはないだろうと考えてしまいます。ただし、そういった思い込みが何をもたらすかは、誰もが知るとおりなのです。
数時間後、私たちはスー・フォールズの南約20分のところまで飛行していました。それまでの間に、自動地上気象観測システムおよび自動ターミナル情報サービスの確認を継続的に行っていました。すべてが予報どおりでした。しかし、目的地に近づくにつれ、遠くに大きな雲の壁が見えてきたのです。スー・フォールズの自動ターミナル情報サービスを受信圏内だったので、それを使って確認しました。 — シーリングなし、微風。私は自分の目のほうを疑ってしまいました。あの雲は、見た目よりもずっと遠くにあるに違いない。結果的には、それは間違いでした。
目的地に着陸し、フライト・プランをクローズすると、給油料金を支払い、気象予報を確認するために建物の中に入りました。その時になって初めて、スマートフォンでレーダー情報を確認しました。それは、吹雪が急速に近づいていることを示していました。副操縦士が「これが誰もサウスダコタまで飛ばない理由だな」と言ったのが忘れられません。フォート・ライリーの気象予報官に電話をかけた時には、日没まではまだ1時間もあるのに、すでに暗くなり始めていました。私は、最悪の事態を想定し始めました。
スー・フォールズでの5人分のホテル代は、いったいいくらかかるだろう?ところが、気象予報では飛行可能で、嵐が到着する前に離陸できれば、フォート・ライリーまで有視界飛行方式(VFR)で帰投できるとのことでした。ただし、嵐が到達した後は、シーリングが200フィートまで低下すると予測されていました。私は、搭乗員全員と話し合ってから、部隊の任務担当士官に連絡しました。それは私が機長として下した初めての重要な決断でした。その時点で帰りのフライトをキャンセルして、嵐の後の低シーリングに閉じ込められるリスクを冒したのでしょうか?それとも、嵐より先に飛び立つことにしたのでしょうか?
私は、まだキャンセルしないことを決心しました。キャンセルすると、嵐の到達が遅くなった場合、離陸するのに十分な時間があっても、時間を浪費することになると思ったからです。給油が完了したらすぐに離陸するつもりで準備を進めました。慌てることも、VFR の限界に挑戦することもしませんが、ただ待つこともしないことにしたのです。
副操縦士がフライト・プランを提出するために電話をかけている間に、クルー・チーフと私はヘリコプターに戻りました。その途中で、降雪が始まりました。飛行場が雲に覆われるのが見え、1分もすると吹雪になりました。雪が横殴りに吹き荒れ、滑走路の反対側の格納庫がほとんど見えなくなりました。その時点で飛行準備を取りやめ、ブレードを固定し、すべてのカバーをかけることにしました。それでも、脱出のチャンスを初めから無駄にせずにすみました。手や顔が凍える中、機体を固定し、急いで運航支援事業者の建物に戻りました。
このタイミングで、車を借りてスー・フォールズまで夕食に行くことにしました。気象予報で示された雲量であれば、しばらくの間はどこにも飛び立つことはできないからです。大人5人がフォード・フィエスタにぎゅうぎゅう詰めになって空港を出発すると、雲の向こうに日差しが見え始めました。30分ほどの間に、天気は快晴から暗い冬の嵐へと変わり、再び晴れ始めたのです。
ダウンタウンのレストランに到着する頃には、空一面に星が見えるようになっていました。嵐の後も続くはずだった、200フィートのシーリングは、どこにも見当たりませんでした。夕食後に離陸すると、何事もなく、順調に帰投することができました。幸いなことに、その日私たちは悪天候による危険を回避することができました。ただし残念なことに、正確な気象ブリーフィングにも回避されてしまったようでした。
公的な気象ブリーフィングだけに頼るべきではありません。確かに陸軍規則95-1には、気象情報を米軍の気象情報源から入手するように定められています。ただし、部外の情報源でそれを再確認することが禁じられているわけではありません — たとえ気象に全く問題がないと説明されていたとしてもです。Foreflight、1-800-WX-BRIEF、AccuWeatherなど、スマートフォンには文字どおり指先でアクセスできるリソースがたくさんあります。それを利用しない手はありません。
出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2024年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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