航空機の定期整備を短縮するためのハック
航空機整備においては、任務を完遂できる状態を維持することが「勝利」を意味します。有事であろうと平時であろうと、航空科部隊の即応性と任務達成の成否を分ける鍵となるのは、航空機整備プログラムです。端的に言えば、整備なくして作戦を遂行することは不可能なのです。
航空機整備は、指揮官の交代、訓練の優先順位、任務要求、作戦テンポ(OPTEMPO, Operating Tempo)、人員配置、兵站、予算などにより、常に変化を余儀なくされる極めて困難な業務です。特に、大規模戦闘作戦(LSCO, Large-Scale Combat Operations)において想定される流動的な状況は、航空機整備にとっての最大の課題の一つとなり得ます(陸軍省[DA, Department of the Army]、2020年、1-1頁)。
各航空機整備組織が抱える部隊の配置、作戦テンポ、資源の利用可能性といった課題は、それぞれに固有のものです。しかし、その根底にある目標は共通しています。すなわち、任務要求を支援するため、安全で信頼性の高い、任務遂行可能な航空機を提供することです(陸軍省、2020年、1-5頁)。
この目標を達成するため、航空部隊の指揮官や整備プログラムの管理者は、整備に必要な資源の連携、追跡、管理によって効率性や有効性を最大限に高める必要があります。そして、体系的で連携の取れた航空機整備プログラムを策定し、実行または支援しなければなりません。
定期整備の重要性
航空機整備プログラムは、あらゆる航空組織の心臓部と言えるでしょう。航空機の運用を支え、高いレベルの即応性を維持するために必要な活力を常に送り出しているからです。航空機整備には、日々の計画および非計画整備から、重要な機体改修や定期整備検査といった周到かつ長期的な計画整備まで、様々な形態があります。
日常整備が部隊の短期的な飛行を支える一方で、航空部隊の長期的な健全性と運用可能性を確保するためには、より計画的かつ詳細な「定期整備」と呼ばれる整備サイクルを確立し、実行する必要があります。
定期整備とは、機種ごとに定められた飛行時間に基づき、機体を徹底的に分解・点検する整備作業です(陸軍省、2020年)。作戦部隊の飛行時間プログラムを維持・支援するためには、この定期整備サイクルを効率的に管理・実行することが不可欠です。また、バンクタイム(飛行可能時間の貯蓄)を管理することで、短期的な日常整備だけでは対応が困難な、作戦強度の高い時期においても、部隊の能力を維持することが可能になります。
非効率的な定期整備プログラムは、航空戦力の回復に遅れを生じさせるだけでなく、限られた資源を浪費し、重要な維持・兵站プロセスを混乱させます。その場合、整備と運用の間に不可欠な協力関係を著しく損なう可能性があります。
また、以下のような問題を招く恐れがあります:
- 生産性や人材の定着率の低下
- 大規模な計画整備の予測・連携の困難化
- 潜在的・突発的な整備上の問題に対する死角の増加
- 積極的・革新的な取り組みに対する阻害
- 指揮官、操縦士、整備員間の信頼関係の悪化
さらに、定期整備の計画は1年以上を網羅するため、一度問題が生じると、その影響はその問題自体の修正に要する期間をはるかに超えて続く可能性があります。この遅れが、整備プログラムを正常な軌道に戻す際のさらなる遅延、問題、そして困難を生み出すのです。
次のセクションでは、航空機の定期整備プログラムの効率と全体的な有効性を向上させるため、一般的に効果があると証明された、いくつかのハックを紹介します。

定期整備プログラムの効率を向上させる10のハック
韓国の作戦戦域に配属された、ある航空支援中隊(ASC, Aviation Support Company)において、次の10項目のハックが具体的な成果を上げました。任務即応性が継続的に求められていたその航空支援中隊には、限られた資源で高い作戦テンポを維持することが求められていました。
以下に示す成果は、過去1年間に実施されたUH-60L、UH/HH-60M、AH-64D/E、およびCH-47Fの12回にわたる定期整備から得られたものです。
主な成果:
- 定期整備全体の所要時間:30%減少
- 機体が列線(フライトライン)を離れてから戻るまでの時間:40%短縮
- 定期整備後の不具合修正(受領点検、電源投入点検、地上試運転、整備試験飛行を含む)に要する時間:約50%減少
- 隊員の定着率と部隊訓練への参加率:30%以上増加
以下のハックは、これらの成果を踏まえ、整備組織全体で最高レベルの品質、安全性、人材の定着を維持しながら、効率と有効性を明確に向上させた実証済みの手段として提案するものです。実証を行ったのは航空支援大隊の航空支援中隊でしたが、各飛行大隊の航空機整備中隊(Aviation Maintenance Company)にも同様に適用できるはずです。
1. 定期整備チームの注意を散漫にさせる要因を排除する
航空機整備員は、陸軍の他の隊員と同様、定期的な訓練から突発的な任務まで、数え切れないほどの要求によって常に時間を奪われています。個人および部隊としての練度維持活動や、家族・社会との関わりといった個人的な要求も加えると、航空機の修理・整備という本来の任務に集中できる時間はほとんど残されていません。
定期整備チームが作業に専念できる環境を整えるためには、早期に人員を慎重に選定することが重要です。これにより、選抜された隊員は、定期整備が始まる前に、規定の訓練(350-1)、健康診断、個人の即応準備、人事業務、体力テスト、射撃訓練といった部隊の即応性に関わる業務を完了することができます。
隊員が定期整備に入る前にこれらの業務を完了させることで、整備作業から注意をそらす要因を排除できます。
定期整備チームから注意散漫の要因を取り除くことにより、3つの重要な結果がもたらされます:
- 集中力の向上:隊員は任務が完了するまでの間、毎日、終日、定期整備に集中し、より献身的に勤務できるようになります。
- 技術向上の機会:隊員は自らの整備技術の向上に没頭でき、航空機整備訓練プログラム(AMTP, Aviation Maintenance Training Program)に沿った練度向上が可能になります。
- モチベーションの向上:隊員は仲間や上官からの支援を実感し、自分の仕事を高いレベルで遂行することに誇りと意欲を感じるようになります。
これら3つの結果は、効率性、有効性、そして人材育成の向上に直結します。
2. 定期整備前の調整と連携を怠らない
定期整備は、作業開始日(デイ・ゼロ)のかなり前から、少なくとも20勤務日前には事前ミーティングを実施し、準備を開始する必要があります。この事前調整と連携により、航空機保有部隊と整備担任部隊の双方が以下の要素を評価し、認識を共有することができます:
- 機体固有の要求事項
- 人員、部品、工具、機材の必要性
- 整備のスケジュール
- 各部隊の責任範囲
- フィードバックの方法
- 予想される問題点や遅延
定期整備を開始する前の緊密なコミュニケーション、調整、連携は、整備中および整備後の全工程に大きな効果をもたらします。定期整備前に部品の需要を高精度で予測し、資源を確保しておくことで、作業中の時間と労力を大幅に節約できます。
整備指揮官、管理者、テストパイロットはもちろんのこと、定期整備チームの品質管理、生産管理、技術補給のリーダーも、この事前調整と連携に積極的に関与しなければなりません。

3. 定期整備後の調整と連携を強化する
定期整備後の調整と連携も、事前の調整と同様に重要です。これにより、航空機保有部隊と整備担任部隊は、定期整備後の業務を完了させ、機体を予定通りに返却するためのスケジュール、資源、人員、優先順位を共有できます。この定期整備後の調整と連携は、整備完了予定日の少なくとも10営業日前までに行う必要があります。
定期整備後の業務には、燃料補給や整備試験飛行クルーの準備など、作業を滞らせる「ボトルネック」や、一つが滞ると全体が停止してしまう「単一障害点」が少なくありません。優先順位の誤り、不正確な思い込み、あるいは連絡調整の不備といった回避可能な問題によって、全体の整備作業が数時間、数日、場合によっては数週間も遅れる可能性があります。
4. 定期整備チームのリーダーを育成する
定期整備が始まる前にチームリーダーとアシスタントリーダーを訓練しておくことは、全工程を通じて計り知れない利益をもたらします。品質管理、人事、そして経験豊富な整備のリーダーたちは、貴重な知識と教訓を次世代のチームリーダーに伝えなければなりません。
効率的で有能な定期整備チームを育成・維持するための鍵となる要素:
- 定期整備前の準備と計画
- 日々の作業サイクルと戦闘リズム
- 重要な基準
- 内外の連絡調整
- 機長へのブリーフィング
- 整備の記録
- 積極的なアプローチの構築
- 潜在的な問題点を予測して対処するための批判的思考
チームリーダーに必要な経験を積ませる有効な方法として、まずアシスタントリーダーを経験させることが挙げられます。彼らには、高い成果を上げ、チームの士気を高め、陸軍省や部隊の基準を維持、あるいはそれを超えるという大きなプレッシャーがかかっています。彼らを成功に導くために、しっかりと訓練しましょう!
5. 初日から定期整備を加速させる
最初の1週間は、定期整備チームの士気と準備態勢を最大限に活用することが鍵となります。この期間に、迅速かつ慎重に機体を分解し、全ての構成品を取り外して、可能な限り効率的に点検を開始します。
他の作業と同様に定期整備においても、問題点を早期に発見できれば、全体のスケジュールや計画に影響を及ぼす前に、より多くの時間と資源を投入して対処することができます。初期段階での問題発見の遅れは、後工程で二次的、三次的な影響を引き起こし、大幅な遅延や作業の停滞、さらには完全な作業停止につながる可能性があります。
その一方で、熱心な整備リーダーや管理者に対しては、チームを無謀に急がせることのないように注意を払う必要があります。焦りは、さらなる時間と資源を浪費するミスにつながりかねません。

6. 定期整備中間日(10日目)の重要な進捗確認
日々の進捗報告に加え、整備の中間地点である10日目には、機体を所有する部隊と整備を担当する部隊の双方のリーダーや管理者、そして事前会議の参加者が再び集まり、当初の計画と指標に照らした進捗状況を評価する必要があります。
この会議は、全ての主要関係者が整備の進捗について議論し、資源、人員、部品、スケジュールに関する懸念を再確認し、残りの工程で予想される問題点を特定し、それに対処するための貴重な機会となります。
この単純な行動が、整備の最初と最後だけでなく全期間を通じて航空機保有部隊と整備担任部隊との間に維持されるべき、定期的で重要な連絡、調整、連携を強化するのです。
7. 技術補給の能力を最大限に活用する
技術補給を定期整備の工程に組み込むことは、必要な部品の発注や入手の遅延を最小限に抑える鍵となります。部品がなければ、整備チームは必要な作業を行うことができません。
各定期整備チームには、全期間を通じて専任の技術補給担当者を配置すべきです。チームリーダーから技術補給担当者への直接的な連絡ルートを確保することで、部品の調達プロセスが効率化され、部品の待ち時間が最小限に抑えられます。
この効率的な手法により、平均的な定期整備期間を数日から数週間短縮できることが実証されました。
8. 航空機整備訓練プログラムを意識的に活用する
我々は専門家として、航空機整備訓練プログラムをあらゆる整備業務に取り込まなければなりません。航空機整備訓練プログラムは、航空機整備員をより有能で熟練した整備員やリーダーへと育成・向上させることに主眼を置いています。
定期整備は、全ての特技(MOS, Military Occupational Specialty)の整備員を訓練し、その技能を向上させるための主要な機会となります。全ての定期整備作業において、航空機整備訓練プログラムを完全に活用し、必要な経験を積ませ、整備員を次のレベルへと引き上げる機会を最大限に生かす必要があります。
より経験豊富な整備員を育成することは、整備プログラム全体の効率と有効性を高めることにつながります。定期整備チームのリーダーと部隊の航空機整備訓練プログラム管理者は、連携して定期整備期間中の訓練と評価を計画的かつ意図的に実施します。これこそが、陸軍全体の整備員の質を向上させるための、リーダーによる整備チームへの投資なのです。
9. 定期整備の事後検討会(AAR)から学ぶ
全ての事象、活動、作戦の後には、事後検討会(AAR, After-Action Review)を実施し、成功点と失敗点を明らかにし、次に向けて何を維持し、何を改善すべきかを検討します。定期整備の事後検討会は、次の整備サイクルが始まる前に重要なフィードバックを得るため、作業完了後速やかに行うべきです。
この場は、整備のリーダー、管理者、そして関わった全ての人が一度立ち止まって振り返り、次の定期整備の工程とチームに役立つ具体的な教訓を導き出すための貴重な時間と空間です。
定期整備チームのリーダーは、学んだ教訓を次のチームリーダーに伝え、改善点の継続的な実施と発展を図る責任があります。定期整備のたびに同じ過ちを繰り返すのは、事後検討会から学んでいないことの証です。整備チームと整備プログラムを向上させるこの絶好の機会を逃してはなりません。
【画像:UH-60Lブラックホークの定期整備を行うニュージャージー州兵】 ニュージャージー州兵が、マクガイア・ディックス・レイクハースト統合基地の陸軍航空支援施設でUH-60Lブラックホークヘリコプターの定期整備を行う。米空軍州兵写真提供:マット・ヘクト上級曹長
10. チームへのインセンティブと成功への報酬
ほとんどの人は、肯定的な働きかけに最も良く応えます。整備プログラムはインセンティブや報酬だけに依存すべきではありませんが、熱心なリーダーは、適切に、健全で優れた整備慣行と成功を積極的に評価し、奨励する機会を設けるべきです。
チームが最高のパフォーマンスを発揮し、成功へと導く方法を見つけ出すことこそがリーダーの役割です。陸軍省の基準通り、あるいはそれより早く定期整備を完了することは、大きな成果です。整備チームとその管理者が素晴らしい結果を出した際には、その功績を称える機会を逃してはなりません。
定期整備チームと、その成功に貢献し支える多くの直接支援チームの士気を高めることは、健全で、成功し、強靭な整備プログラムにとって不可欠です。隊員たちは、背後にいる大きなチームの支えを実感したとき、一つのシャベルで山をも動かすほどの力を発揮するでしょう。リーダーは、その成功の大小にかかわらず、それを最大限に活かさなければなりません。
さらに、上級の整備リーダーや管理者は、中級から上級のリーダーや管理者を育成するための「上級整備員コース」のような伝統的な課程から、特定の特技に合わせた10〜14日間の集中訓練まで、整備員の技能と能力をさらに高めるための様々な訓練機会に投資することができます。テキサス州のコーパスクリスティ陸軍補給廠では、若手の整備員が、それぞれの専門分野で熟練した専門家や職人と密接に協力するまたとない機会が得られます。
航空機整備における勝利がなぜ重要なのか
健全で信頼性が高く、強靭な航空部隊は、航空機整備の成功から生まれます。この重要な成功は、大規模戦闘作戦において、陸軍航空が真の戦力増強要因となるために欠かせません。十分に連携が取れ、一貫性があり、予測可能な整備の流れと運用がなければ、航空組織は急速にその機能を失います。
前のセクションで述べたように、整備の効率と有効性は、整備チームがその能力を最大限に発揮できるようにすることから始まります。そのためには、注意散漫になる要因を排除し、一貫した連絡、調整、連携、そしてあらゆる階層におけるリーダーの強力な関与を優先する、集中的かつ計画的なシステムやプロセスを通じて、整備プログラムに内在する潜在能力を引き出すことが有効です。
整備のリーダーや管理者は、時間、エネルギー、その他の資源を投じて整備プログラムを強化し、より効率的かつ効果的なプログラムとし、作戦開始のための確固たる基盤を提供することに、より積極的に取り組まなければなりません。
著者略歴
少佐(昇任予定)カイル・マレーは、大韓民国に前方展開された第2戦闘航空旅団内の第602航空支援大隊に配属された航空支援中隊であるB中隊の指揮官である。
中佐ビリー・ブルー三世は、大韓民国に前方展開された第2戦闘航空旅団に配属された第602航空支援大隊の指揮官である。
参考文献
陸軍省(2020年10月20日)。陸軍航空整備(陸軍技術刊行物3-04.7)。https://armypubs.army.mil/epubs/DR_pubs/DR_a/ARN31028-ATP_3-04.7-000-WEB-1.pdf
出典:AVIATION DIGEST, Army Aviation Center of Excellence 2025年01月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
アクセス回数:119