テクニカルトーク:耐着氷性試験(パート2 – 試験の実施要領)

パート1では、米陸軍レッドストーン試験センター(RTC, Redstone Test Center)の航空試験飛行部局(AFTD, Aviation Flight Test Directorate)に所属するテスト・パイロットのリン・ハンクスと、テスト・エンジニアのキム・ハンクスについて紹介しました。両名は28年以上にわたり、ペアを組んで耐着氷性試験に従事してきたベテランです。そのうえで試験に向けた事前準備について解説しましたが、今回は実際の「試験の実施要領」に焦点を当てます。
AFTDの試験チームは通常、秋季に試験場へ展開し、証明を取得する航空機(被試験機)をサポートするメーカー側のチームと協同で試験に臨みます。過去10年間、この試験はスペリオル湖南岸に位置するミシガン州マーケットのマーケット・ソーヤー地方空港を拠点として実施されてきました。
試験計画には、CH-47Fを使った着氷散布システム(HISS, Helicopter Icing Spray System)搭載機(以下、HISS機)の後方を被試験機が飛行する「人工着氷試験」と、実際の気象を利用する「自然着氷」のテスト・ポイントの双方が含まれています。試験チームは現地の気象予報を詳細に分析し、その日の天候に最適な試験方式(人工または自然)を決定します。
人工着氷試験を実施する場合、まずRC-12Gを使った機上雲観測装置(ACME, Airborne Cloud Measurement Equipment)搭載機(以下、ACME機)を先行させて温度調査を実施します。これにより、到達可能な試験高度において所望の低温環境が得られるか、また、気流が試験を実施できる程度に安定しているかを確認します。気象条件が適合すれば、HISS機と被試験機は編隊を組んで離陸し、ACME機から報告された試験空域へと進入します。先行していたACME機が、被試験機とは反対側の位置(左舷または右舷)について編隊に合流すると、HISS機は散布チェックリストに基づいた手順を開始します。周辺の気象条件に基づき、キムはHISS機のクルーに対し、目標とする雲の液体水分含有量(LWC, liquid water content)を造り出すための散布流量を設定するよう指示を出します。散布された雲の特性を正確に評価するため、ACME機はHISS機の真後ろ150フィート(約45メートル)の離隔距離を維持し、30〜60秒間にわたり安定した状態でデータの計測を行います。キムは、外気温度と湿度に加えて、この液体水分含有量の測定値をリアルタイムで確認し、所望の試験環境(着氷条件)を造り出すためにHISS機へ流量調整の指示を出すべきかを判断します。
散布による人工雲の条件が確立されると、HISS機を所定の対気速度および外気温度に維持します(目標温度を維持するため、必要に応じて飛行高度を調整します)。ACME機はHISS機後方の散布エリアから離脱し、3機編隊の左翼側または右翼側に移動して待機位置につきます。続いて、被試験機がHISS機の真後ろ約150フィートの散布エリアに進入します。この位置での人工雲の規模は幅約36フィート(約11メートル)、深さ約8フィート(約2.4メートル)となります。そのため、被試験機のサイズによっては、メイン・ローター(または主翼)全体を一度に雲の中へ収めることができない場合があります。このような大型機を試験する場合、エンジニアはパイロットに対し、メイン・ローター(または主翼)の少なくとも片側半分が人工雲に完全に覆われるように、被試験機を左右にずらして位置取り(オフセット飛行)するよう要求することがあります。また、機体の高さに対して雲の厚みが不足し、メイン・ローターと胴体の両方を同時に雲へ収めきれない場合、パイロットはまずローターを完全に雲へ入れるために、機体の高度を微調整(上下動)させる必要があります(この場合、胴体部分を着氷させるためのテスト・ポイントが別途追加されることもあります)。被試験機のパイロットは、HISS機(CH-47F)の胴体下部に装備されたレーダー式編隊維持灯(ステーション・キーピング・ライト)の視覚指示を頼りに、規定の150フィートの離隔距離を厳密に維持して飛行し、着氷データを収集します。着氷環境への曝露(ばくろ)時間は、散布流量とHISS機に搭載可能な積載水量によって自ずと制限されます。
試験チームが、機体の防氷・除氷システム(アイス・プロテクション・システム)が正常に機能し、着氷環境下でも安全に飛行できると確信できたならば、次の試験段階である実際の雲を用いた自然着氷試験へと移行します。この自然着氷試験は、先行する人工着氷試験(HISS機を用いた試験)で確認された安全な着氷エンベロープ(着氷環境下の限界領域)の範囲内で実施されます。自然着氷試験を実施するにあたり、まずACME機が試験空域に存在する実際の雲の特性を調査します。適切な着氷条件の雲が確認されると、被試験機のパイロットおよびエンジニアは各種計器を厳密に監視し、着氷に伴う飛行性能の低下、操縦性(ハンドリング・クオリティ)の悪化、異常振動の発生などがないかを継続的に評価します。さらに、機体への氷の付着状況(アイス・アクリ―ション)や、氷の脱落(アイス・シェディング)によって生じた機体損傷の証拠を記録するため、ACME機、HISS機、および被試験機自体から写真やビデオによる撮影が行われます。
最終回となる次回の記事では、これらの試験結果が航空機の適合性証明(サーティフィケーション)の取得にどのように反映されるかについて解説します。
トーマス・L・トンプソン博士は、アラバマ州レッドストーン工廠に所在する米陸軍戦闘能力開発コマンド(DEVCOM)航空及びミサイル・センター 航空力学システム即応局の航空力学担当チーフ・エンジニアです。
出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2026年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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