航空事故回顧-HH-60Mホイスト・ケーブルの破断
NVG(night vision goggle, 暗視眼鏡)を用いた、実員によるホイスト操作訓練を実施中、ホイスト操作員として勤務していた搭乗整備員が、ホイスト・ケーブルに大きな揺れが発生している間に、ケーブルを巻き上げるとともに、高度を上昇させるようにパイロットに要求した。この結果、ホイスト・ケーブルが主脚前方の機体に接触して切断され、懸吊されていた航空救難員が死亡した。
飛行の経過
当該HH-60Mは、ナショナル・トレーニング・センターでの訓練参加に備えるための実地訓練を実施中であった。機長は、部隊配属以来、航空患者後送に関して豊富な経験を有していたが、副操縦士は、最近になって配属されたばかりの新任パイロットであった。クルー・チーフおよび航空救難員は、搭乗整備員として十分な経験を有しており、航空患者空輸任務の実施および機外ホイスト装置の操作についての訓練を完了し、その資格を付与されていた。当該機の搭乗員たちは、昼間に事前訓練を実施し、夜間のNVGを使用した訓練に備え、実員を懸吊した反復訓練を実施した。
当該機を含む訓練編隊は、日没後、訓練上の救助要請を受けて中継基地を一旦離陸した後、駐機場に帰投した。その後、駐機場近郊での訓練を開始した。訓練場に到着した当該機は、編隊を離脱して随伴機から離れ、昼間のホイストの反復訓練と同じ要領で訓練を開始した。実員によるホイスト訓練を実施中、懸吊していた救護員(地上から機体に戻る途中だった)が大きく揺れ始めた。この時、操縦していた副操縦士の機位の把握が不十分となり、機体がドリフトし始めたが、機長がそのことを指摘するのが遅れた。さらに、ホイストを操作していたクルー・チーフが高度を上げるように指示した。このことは、ケーブルの揺れをさらに大きくしてしまった。ケーブルが機体前方の降着装置に接触して破断し、MOが地面に落下した。事故機の機長からの緊急通報を受信した随伴機は、ホイスト訓練地域に進入した。状況を把握した随伴機は、TOC(tactical operations center, 作戦本部)に救難員がホイストから落下したことを報告した。
搭乗員
機長の総飛行時間は1,392時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は644時間であった。副操縦士の総飛行時間は184時間であり、そのうち当該機種での飛行時間は70時間であった。クルーチーフの飛行時間は、298時間であった。航空救難員の飛行時間は、441時間であった。
考 察
任務遂行中の状況把握には、クルー・コーディネーションの確保が不可欠である。タスク番号2060のレスキュー・ホイスト操作を実施していた事故機においては、「搭乗員訓練マニュアル」や「陸軍航空レスキュー・ホイストSOP」に記載された用語を用いた発唱が行なわれていなかった。操縦していた副操縦士は、機首方向の補助目標だけを注視しすぎ、前方に機体がドリフトしていることに気づかなかった。また、機長は、クルー・チーフや副操縦士の監視が不十分であり、修正操作が遅れてしまった。クルー・チーフは、ホイスト・ケーブルが振れ始めたことを機長に報告しなかった。この結果、ケーブルの振れが大きくなり、機体に接触して切断されてしまった。
事故が発生するまでの過程において、搭乗員の中で声を発した者は、誰もいなかった。ホイスト操作のような危険度の高い任務を実施する場合、搭乗員は、特に、コミュニケーションを密にするように着意しなければならない。また、事前訓練終了後の検討と、機長による搭乗員に対する指導が適切に実施されていたならば、事故を回避できたとも考えられる。陸軍においては、いかにして意思の疎通を図るかということについて十分な教育が実施されているはずである。それを確実に実行すれば、搭乗員やそれを支援している隊員を危険にさらさずにすむのである。予行を確実に実施し、クルー・コーディネーションを強調することが、貴官自身と貴官の部下たちが任務を完遂し、自宅に帰ることを可能にするのだ。
出典:FLIGHTFAX, U.S. Army Combat Readiness Center 2019年11月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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1件のコメント
2019年1月号に同じ事故の速報が掲載されていますが、事故の原因について、考察が深まっていますので、再度、翻訳・掲載しました。