SB>1デファイアントとV-280バロー
最終段階を迎えるUH-60後継機をめぐる戦い
陸軍の主力ヘリコプターであるUH-60ブラック・ホークの後継機には、どの機体が選ばれるのだろうか? それは、ヘリコプターとは全く違う機体になるかも知れない。
最初の候補機は、先週、シコルスキー社の試験センターで華麗なダンスを披露し、陸軍長官のライアン・マッカーシーを感銘させた、シコルスキー・ボーイングSB>1デファイアントである。反対方向に回転する2つのローターを持つデファイアントは、一見、通常のヘリコプターのように見える。しかし、後ろの方をよく見てもらいたい。そこにあるのは、方向を維持するためのテール・ローターではない。2つのメインローターが反対方向に回転するこの機体は、それを必要としないのである。その代わりに取り付けられているのは、速度を増すための推進プロペラである。複合ヘリコプターと呼ばれるこの組み合わせを持つ機体は、従来のヘリコプターでは空気力学的に困難な高速での飛行が可能である。UH-60の最高速度は約160ノットであるが、デファイアントは、設計上、230ノット以上で飛行できるのである。
もう1つの候補機は、1月にテキサス州アーリントンにあるベル社の飛行試験センターでマッカーシーに驚くべき速度を披露した、ヘリコプターとは全く別物のベルV-280バローである。V-280は、海兵隊のV-22オスプレイから派生したティルトローターだ。ティルトローターは、固定翼機のような翼と2つの巨大なプロペラを持っている。そのプロペラは、垂直に離陸したり、着陸したり、あるいはホバリングしたりする場合には、ヘリコプターのローターのように上に向けて、その名前が示すとおり「傾ける(ティルト)」ことができるのである。
前進飛行時に固定翼機と同じような空気力学的特性を持つティルトローター方式は、複合ヘリコプターよりも高速で飛行できる。ベル社のバローは、試験飛行において、280ノット以上の速度を記録している。これに対し、シコルスキー社およびボーイング社は、自分たちのデファイアントが、そのような高速で飛行できるはずのないことを認めている。(実際には、デファイアントは、まだ、飛行試験を始めたばかりであり、その最高速度を確認できていない。)
バローに対する対するデファイアントの利点は、それがヘリコプターであるということだ。もちろん、通常のヘリコプターとは違っているが、その特性は、陸軍のパイロットたちが慣れ親しんできたものに近い。シコルスキー社やボーイング社が特に強調するのは、複合ヘリコプターは、高速で飛行できる一方で、低速度域ではヘリコプターと同じ機動性を発揮できるということである。これは、市街地での戦闘や負傷者の救出などにおいて、狭隘(きょうあい)な降着地域に兵士たちを正確に降着させる際に非常に重要な特性なのである。
これに対し、ベル社は、V-280バローも、ヘリコプター・モードに転換すれば、ヘリコプターと同じレベルの機動性を発揮できる、と主張している。陸軍は、ティルトローターを装備していないが、海兵隊や空軍特殊作戦コマンドは、それを長年に渡って運用しており、海軍も調達を開始している。V-280は、そのV-22から得られた経験を最大限に活かしているだけではない。V-22の半分の重さの機体で同程度の馬力を有しているV-280は、V-22よりも高い機動性を発揮できるのである。
はたして、陸軍は、どちらの機体を選ぶであろうか? 今月、将来の量産契約の締結に必要な最終選抜を行うための、2つの契約が締結された。競争実証契約とリスク低減契約である。これらの契約は、試作機を製造するための契約ではない、と陸軍の将来型垂直離着陸部長である准将ウォルター・リューゲンは、先週、ここジュピターでの会見で語った。そして、「フル装備の航空機を製造する契約ではありません。それは、リスクを軽減するために必要な技術実証機を製造するための契約なのです」と述べた。「それは、完全な機体ではないし、公開競争を行うための機体でもないのです」
それでは、その公開競争は、いつ行なわれるのであろうか?「それは、まだ未定です」とリューゲンは答えた。ただし、陸軍からの他の発表によれば、2023年または2024年に行なわれる可能性が高い。また、戦闘部隊への運用配備は、2030年までに開始される予定となっている。
リスク低減や最終的な量産契約を全く別の会社と締結することも、技術的には可能ではある。ただし、実際のところ、バローやデファイアントと同等以上の高速性、航続性および搭載性を兼ね備えた機体は、他に存在しない。(同等の速度を発揮する機体には、シコルスキー社の同じく複合ヘリコプターであるS-97レイダーがあるが、機体が小さく、ペイロートも少ない)
シコルスキー社とベル社は、これらの機体の製造技術を数十年間かけて磨き上げてきた。シコルスキーS-69複合ヘリコプター(XH-59)は1973年、ベルXV-3ティルトローターは1955年に初飛行している。シコルスキー社とベル社は、国防総省のJMR(Joint Multi-Rol, 統合多用途)プログラムのもと、デファイアント(ボーイング社と共同)およびバローの開発に自己資金を投資し続けてきた。ただし、JMRは競争を目的としない「技術実証」であり、V-280やSB>1は試作機ではなく「実証機」である。
いずれにしても、これらの機体は、それが何と呼ばれるかに関わらず、膨大なデータを陸軍に提供してきた。国防長官府は「技術的即応性の評価」を独立的に行ってきたことになる、とリューゲンはジュピターで語った。そして、会見では「シコルスキー社とベル社は、デファイアントやバローを通じ、あらゆる技術を検証し、そのリスクがどこにあるのかを明らかにしてきました」と語った。「我々は、今、これまで以上にそのことを深く認識しています」
この成果は、10年以上にわたるJMR-TR(Joint Multi-Role Technology Demonstration, 統合多機能技術実証)への取り組みがもたらしたものなのである、と陸軍のプログラム・エクゼクティブ・オフィサー(航空)であるパトリック・メイソンは付け加えた。「JMR-TDが開始された2009年に立ち戻り、これらの実証機とそれが果たしてきた偉業を見たならば、新機種を実現するために必要な攻撃的な要求事項を確立できており、プログラムのリスクの大幅な軽減を見積もることもできていることが理解できるはずです」とメイソンは述べた。
「我々は、機体を購入する前に飛ばして見ることができたのです。このため、要求性能を想像だけで決定することがなかったし、引き続きそれを洗練することもできているのです」とリューゲンは言った。「その要求事故は、必ず実行可能なものとなるのです」
2つの有力な提案の存在が「我々の決断を難しくしているのは確かです」とマッカーシーは言った。もちろん、それは陸軍にとって「嬉しい悲鳴」なのである。
出典:Beyond The Black Hawk, Breaking Defense, Breaking Media, Inc. 2020年02月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
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Wikipedia上での議論を踏まえ、FLRAAの訳語を「将来型長距離攻撃航空機」→「将来型長距離強襲機」へと修正しました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ノート:将来型長距離強襲機