AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

確信を持てないことは聞け

上級准尉3 フェルナンド・マッフォレット
ジョージア州ハンター陸軍飛行場

第10山岳師団では、毎年、マウンテン・フェストと呼ばれる行事を行って、師団の歴史と伝統を祝っています。その行事では、各種の団体競技(organized sports)や師団全員走(division run)が行なわれます。そして、最終日には、ゲーム、売店およびライブ・コンサートなどが行なわれる祝賀行事が開催されます。その行事では、部隊旗を紹介する儀式(salute to the nation)に続いて、模擬戦(mock tactical assault)が行なわれます。この模擬戦の内容は、第10山岳師団の非対称作戦の遂行能力および空地の連携能力を紹介するものとなっています。

この模擬戦のリスクを低減するため、事前の予行が何回か実施されることになっていました。その戦闘では、村落を攻撃する歩兵1個小隊を4機のブラックホークが空輸し、その作戦を2機のチヌークが2門の榴弾砲を空輸して支援することになっていました。そのチヌークを支援するための近接戦闘攻撃を実施するのが、カイオワ・ウォーリア編隊の任務でした。私の役割は、カイオワ編隊の長機の機長でした。2回のうちの1回目の予行を問題なく実施した後、燃料補給のため、目標地域を離脱しました。長機の機長だった私は、タワーにライト・ベース(右回りで滑走路に進入)で着陸点バッファロー(ホット・リフューエル実施場所)に着陸することを要求しました。ホット・パッド・ワンに接地した後、着陸後のチェックおよびホット・リフューエル開始前のチェックを実施しました。両方のチェックが終了したので、燃料補給要員に対し、補給開始の手信号を送りました。

燃料ノズルが機体の給油口に接続されると、私は、送油準備完了の手信号を送り、燃料補給要員から了解の手信号を受けました。その直後、右肩越しに燃料ノズルと給油口の接続部付近から燃料が噴出しているのが見えました。私は、エンジンを緊急停止しました。緊急停止手順が完了すると、機外に出て、どれくらいの燃料が機体にかかったのかを確認しました。状況を把握した後、機体にかかった燃料を拭き取るため、燃料漏洩対策 セット(spill kit)を持ってくるように燃料補給要員に指示しました。

まだ、もう1回予行を行なわければならなかったため、私も機体から燃料を拭き取るのを手伝いました。燃料補給要員からOKの合図があったので、燃料補給点の洗浄を中断し、航空機のエンジンを始動して、任務を継続することにしました。エンジンを始動した後、空中部隊指揮官に燃料補給完了を報告し、2回目の予行に加入しました。予行は問題なく終了し、その日の任務を完了して着陸しました。

格納庫に戻ったところ、中隊の試験飛行操縦士から、機体が燃料をかぶった後に離陸する際に許可をもらったかどうかを質問されました。許可はもらわなかったが、機長として任務続行を決心したのです、と答えました。その後、任務終了後の検討会(hot wash)が実施され、我々はどうすべきだったのかを話し合うことになりました。

大隊の安全担当将校(safety officer)は、機体が燃料で濡れた場合のじ後の行動に関して、SOP(standard operating procedure, 作戦規定)は存在しない、と言いました。ただし、安全担当将校に連絡して、助言を求めた方が良かったのではないか、と付け加えました。機長として、私は、中隊の安全担当者に、当該事案について、誰が(who)、何を(what)、いつ(when)、どこで(where)、なぜ(why)を通報すべきだったのです。

さらに後になって教育を受けたところによれば、機体が燃料をかぶった場合には、ただちに機体を格納庫に搬入すべきでした。燃料は、グラスファイバーや金属板を劣化させ、強度を低下させる可能性があります。このため、機体をできるだけ速やかに洗浄する必要があったのです。この日、私は、大変重要な教訓を得ました。確信を持てないことは聞け、ということです。

                               

出典:Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2020年02月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

アクセス回数:1,980

コメント投稿フォーム

  入力したコメントを修正・削除したい場合やメールアドレスを通知したい場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。

3件のコメント

  1. 管理人 より:

    「燃料は、グラスファイバーや金属板を劣化させ、強度を低下させる可能性があります。」ということについて、根拠を探したのですが、見つかりませんでした。ご存知の方がいれば、教えて下さい。

    • 毎週の記事を楽しみにしています より:

      製造業で金属加工に従事しているものです。
      燃料油などの揮発油は、ガソリンを筆頭に、非揮発性の油脂や樹脂に高い浸透性を持つと理解しています。
      ガソリンや灯油は、金属部品の脱脂洗浄剤としてすこぶる重宝ですが、アルミをはじめとするどんな金属にも有害性はないものと思い込んでいます。
      そこで推測ですが、燃料油は各種シール材(パッキンやガスケット)を劣化させ、部品間のガタを増大されることで、結果として金属疲労を加速するのではないでしょうか。

      • 管理人 より:

        コメントをいただき、ありがとうございます。

        「ガソリンや灯油は、金属部品の脱脂洗浄剤としてすこぶる重宝ですが、アルミをはじめとするどんな金属にも有害性はない」←全く同感です。

        「各種シール材(パッキンやガスケット)を劣化させ、部品間のガタを増大されることで、結果として金属疲労を加速する」←そうかも知れませんね。

        ご意見を聞いて思いついたのですが、塗料が剥離しやすくなって、結果として金属疲労を加速するということも考えられるかも知れませんね。

        ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。