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陸軍航空の情報センター

手抜きの代償

本人の希望により氏名非公開

当該クルーがホイストで事故を起こしたのは、HH-60M 医療後送(Medical Evacuation, MEDEVAC)クルーとしてごく普通の訓練飛行でのことでした。前席クルーは、飛行時間1,100時間の機長(Pilot in Command, PC)と、250時間の副操縦士(Pilot, PI)で構成されていました。後部クルーには、機付長、飛行教官(Flight Instructor, FI)、そして訓練教官(Standardization Instructor, SI)が搭乗していました。地上試運転を開始した際、当該クルーはその日の気象条件・任務内容の基準をすべて満たしていました。しかし、現地訓練場への到着を急ぐあまり、前席・後席を問わずクルー全員が、チェックリストの重要な一項目である「任務装備」の確認を怠りました。

ホイスト運用を行う医療後送クルーにとって、この「任務装備」の重要な確認項目とは、レスキューホイストの電源投入時・電源切断時の点検(パワーオン/パワーオフ・チェック)を指します。この点検により、器材の外観と固定状態を確認するとともに、正常な作動・機能を確認します。この点検を安定した環境下で正しく行うためには、ローターが回転する前にこの点検を行わなければなりません。

エンジン性能確認試験(Health Indicator Test, HIT)の点検を終えたクルーは、ランプを離れ、その日の訓練場へ向かいました。約20分後に到着すると、クルーは着陸してホイスト運用を行う場所を検討し、どのクルーがホイスト操作を担当するかを決定しました。後部で装備を相互に確認する「バディ・チェック」(buddy check)を行いホイストを準備している最中、訓練教官がクルーに対し、ホイストのパワーオン/パワーオフ・チェックをまだ実施していないことを注意しました。これを受け、操縦を担当していた副操縦士が駐機ブレーキをかけ、機長がチェックリストを取り出しました。

後部クルーが右側キャビンドアを開き、機長がパワーオフ・チェックを読み上げる中、機付長が他の2名の監視の下でチェックリストの実施を開始しました。パワーオンチェックが始まると、機付長は機内通話装置(コムズ)で伝えられる機長の指示に従いました。しかし、時間的な制約に苛立った機長は、記載されたチェックリストから逸脱し、ホイストのパワーオン・チェックを記憶に頼って指示し始めました。

ケーブル切断ボタンのスクイブ試験を開始した際、機長はケーブル・アーム/テスト・スイッチが「アーム」ではなく「テスト」の位置にあることを確認する手順を飛ばしてしまいました。機長は、記憶していた「パイロット・ホイスト・コントロール・パネル・ケーブル・カット・スイッチ、プレス」という手順を発しながら、そのスイッチを押しました。「ポン」という音が聞こえ、続いて機付長らが機内通話装置越しに驚きの声を上げました。スクイブは設計どおりに作動し、フックの約6インチ(約15センチメートル)上でホイスト・ケーブルを切断しました。後部クルーがこの状況を操縦士らに伝えると、クルーはその日のホイスト訓練を中止し、基地へ帰投することを決定しました。

装備品を降ろした後、クルーは整備班が機体を格納庫へ牽引する作業を手伝いました。そこでホイストのスプールが巻き戻され、部隊の指揮幕僚陣による現地調査が行われました。調査の結果、不注意・経験不足・上官からのプレッシャーがこの事故の主な要因であったと結論づけられました。機長は、陸軍規則95-1(Army Regulation 95-1)に違反してチェックリストから逸脱するという判断を下していました。さらに、自信と経験の不足していた若手の副操縦士は、チェックリストが読み上げではなく記憶によって実施されていることに気づきながらも、それを指摘しませんでした。機長はチェックリストに関する規定を遵守しなかったとして正式な是正指導(ネガティブ・カウンセリング, negative counseling)を受け、飛行教官と訓練教官はクルー評価技法に関する再教育の対象となりました。

この事故の被害総額は26,000ドルを超えました。さらに悪いことに交換部品が入荷待ちとなり、当該機体のホイストは1か月以上にわたり「レッドX」ステータス(Red X、飛行不能状態を示す整備区分)として運用が停止されました。しかも、この事態は、中隊が保有する6機のホイスト搭載機のうち2機が、重整備のためすでに使用不能となっていた時期に発生しました。その結果、残る機体には過大な訓練飛行時間が計上されることとなり、最終的には部隊の整備フローチャートに支障をもたらしました。

教訓

この防ぐことができたはずの事故は、チェックリストからの逸脱という単純な行為が、整備要員・訓練担当者・機体そのものに影響を及ぼし、飛行中隊に多方面にわたる悪影響を与えうることを如実に示す事例です。関係者全員に是正訓練が実施され、複数の安全ブリーフィングで本事故が取り上げられ、人員の安全を確保するためのチェックリスト遵守の重要性が強調されました。

訳者コメント:本稿は米陸軍戦闘即応センター(USACRC)発行のRisk Management Magazine掲載記事の翻訳です。HH-60M MEDEVACクルーが、時間的制約からチェックリストを読まず記憶に頼ってホイスト操作を行った結果、ケーブル切断用スクイブを誤作動させ、修理費が26,000ドルを超えた事故の一人称に近い報告記事です。著者名は本人の希望により非公開とされています。
                               

出典:The Cost of Convenience, Risk Management, U.S. Army Combat Readiness Center 2026年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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