AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

テック・トーク:エア・データの不具合(第1回)-対気速度

戦闘能力開発コマンド航空及びミサイル・センター
トーマス・L・トンプソン博士

1974年12月1日1914、ノースウエスト航空6231便(ボーイング727-251)は、フェリー・フライトのため、ニューヨーク州ロングアイランドのジョン・F・ケネディ国際空港から同州バッファローに向けて出発しました。気温は華氏34度(約1℃)、シーリングは推定5,000フィート(約1,500メートル)の全雲で、弱い凍雨(雨粒が凍った氷の粒)が降っていました。搭乗していたのは3名の搭乗員だけでした。

飛行は1924まで順調でしたが、この時刻に搭乗員の一人が「メーデー、メーデー、操縦不能、2万フィート(約6,100メートル)を降下中」と送信しました。ロングアイランドの航空管制官が何が起きたのかを尋ねると、その搭乗員は「失速している」と応答しました。その直後の1926、当該機はニューヨーク州の州立公園に墜落しました。搭乗員3名は全員死亡し、機体は大破しました。

国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board, NTSB)は、「事故の推定原因は、搭乗員が高迎え角・低速での失速とらせん降下を認識できず、それを是正できなかったことによる操縦不能である。失速の引き金となったのは、着氷によるピトー管の閉塞で生じた対気速度とマッハ数の誤指示に対し、搭乗員が不適切に対応したことであった」と結論づけました。同委員会の報告書は、「搭乗員は、標準運航手順に反し、ピトー管ヒーターを作動させていなかった」と指摘しています。

ピトー管が着氷や異物で完全に、あるいは部分的に閉塞すると、操縦士に、そして最新の航空機では操縦を補助する飛行管理コンピューターにも、誤った対気速度のデータが示される場合が少なくありません。手動操縦であれコンピューターによる操縦であれ、航空機を安全に飛行させるには正確な対気速度の計測が欠かせません。対気速度のデータに偏りや異常な変化があった場合、機体の制御を保つことが極めて困難になる可能性があります。信頼できる対気速度のデータが失われても、通常は、それだけで直ちに操縦不能に陥ることはありません。しかし、それが引き金となって一連の事象が連鎖し、機体の設計や操縦士の訓練に潜む欠陥が表面化する場合があります。

2009年5月31日1929にブラジルのリオデジャネイロからフランスのパリへ向けて出発した大西洋横断便のエールフランス447便(エアバスA330)は、最初の約2時間は順調に飛行していましたが、大西洋上の高度約3万5,000フィート(約1万700メートル)でタービュランスと着氷気象状態に遭遇しました。ひょうや雪あられが機体に当たる音が聞こえ、ピトー管に氷晶がたまり始めました。その直後、左右のピトー管の対気速度の示度が一致しなくなったため、自動操縦が解除され、フライバイワイヤの制御則は機能制限モードに移行しました。機能制限モードでタービュランスの中を飛行することに不慣れだった副操縦士が、突然サイドスティックを後方に引いたため、機首が上がり、操縦室に失速警報が鳴り響きました。当該機は急激に降下し始め、搭乗員が認識しないまま、最後まで失速状態が続きました。その後、100ノット(時速約185キロメートル)を超える垂直速度で胴体下面から海面に激突しました。搭乗していた228名は全員死亡し、機体は破壊されました。

1996年2月6日深夜、ドミニカ共和国のプエルト・プラタを離陸した直後にビルゲンエア301便(ボーイング757-200)が墜落した事故において、一連の事象の引き金になったのは、ピトー管の閉塞であったとされています。離陸は正常でしたが、飛行開始から約2分後、機長と副操縦士の対気速度計の示度が大きく食い違ったことから、操縦室内は混乱に陥りました。機長は、当該機が実際よりもはるかに速く飛行していると考えてエンジンの推力を絞り、ピッチ姿勢を上げました。その結果、当該機は失速に陥りましたが、操縦士たちは回復に間に合う段階で失速を認識できませんでした。当該機は海上に墜落し、搭乗していた189名は全員死亡しました。事故調査官は、飛行前にカバーが外されていた間に、泥で巣を作るハチ(mud dauber)が1本のピトー管の内部に巣を作って閉塞させたことが、対気速度の示度の食い違いを生じさせた原因であると結論づけました(図1)。

図1 ピトー管の模型にとまるハチ(提供写真:House (2020)、PLOS ONE)

第2回では、迎え角データの不具合について取り上げます。


トーマス・L・トンプソン博士は、米陸軍戦闘能力開発コマンド航空及びミサイル・センター(アラバマ州レッドストーン工廠)システム即応部局の航空力学担当主任技術者です。

訳者コメント:
本記事は、ピトー管の閉塞が失速に至る経過を「一連の事象の引き金」とだけ述べています。そこで、その仕組みを補足します。対気速度計は、ピトー管の先端で受ける全圧と、機体側面の静圧孔で測る静圧との差から速度を表示します。ピトー管の先端の取入口と排水孔がともにふさがると、管内に圧力が閉じ込められます。この状態で上昇すると外気の静圧だけが下がるため、実際には減速していても、表示される速度は上がり続けます。速度計が高度計のように振る舞うわけです。これに対し、取入口だけがふさがって排水孔が開いている場合は、管内の圧力が静圧まで抜けるため、表示される速度は急に落ちます。
ノースウエスト航空6231便とビルゲンエア301便は前者の例です。6231便では、上昇中に高度1万6,000フィート(約4,900メートル)を過ぎたところで速度超過の警報が鳴り、その約10秒後に失速警報(スティック・シェーカー)が作動しました。搭乗員は、この振動を音速付近で生じる振動と取り違え、機首をさらに上げました。当該機は機首上げ約30度、高度約2万4,800フィート(約7,600メートル)で失速し、らせん降下に入って約83秒で地上に達しました。301便では、自動操縦が機長側の誤った速度を使って機首を上げ、推力を絞りました。速度超過と失速の警報が同時に出るなかで、機長はさらに推力を絞っています。どちらの事故でも、失速は「速すぎる」という表示に対する正しい減速操作の結果として生じました。
エールフランス447便は後者の例で、表示速度は274ノットから52ノットへ急落しました。操縦していた副操縦士がサイドスティックを引き続けたため、当該機は高度約3万8,000フィート(約1万1,600メートル)まで上昇して失速しました。迎え角が約40度に達したまま、毎分約1万1,000フィート(約3,300メートル)で降下して海面に激突しています。原文は操縦していた者を "pilot in command"(機長)としていますが、フランス航空事故調査局(BEA)の最終報告書によれば、機長は休憩中で、操縦していたのは副操縦士でした。訳文ではこれを改めています。また、原文はビルゲンエア301便の事故日を1996年2月2日としていますが、実際は2月6日であるため、訳文ではこちらに改めました。
図1の写真は、オーストラリアのブリスベン空港で行われた調査(House ほか、2020年)のものです。同空港では2013年、エティハド航空のA330が約2時間の駐機中にピトーカバーを付けておらず、機長側のピトー管がハチの巣でほぼふさがれました。同機は離陸を1度中止し、2度目の離陸後にメーデーを宣言して引き返しています。この事案を受けて、同空港では駐機時間にかかわらずピトーカバーの装着が求められるようになりました。その後の調査では、空港内に並べたピトー管の模型が3年余りの間に93回ハチにふさがれており、短時間の駐機でも巣が作られることが示されています。駐機中のピトーカバーは、まさにこの種の閉塞を防ぐためのものです。一方で、カバーを外し忘れたまま離陸すれば同じ閉塞を招くため、付けることと外すことの確認は一組のものです。
静圧孔と気圧高度計の原理については、本サイト掲載の「テクニカルトーク:気圧高度計」を参照してください。
                               

出典:Air Data Problems: Part 1 - Airspeed, ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2026年9月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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