「あのとき私たちは……」――クルー・コーディネーションの成功例

AH-64の大隊に所属していた私は、射撃訓練に参加していました。任務は、1機を弾薬再補給用の駐機スポット(rearm pads)から待機地域へ移動するというもので、わずか30秒ほどの簡単な飛行でした。いつも一緒に飛んでいるバディ(stick buddy)が前席で操縦し、弾薬再補給用の駐機スポットを離陸して待機地域に向かいました。待機地域は、林の中に細長く開けた場所です。航空機はノーズとテールを連ねて縦一列に駐機しており、バディは駐機中の2機の間に向けて進入を開始しました。最終進入で降下していくと、前方に駐機している機体が視界から消えました。AH-64では珍しいことではありません。
しかし私は、バディが駐機中の機体の後方の空いた場所ではなく、機体そのものに向かって進入していることに気づきました。私は「ヘリ、見えてるか?」と尋ねました。応答はありません。もう一度「ヘリ、見えてるか?」と尋ねました。やはり応答はありません。私は「操縦を代わる」と告げ、着陸復行しました。場周を回って2回目の進入に入ったところで、私は「操縦を返す」と言いました。バディは何も言いませんでした。その代わりに両手を上げて見せ、私にそのまま操縦を続けるよう合図しました。
バディが口をきかないのは妙でした。怒っているのだろうか、とも思いました。着陸してから、私の声が聞こえるかと尋ねました。バディは親指を立てました。話せるかと尋ねました。バディは親指を下に向けました。マイクが故障していたのです。
わずか5秒ほどの間に、いつもどおりの30秒間の飛行が、あやうく大事故になるところでした。高価なヘリコプター2機を大破させ、私たち自身が死傷し、さらに駐機中の機体で作業していた機付長まで死傷させていたかもしれません。しかし実際には、事故を回避することができました。
クルー・コーディネーションの技法が功を奏した
この窮地を救ってくれたのは、以前の訓練で学んだクルー・コーディネーションの技法でした。具体的に活用できたのは、搭乗員ブリーフィング、コックピット内の標準操作手順、そしてツー・チャレンジ・ルール(two-challenge rule)でした。また、慢心と過度な遠慮による問題も避けることができました。
バディも私も、アパッチについて、それなりに長い操縦歴を有していました。バディは教官操縦士(Instructor Pilot, IP)であり、この飛行では機長を務めていました。私はバディを優れた操縦士だと思っていましたし、正直に言えば、他の経験や技量の劣る操縦士よりも、ずっと強く信頼してしまっていました。つまり、私が慢心に陥るのはたやすいことだったのです。しかし、幸いなことに、そうはなりませんでした。私は注意を怠らず、状況に対応することができました。
経験の浅い操縦士は、教官操縦士や階級が上の操縦士に疑問を呈することをためらうかもしれません。これが過度な遠慮の問題です。バディと私は対等な立場だったので、これが問題になることはありませんでした。さらにバディは、搭乗員ブリーフィングの中で、少しでも不安を感じることがあれば遠慮なく声を上げるよう、はっきりと伝えていました。
コックピット内の標準操作手順が役に立ったのは、バディのマイクが故障したとき、いつもどおりの進め方になっていないことにすぐ気づけたからです。普段の手順どおりに進んでいないという、ただそれだけの事実から、何かがおかしいと分かったのです。もっとも、それが何なのかは後になるまで見当もつきませんでした。
この日に用いた技法の中で最も役立ったのは、ツー・チャレンジ・ルールです。もう一方の搭乗員に何かを2回問いかけても応答がなければ、操縦を代わる、というものです。このルールは、搭乗員の表に現れにくい能力喪失(subtle incapacitation)に備えるものであり、何かに衝突するのを防ぐためのものです。私たちは一緒に飛び始めたときに、ツー・チャレンジ・ルールについて入念にブリーフィングしていました。単純なルールですが、期待どおりの効果を発揮しました。今回、私はバディに、ヘリが見えているかを2回尋ねました。応答がなかったので、操縦を代わったのです。
幸いにもあの日、私たちはクルー・コーディネーションについて学んだことを実践し、搭乗員チームとして有効に機能して、惨事を防ぐことができました。そして、どんなに経験豊富な搭乗員であっても、「いつもどおりの飛行」などというものはないという教訓を改めて学んだのでした。
出典:"There we were . . ." —a crew coordination success story, FLIGHTFAX, U.S. Army Safety Center 1994年3月
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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