米陸軍のアパッチ飛行停止、陸自のAH-64Dに影響はないのか

米陸軍は2026年10月2日、改良型駆動システム(IDS)のトランスミッションを搭載したAH-64Eアパッチの飛行を、必要な点検と是正措置が完了するまで一時停止すると発表しました。米国の報道によれば、陸軍当局者は、約700機のアパッチのうち対象となる機体は約400機であり、その中には現役と陸軍州兵のすべてのアパッチ部隊の機体が含まれており、停止は数か月に及ぶ見込みだとしています。
陸上自衛隊もAH-64Dを12機保有しています。本稿では、今回の飛行停止に至った経緯と原因、米陸軍の対応を整理し、陸自のAH-64Dに影響がないことを確認します。
不具合はどのように表面化したのか
米陸軍戦闘即応センターが発行する安全誌「Flightfax」に掲載された2026年度上半期航空事故レビュー(2025年10月〜2026年3月)によれば、あるクラスA事故で、トランスミッションの重大な故障が確認されています。クラスA事故は米軍の事故区分で最も重いもので、死亡者が出た事故、機体が全損した事故、損害額が250万ドル以上の事故などがこれにあたります。この事故の日時や場所は公表されていません。
Flightfaxの2026年9月号の統計によれば、2026会計年度のAH-64EのクラスA飛行事故は4件です。米CNNは8月、アパッチの重大事故の発生率が、2011年以降で2番目に高いペースにあると報じました。
調査で分かったこと
米国の防衛専門誌Defense Oneが2026年5月に報じた陸軍の内部の安全文書(2026年4月)は、一部のAH-64EのIDSメイン・トランスミッションで内部故障が発生し、補機ギアボックスの駆動が失われるおそれがあるとしています。その結果、テール・ローターの推力、電源、油圧を喪失する可能性があるとし、該当するトランスミッションの搭載機を、追って指示があるまで飛行停止とするよう指示しました。
テール・ローターは、メイン・ローターを回す反動で機体が逆向きに回ろうとする力を打ち消し、機首の向きを保つためのものです。発電機は電子機器や計器に電力を、油圧ポンプは操縦系統を動かす油圧を供給しています。これらを同時に喪失すれば、機体の制御は極めて困難になります。
CNNによれば、4月の通達は、不具合の可能性があるトランスミッション70基を特定して該当機を飛行停止とし、7月中旬の通達で10基が追加されました。2つの通達の対象は、陸軍の攻撃ヘリコプターの約1割でした。
推定される原因
この問題の根本原因は、2026年10月11日時点で公表されていません。陸軍は製造者とともに調査を進めており、ボーイングは陸軍にチームを派遣して、点検と修理を支援しています。
IDSは、AH-64Dブロック3(2012年にAH-64Eに改称)で採用された駆動方式(ドライブ・システム)全体の名称です。従来のトランスミッションが、エンジンの出力を1本の経路で伝えるのに対し、IDSトランスミッションは、入力ピニオンを上下2枚のフェイス・ギア(歯を円盤の面に切った歯車)の間に入れて両方に同時にかみ合わせ、トルクを半分ずつ伝えます。これをスプリット・トルク方式と言います。上下のフェイス・ギアは逆向きに回り、下のフェイス・ギアに伝わった半分は、アイドラー・ギアを介して上のフェイス・ギアに戻され、メイン・ローターへ伝わります(図1)。

この方式では1か所のかみ合いが受ける負担が半分になるため、歯車を小さくでき、減速の段数も4段から3段に減らすことができます。米陸軍によれば、トランスミッションの大きさを変えずに伝達できる出力の上限を約20%増加することができ、ボーイングによれば、3,400軸馬力を伝えられるようになりました。開発チーム(米陸軍、ボーイング、ノーススター・エアロスペース)は、スプリット・トルク方式のフェイス・ギアを航空史上初めて実証したとして、2010年、米国ヘリコプター協会のハワード・ヒューズ賞を受賞しています。
米航空宇宙局(NASA)が公表した、IDSの後継技術を試験するトランスミッションの資料によれば、テール・ローターと補機の動力を、フェイス・ギア段のアイドラーから取り出しています。テール・ローターと補機が同じ部分から動力を取り出しているのであれば、そこが故障したときに、テール・ローターの推力、電源、油圧を一度に失うことが説明できます(図2)。ただし、量産型のIDSの構成は公表されておらず、あくまでも筆者の推定です。

なお、AH-64Eのトランスミッションには、導入から間もない2013年末から2014年初めにも不具合が見つかっています。米陸軍はメイン・トランスミッションを交換し、AH-64Eを導入したばかりの台湾も6機を飛行停止とし、その後に受領した機体を含む12機のメイン・トランスミッションを交換しました。ただし、今回の不具合と同じ原因かどうかは不明です。
米陸軍の対応
米陸軍の対応は、4月の特定のトランスミッションを使用しているAH-64Eの飛行停止から、すべてのAH-64Eのトランスミッションの点検を求める飛行安全通達を経て、10月の機体の飛行停止へと、段階的に広がりました(表1)。
表1:2026年のAH-64をめぐる主な出来事
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年10月〜2026年3月 | クラスA事故の1件でトランスミッションの重大な故障(Flightfax) |
| 2026年4月 | 内部の安全文書。AH-64EのIDSメイン・トランスミッションのうち、不具合の可能性があるトランスミッション70基を特定し、該当機を飛行停止(報道) |
| 7月中旬 | 対象のトランスミッションに10基を追加(報道) |
| 8月12日 | フォート・フード近郊でアパッチが墜落、2名死亡(トランスミッションが原因ではない) |
| 8月14日〜19日 | アパッチの訓練飛行を停止 |
| 時期不明 | すべてのAH-64Eのトランスミッションの点検を求める飛行安全通達(報道) |
| 10月2日 | IDSトランスミッションを搭載したAH-64Eの飛行を停止 |
※出典:米陸軍の発表、Flightfax、各報道をもとに筆者が作成
陸軍の発表は、対象の機数や期間を示していません。米国の報道によれば、陸軍当局者は、世界規模の点検を行う間、最低限の能力を維持するため、部隊の間で機体を再配分する必要があるとしています。
陸自のAH-64Dとの違い
陸上自衛隊は2001年にAH-64DをAH-1Sの後継機に選定し、62機の調達を構想していました。しかし、ボーイングがブロック2の製造を中断したため、2007年に13機で調達を打ち切りました。2018年2月の墜落事故で1機を喪失し、2026年3月末時点での保有数は12機です。
2026年10月11日時点で、陸上自衛隊や防衛省が今回の飛行停止に言及した発表は見当たりません。AH-64を運用する米国以外の国で、飛行停止を報じたものも見当たりません。AH-64は、米国のほか18か国で運用されています(表2)。
表2:AH-64の運用国と機数
| 国 | 運用組織 | 機種と機数 |
|---|---|---|
| 米国 | 陸軍 | 750機(AH-64D 約160機、AH-64E 約590機。2025年1月時点) |
| アラブ首長国連邦 | 空軍 | AH-64D/E 28機 |
| イスラエル | 空軍 | AH-64A/D 48機、AH-64E 30機を発注 |
| インド | 空軍 | AH-64E 22機(2020年7月時点) |
| インド | 陸軍 | AH-64E 6機(2025年12月時点) |
| インドネシア | 陸軍 | AH-64E 8機 |
| 英国 | 陸軍 | AH-64E 50機 |
| エジプト | 空軍 | AH-64D 46機 |
| オーストラリア | 陸軍 | AH-64E 29機を発注、6機を受領 |
| オランダ | 航空宇宙軍 | AH-64E 28機 |
| カタール | 空軍 | AH-64E 24機 |
| 韓国 | 陸軍 | AH-64E 36機(追加の36機の売却を米国が承認) |
| ギリシャ | 陸軍 | AH-64A/D 28機 |
| クウェート | 空軍 | AH-64D 24機 |
| サウジアラビア | 陸軍 | AH-64A/D/E 47機 |
| サウジアラビア | 国家警備隊 | AH-64E 12機 |
| シンガポール | 空軍 | AH-64D 19機 |
| 台湾 | 陸軍 | AH-64E 29機 |
| 日本 | 陸上自衛隊 | AH-64D 12機 |
| ポーランド | 陸軍 | AH-64E 96機を発注、AH-64D 8機をリース |
| モロッコ | 空軍 | AH-64E 24機を発注(ほかに12機のオプション)、12機を受領(2026年4月時点) |
※出典:Wikipedia英語版「Boeing AH-64 Apache」(2026年10月11日閲覧)をもとに筆者が作成。モロッコは報道で補った。米陸軍のAH-64Dは、その後の退役で減少している
今回の飛行停止の対象は、IDSのトランスミッションを搭載したAH-64Eです。IDSはブロック3で採用された駆動方式で、ブロック2である陸自のAH-64Dは、従来型のトランスミッションを搭載しています(表3)。このことから陸上自衛隊は、その保有するAH-64Dについて、今回の措置の対象ではないと判断していると考えられます。
表3:米陸軍のAH-64Eと陸自のAH-64Dの比較
| 項目 | 米陸軍のAH-64E | 陸自のAH-64D |
|---|---|---|
| 区分 | ブロック3 | ブロック2 |
| トランスミッション | IDS(スプリット・トルク方式) | 従来型 |
| 減速の段数 | 3段 | 4段 |
| 保有数 | 約700機(アパッチ全体。2023年) | 12機(2026年3月末) |
| 今回の措置 | 約400機が飛行停止(報道) | 対象外と考えられる |
※出典:米陸軍の発表と記事、国会答弁、防衛白書、各報道をもとに筆者が作成
本記事の略語
| 略語 | 英語 | 意味 |
|---|---|---|
| IDS | Improved Drive System | 改良型駆動システム |
| NASA | National Aeronautics and Space Administration | 米航空宇宙局 |
※この記事は、2026年10月11日時点で公表されていた資料に基づいて執筆したものです。
関連リンク
米陸軍|Army Orders Temporary Grounding for AH-64E Apache Helicopters for Inspection Purposes(2026年10月2日)
Military Times|Latest AH-64 Apache grounding likely to last months, officials say(2026年10月7日)
Defense One|Army probes Apache transmission problem as service rushes to ditch older helicopters(2026年5月19日)
Aviation Assets|2026年度上半期航空事故レビュー(Flightfax)
米陸軍|Apache helicopter lauded for rich improvement(2010年7月8日)
NASA|Helical Face Gear Development Under the Enhanced Rotorcraft Drive System Program(NASA/TM-2011-217125)
Wikipedia英語版|Boeing AH-64 Apache(Operators)
出典:Aviation Assets 2026年10月11日
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