パレット1枚、パネル1枚――任務の成否を分ける紙一重

2024年の初め、劣悪な環境の前方地域に展開していたAH-64アパッチ・ヘリコプター2機の編隊が、月照度がほとんど、あるいはまったくない夜間に、ユーフラテス川沿いで通常の情報・監視・偵察(intelligence, surveillance and reconnaissance, ISR)任務を数時間にわたって実施していました。任務が進むにつれ、空中部隊指揮官(air mission commander, AMC)は、現場での滞空時間を延ばすため、編隊をいったん任務空域から離脱させ、弾薬燃料再補給点(forward arming and refuel point, FARP)を併設する川沿いの前哨基地で、計画どおり給油させることにしました。2機は到着を通報して行動予定を伝え、ショート・ファイナルで着陸前点検と所定の手順を開始しました。各機は30秒の間隔をとった縦列編隊で、1機ずつ弾薬燃料再補給点に進入しました。長機は無事に着陸し、後続の2番機は、隣接する南側の弾薬燃料再補給点のパッドへの進入を開始しました。
進入中、副操縦士/射手(copilot-gunner, CPG)は、目標捕捉・指示照準装置(Target Acquisition and Designation Sight, TADS)でパッド上に危険がないかを確認していました。ヘリコプターが減速しながら降下し、進入の最終段階に入ったとき、副操縦士/射手は、大きな木製パレットがパッドの端に無造作に放置されていることに気づきました。最近の補給便で基地に物資を輸送した際に使われたものと思われます。そのパレットは、進入中の機体の前方で宙に浮き上がり始めていました。機体はこのとき低高度にあり、対気速度は有効な転移揚力(effective transitional lift, ETL)が得られる速度を下回っていたため、ローターの吹きおろしが地面で渦を巻き、再びローターに吸い込まれる再循環が起きていました。そのわずか数か月前には、別の弾薬燃料再補給点で、MH-47チヌークが固定されていなかった防水シートを吸い込み、重傷者を出し、大破していました。
副操縦士/射手は直ちに操縦担当操縦士に危険を知らせ、進入を中止するよう指示しました。パレットはローター・ウォッシュによって吸い上げられ、メイン・ローター・システムに丸ごと吸い込まれようとしていました。もしそうなっていれば、機体は損壊し、立て直す余地はまったくなかったでしょう。操縦担当操縦士は副操縦士/射手の緊迫した呼びかけに応答し、直ちに着陸復行しました。搭乗員はすぐさま前哨基地の戦術航空統制班(tactical air control party, TACP)に連絡し、障害物の内容と場所を明確に伝え、直ちに撤去するように要請しました。
戦術航空統制班に障害物のことを伝えている間、機体はまったくの無防備な状態に置かれていました。機体は前哨基地の周囲を旋回して待機しなければなりませんでしたが、基地はユーフラテス川沿いの敵陣地に極めて近かったため、敵の小火器射撃、対戦車ロケット弾(rocket-propelled grenade, RPG)、さらには複数の対空火器の脅威に絶えずさらされることになりました。そのうえ、旋回待機を1分続けるごとに燃料が減り、各機の燃料は「ビンゴ」、すなわち、それを下回れば給油をあきらめて北方の主作戦基地へ引き返さなければならない最少の燃料量に近づいていきました。
何度も旋回を重ね、地上の統制員と調整を続けた末に、ようやくパレットをパッドから撤去したとの確認が得られました。危険が取り除かれたので、2番機の搭乗員は慎重に2回目の進入を開始しました。今度は何事もなく着陸し、給油作業を開始しました。
地上の給油要員との意思の疎通は、すべて言葉を使わず、手信号と灯火信号だけで行い、給油量、作業の状況、緊急事態の有無を伝え合いました。給油が完了すると、2機は基地防空圏(base defense zone)を離れ、北方の自隊の基地へ向かいました。
帰投してエンジンを停止した後、搭乗員は飛行後点検を開始しました。搭乗員の1人が機体の周囲を点検していたところ、給油口のパネルがそっくりなくなっていることに気づきました。誰もがまず、パネルは飛行中に外れ、シリアのどこかに落ちたのだろうと考えました。即応対処部隊(quick reaction force, QRF)としての即応態勢を維持することが急務であると判断した搭乗員は、直ちに整備員に知らせ、元の機体から装具を降ろして、あらかじめ指定されていた予備機の飛行前点検と地上試運転を開始しました。
搭乗員が予備機の地上試運転をしている間に、整備担当の下士官の1人が元のアパッチを詳しく調べました。すると、給油口のパネルはシリアの砂漠のどこかでなくなったのではなく、気流に引き込まれてエンジン・ナセルの下に入り込み、エンジンの排気口のすぐ下に挟まっていたことが分かりました。搭乗員は、そうとは知らないまま、異物損傷(foreign object damage, FOD)の原因となる大きな異物が、高温になるエンジンの重要な構成品に接して挟まったままの状態で、帰投飛行を終えていたのです。直ちに指揮系統に報告が上がり、その内容はたちまちアメリカ中央軍(U.S. Central Command, CENTCOM)の作戦地域内のすべての拠点に広まりました。一歩間違えば大惨事となるところだったこの不安全を受けて、弾薬燃料再補給点の全要員を直ちに再教育するよう指示が出されました。異物損傷の危険性と、手順を厳守することの重要性を改めて徹底するもので、弾薬燃料再補給点の異物点検を適切に行うことや、整備や給油などの作業を終えたときに機体のすべてのパネルが固定されていることを確かめることも含まれています。
この不安全は、軍の航空において、惨事に至る一連の出来事が、ごく小さな見落としから始まることが多いということを改めて思い起こさせるものでした。無造作に置かれたパレットに始まり、固定されていなかった給油口のパネルが追い打ちをかけたこの事案は、警戒を怠ってはならないという基本的な真理を浮き彫りにしています。飛行前点検から給油後の点検に至るまで、すべての行動が、生き残るために欠かせない鎖の輪なのです。
翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人
備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。
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