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テクニカルトーク:軍用派生型機への取り組みがもたらすもの

軍属 ダニエル・マクリントック

TH-67が導入されて以来、陸軍航空パイロットの誰もが軍用派生型機(Commercially Derived Aircraft, CDA)との関りを持つようになりました。

FAA(Federal Aviation Administration, 連邦航空局)によれば、軍用派生型機とは、アメリカ軍での作戦運用に合わせて改修された民間機と定義されています。陸軍は、法により、その保有する航空機について、安全性を確保することが義務付けられています。航空企業は、陸軍および友好国の迅速かつ効果的な戦力向上に寄与するため、軍用派生型機の活用を推奨しています。この軍用派生型機の活用には、いくつかの課題があるものの、陸軍に大きな利点をもたらしています。

最大の利点は、軍用派生型機を活用することにより、航空機の納入までに必要な期間を大幅に短縮できるということです。多国籍航空機特別プロジェクト・オフィス(Multi-National Aircraft Special Project Office, MASPO)は、民間機を改修することにより、わずか9か月の開発・生産期間で24機の武装したMD 530(写真)をアフガニスタン空軍に供給できました。耐空性の承認が完了している状態から生産を開始できることが、大きな優位性をもたらしたのです。

ただし、軍用派生型機の活用には、課題となりうる通常の陸軍機との相違点がいくつかあります。

第1に、民間機における耐空性維持のための指示書は、陸軍における安全通達とは違っているということです。軍用派生型機の安全性を確保するためには、サービス・ブリテンや耐空性改善命令などの通知に従うことが必要な場合があります。プログラム・マネージャーの技術スタッフや航空設計部局(Aviation Engineering Directorate)は、これらのFAAの手続きに沿った通知を把握して陸軍の手続きに取り込み、安全性を確保するための正しい情報と方法を各部隊に提供しなければなりません。

第2に、陸軍とは異なり、FAAは耐空性に関する技術データを自ら保有していないということです。技術データを整備する責任は、型式証明や追加型式証明を受けた企業などにあるのです。このため、陸軍におけるMEC(Maintenance Engineering Call, 整備技術要求、陸上自衛隊の航空機等技術指令書に相当)(通常実施するものとは異なる整備の実施を指示する通知)や補給処レベルの修理基準の発簡は、FAAの手続きによる通知よりも、より迅速に行うことができています。MECは、72時間以内に発簡されるのが通常です。FAAの継続的な耐空性維持プロセスを陸軍機に適用するためには、その機体の製造会社やFAAの関連部署との確実な連携が必要になります。

最後に、陸軍における安全性の確保のためには、陸軍での教訓を反映した要求事項が必要になるということです。民間機よりも厳しい要求事項が必要となる例としては、作戦環境から得られた教訓に基づく131℉(55℃)以上の環境における運用(FAAは、それ以上の温度環境下における運用を禁止している)、耐衝撃性、ヘリコプターの燃料タンクの耐弾性、システムのより高い耐電磁干渉性などを挙げることができます。

FVL(Future Vertical Lift, FVL)においては、過去に例を見ない速さで装備化を進める必要があります。軍用派生型機の活用がもたらす最大の収穫は、FVL製造企業において用いられている陸軍とは異なる安全性確保のための措置を陸軍の技術者が経験できることかもしれません。軍用派生型機の活用は、航空企業における安全確保のための手法をより広く知り、陸軍の安全確保基盤を改善する機会を与えてくれています。それぞれの軍用派生型の装備化に取り組むことによって、陸軍航空システムの複雑化に対応し、安全性の確保に革新をもたらすという我々の最終目標を実現するための方策を学ぶことができるのです。

ダニエル・マクリントックは、アラバマ州レッドストーン工廠にあるアメリカ陸軍戦闘能力開発コマンド航空及びミサイルセンター航空設計部局の非標準回転翼部で勤務している軍属である。

                               

出典:ARMY AVIATION, Army Aviation Association of America 2019年07月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

備考:本記事の翻訳・掲載については、出典元の承認を得ています。

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1件のコメント

  1. 管理人 より:

    Commercially Derived Aircraft(CDA)の訳語に悩みました。陸上自衛隊でいうとLR-2やEC-225、TH-55などが該当するのですが、これらを言い表す用語が思いつきませんでした。最初は、「民間派生型機」としていたのですが、Wikipediaに「軍用派生型機」の用語があったので、こちらを採用しました。民間機の側から見た呼び方なので、軍用機側から見ると違和感があるかもしれません。他に何か良い訳語があれば教えてください。