AVIATION ASSETS

陸軍航空の情報センター

FVLにティルトローターを採用するな!

元V-22テスト・パイロットの意見から

スコット・トレイル

ほとんどの退役軍人は、自分たちが慣れ親しんできた装備品をほめちぎるものです。しかし、海兵隊のV-22テスト・パイロットであったスコット・トレイルは、将来の垂直離着陸機について、長距離任務を行う海兵隊にはティルトローターが適しているが、陸軍には複合ヘリコプターのほうが適していると言います。なぜなのでしょうか? ぜひ、お読みください! -編集者

重量物をスリングして飛行するデファイアントX複合ヘリコプター

レーガン時代のUH-60ブラックホークの後継機として調達するのは、はたしてどのような航空機であるべきなのであろうか? 3月30日、陸軍は、そのFVL(Future Vertical Lift, 将来型垂直離着陸機計画)の一部を形成するFLRAA(Future Long Range Assault Aircraft, 将来型長距離強襲機, フローラと発音する)プログラムについて、候補機をティルトローターであるベル・テキストロンV-280バロー複合ヘリコプターであるシコルスキーボーイングデファイアントXの2機種に決定し、次の段階に移行すると発表した。

私がこれまでの研究してきたこと、および海兵隊でティルトローター・テストパイロットとして経験してきたことに基づけば、陸軍が自らの任務をより確実に遂行し、かつ費用を軽減したいと思っているなら、複合ヘリコプターであるデファイアントXをFLRAAに選定すべきである。

その理由は、ティルトローターは優れた高高度巡航性能を有するが、敵の対空火力を回避するため、低空飛行が主体となる将来の高強度戦争においては、その性能を発揮することが困難になるからである。また、複合ヘリコプターは、低高度での機動性能、高温・高高度環境でのホバリング性能、および密集隊形での飛行能力の点で、ティルトローターよりも優れている。さらに、H-60プラックホーク・シリーズから複合ヘリコプターへの機種転換に必要な訓練・施設費は、ティルトローターへの機種転換よりもはるかに小さくてすむのである。

任 務

長距離強襲任務においては、200フィート(約61メートル)以下の高度を高速で飛行し、地上部隊を降着地点に降着させなければならない。その際、奇襲効果を維持して敵を直ちに制圧するためには、目標への着陸を迅速に行うことが重要である。

海兵隊は、既に、ティルトローターであるV-22を長距離強襲機として保有している。陸軍も、海兵隊の決定に追従し、ティルトローターを採用すべきであると考えるむきも多いであろう。しかし、海兵隊と陸軍では任務が異なる。ティルトローターは、「我が国の戦争において戦い、かつ勝利する…多様な危機および紛争に即応し、強襲上陸作戦を遂行する」という海兵隊の任務に基づいて採用された。それは、特に広大な太平洋地域において「戦争に勝利し、危機に即応し、強襲上陸を遂行」するためには、遠くまで速く飛べる航空機が必要だからである。

これに対し、FLRAAが支援対象とする陸軍は、海兵隊とは異なり、「…我が国の戦争に勝利するために…敵が最も必要とするものを無期限に獲得し、制御する…」ことを任務としている。戦争に勝利し、資源を無期限に獲得し、制御するためには、迅速に戦闘展開し、展開後の作戦を継続できなければならない。そのために重要なのは、密集隊形での飛行能力および高度なホバリング能力であり、これらの能力の発揮を得意とするのは、複合ヘリコプターなのである。

隠密に着陸

中国が誇る高度な防空組織を潜り抜けて敵地に侵入するためには、低高度を飛行することが必須となる。V-280は、確かに高高度で巡航すれば燃料消費量が少ないものの、低空飛行ではデファイアントX複合ヘリコプターに対する優位性が損なわれてしまう。また、確かにエアプレーンモードでは騒音が低いものの、第一線部隊からの報告によれば、着陸のために形態を変更すると、「地獄のように騒々しい」。地上部隊がヘリコプターの接近を察知するのは、音による場合が多い。つまり、騒音が大きいほど、敵が我の接近に備えたり、我を撃墜したりするために利用可能な時間が長くなってしまうのである。

迅速な戦闘展開

V-280とデファイアントXは、いずれも、これまでの機体にはない革新的な高速・長距離飛行能力を有している。しかし、迅速な戦闘展開は、速度だけでは実現できない。密集隊形で飛行し、地積が制約された降着地域に着陸できることも重要なのである。

第101空挺師団によると、H-60ヘリコプターが安全に着陸するために必要な各機の間隔は、わずか30メートル(98フィート)である。これに対し、V-22は、その2.5倍以上の76メートル(250フィート)の間隔がなければ、安全に着陸することができない。

もちろん、この間隔の増大は、意図的に要求されたものではない。2012年6月、空軍の特殊作戦用機CV-22が墜落した原因は、後続のCV-22が先行していたCV-22のローターウォッシュ内を飛行したことにあった。CV-22よりも小型のV-280は、編隊飛行時の各機の間隔をそれよりも小さくできるものの、デファイアント複合ヘリコプターに比べれば、より大きな間隔が必要であろう。重要なことは、ある大きさの降着地域を使用する場合、各機の間隔が増大しても同じ戦闘力を展開するためには、降着の回数を増加せざるを得ず、敵火に対して脆弱(ぜいじゃく)となる機会を増加させ、兵士たちの危険度を増大させてしまうことである。

展開後の作戦継続

陸軍の作戦は、戦闘展開が完了したならば、展開後の作戦継続の段階へと移行する。この段階において重要となるのは、起伏の多い地形でのホバリング能力と機動能力である。V-280よりも大型の同軸反転ローターを備えたデファイアントXは、特に高標高高温環境下において、より高いホバリング効率および性能を発揮できる。このため、V-280よりも大きな余剰馬力を確保でき、より多くの人員や貨物を輸送することができるのである。

ライフサイクルコスト

議会予算局(CBO)は、238億ドルから476億ドルの費用をもって、450機から900機のFLRAAを調達できるものと見積っている。しかし、陸軍が現在保有している2,279機のH-60を換装するためには、より多くのFLRAAが必要になるであろう。これだけ機数が多いと、各機の維持費の増加は、たとえそれがわずかであっても、予算の大幅な増加をもたらすことになる。ディフェンス・アクイジッション大学によると、一般的に、ライフサイクルコストの72%は維持費によって占められるという。FLRAAプログラムを成功に導きたいのであれば、この費用を無視すべきではない。それは、H-60からFLRAAの2つの候補機のいずれかに移行するための費用を劇的に変化させる可能性がある。その「移行費用」を軽減するための最善の方策は、H-60の訓練体制および施設装備をそのまま活用できる機体を採用することなのである。

訓 練

ティルトローターであるV-280の飛行特性は独特であり、陸軍は、海兵隊のV-22と同様に、3種類の航空機を操縦できるようにパイロットを訓練しなければならない(最初はヘリコプター、次に固定翼機、そしてティルトローター)。そのためには、現行の32週間の軍用ヘリコプターに関する教育に加えて、20週間の双発機に関する教育ならびに20週間のティルトローターのシミュレーターおよび実機訓練が必要となる。ティルトローターのパイロットを育成するために必要な期間は、実に1年半におよぶことになる。また、この訓練を実施するためには、航空機、教官、設備、および施設の追加が必要となる。もちろん、複合ヘリコプターもそれ自体に固有の訓練を必要とするが、双発機に関する訓練が不要となるなど、ティルトローターよりもはるかに負担が小さくてすむのである。

施 設

デファイアントXのローター直径は、H-60の53フィート8インチ(約16.36メートル)とほぼ同じであり、駐機場や格納庫の大きさは今までどおりでよく、新規に施設を建設する必要がない。これに対し、V-280バローの全幅は81.8フィート(約24.93メートル)で、デファイアントXよりも45%大きい。このため、格納庫や駐機場を拡張する必要がある。6機のV-280を保有する部隊の場合、格納庫や駐機場の幅を約150フィート(約46メートル)拡張しなければならない。900機のティルトローター全体では、約4マイル(約6キロメートル)以上も拡張しなければならないのである。

シコルスキー・ボーイングのSB>1デファイアント(訳者注:デファイアントXの技術実証機)複合ヘリコプター(左)およびベル・テキストロンのV-280バロー・ティルトローター(右)

結 論

確かに、FLRAAに求められる要件のうち速度と航続距離に関しては、ティルトローターの方が勝っている。ただし、迅速な戦闘展開および展開後の作戦継続に関しては、ホバリング性能および密集隊形での飛行能力に優れた複合ヘリコプターの方が勝っている。緊要な時期と場所において最高の性能を発揮でき、ライフサイクルコストを最小限に抑えながら陸軍の任務を最大限に支援できるのは、複合ヘリコプターのデファイアントXなのである。

スコット・トレイルは、元海兵隊のCH-46EヘリコプターパイロットおよびV-22開発テスト・パイロットであり、実験テスト・パイロット協会のメンバーです。なお、2014年から2015年までの間、シコルスキー社において、国防長官の企業フェローとして勤務していましたが、シコルスキー社、ボーイング社、またはベル社から報酬を得たことはありません。

                               

出典:Breaking Defense, Breaking Media, Inc. 2021年04月

翻訳:影本賢治, アビエーション・アセット管理人

アクセス回数:5,152

コメント投稿フォーム

  入力したコメントを修正・削除したい場合やメールアドレスを通知したい場合は、<お問い合わせ>フォームからご連絡ください。

2件のコメント

  1. 管理人 より:

    「Rapid Build Up of Combat Power」→「迅速な戦闘展開」
    「Sustained Operations」→「展開後の作戦遂行」
    と訳しています。
    教範が手元にあれば、もっと適切な訳語が見つかりそうな気がするのですが...

  2. 管理人 より:

    ひょっとすると、そもそも海兵隊には「陸軍に同じ装備品を使ってもらいたくない」という思いがあるのかもしれません。

    「ドリーム・マシーン」には、次のような記述があります。
    海兵隊が欲しがっていたのは、24名の兵士を運べる飛行機であった。使える強襲揚陸艦の数に限りのある海兵隊は、標準的な強襲作戦に必要な兵力を一挙に空輸できる大きさの航空機を必要としていた。それに、海兵隊が12名の兵士しか搭乗できない航空機を調達することに同意したならば、国防総省はシコルスキー社のUH-60ブラック・ホーク・ヘリコプターを調達するように要求するに違いなかった。すでに陸軍で運用されているブラック・ホークは、ちょうどそれくらいの大きさのヘリコプターであり、ティルトローターよりも安く調達できるからである。数年間にわたって海兵隊にティルトローターを売り込んできたスパイビーは、海兵隊は陸軍と同じヘリコプターを買おうとしない、と思うようになっていた。「陸軍と同じものを調達すればするほど、陸軍に取り込まれてゆく」からである。